第6話 ゴブリンスレイヤー

「お前を奴隷から解放する」

「えっ……? も、もしかしてニーナ、いきなり捨てられてしまうのです!?」

「いや、そういう意味じゃない。俺の故郷には奴隷という制度が無かったんだ。だから本当は俺は奴隷を持たない主義なんだよ」

「そう、なのです……?」


 俺はニーナの腕を取り、手首に嵌められている腕輪に手を添える。

 これは奴隷の証しとなる魔導具だ。無理に外そうとすると激痛が走るため、主人にしか外すことができないようになっている。


 外れた腕輪がぽとりと地面に落ちた。

 あまりにも呆気なく奴隷から解放され、ニーナはしばしそれを呆然と見下ろしていたが、


「ほ、本当に、ニーナは奴隷じゃなくなったのです……?」

「そうだ」

「ゆ、夢みたい、なのです……」

「夢じゃない」

「うわああああっ、ご主人さまぁぁぁぁっ!」


 ニーナが俺の胸に飛び込んできた。


「ご主人さまぁぁぁぁっ、一生ついて行きますぅぅぅ~~~~っ!」

「いや、もう俺はご主人様じゃないんだが……」 





 ニーナは両親の顔は知らず、物心ついた頃にはすでに鉱山奴隷だったそうだ。

 ドワーフは〈採掘〉のスキルに目覚める者が多いため、鉱山奴隷として売られることが多いという。


 だが鉱石を採り尽くしてしまったために廃鉱となり、彼女は転売されることになった。

 そしてこの街の奴隷商に売られたのだが、不運にも病気になってしまい、説明はされずとも自分の運命を悟って絶望していたまさにそのとき、俺がやってきたというわけだ。


「死にかけていたニーナを助けていただいたばかりか、自由にしていただいたのです! ご主人さまには感謝してもし切れないのです! ニーナは一生をかけて、このご恩に報いていきたいのです!」


 せっかく自由な身分になったというのに、ニーナはそう決意を表明してくる。

 まぁ計算通りなんだけどな。


 ・ニーナ:信仰度 65% → 80%


 俺に対する信仰度はうなぎのぼりである。

 これで逃げられては大損だが、この様子ならそんなことはあり得ないだろう。


 俺は内心でほくそ笑みつつ、真剣な顔で頷いた。


「そうか。ニーナがそれを望んでいるというのなら、一緒に頑張っていこう」

「はいなのです!」


ニーナ

 種族:ドワーフ族

 レベル:7

 スキル:〈採掘+1〉〈投擲〉〈忠誠〉

 称号:元奴隷


 おっ、スキルが増えたぞ。


 Q:〈忠誠〉って?

 A:忠誠を誓う相手の傍にいるとき、ステータスに+補正。


 なかなか良いスキルを獲得したようだ。





 それからも俺たちはゴブリン狩りに精を出した。

 途中からニーナは石だけでなく、短剣も投擲するようになった。石よりも殺傷力が高く、短剣の柄に植物の蔦を巻き付けておくことで回収も容易にしたのでなかなか効率がいい。

 今度、専用の投げナイフを買ってあげたいな。


 ゴブリンへのトラウマがだいぶ無くなってきたようで、接近戦もできるようになった。


 斧の一撃はダメージが大きく、当たりさえすれば一発だ。ただしゴブリンはそれなりに動きが素早く、彼女の大振りの攻撃では躱されてしまうことも多い。

 試しに剣も使わせてみたが、それもしっくりこない。今のところ彼女は接近戦に向いていないようなので、基本的には投擲での奇襲と、遠距離からのサポートに徹してもらうことにした。


 俺のレベルが10に、ニーナのレベルが8に上がった。

 やはり前回10に上がったときより、レベルの上がりが早いな。

 通常、パーティで戦うと効率が良い反面、経験値が分散されてしまう。だが俺が〈賜物授与〉というスキルを持っているため、そのデメリットの大部分が打ち消されているのだ。


 つまり、信仰度の高い仲間を増やせば増やすほど、俺は効率よく経験値を稼いで強くなっていくことができるというわけだ。

 とは言え、あまり仲間と実力差が離れるとやりにくい。ニーナ経由で獲得した経験値を、ちょくちょく彼女に還元させていくべきだろう。


「しかし、この辺りのゴブリンは狩り尽くしてしまったみたいだな」


 ゴブリンを倒しまくったせいか、遭遇率が下がってしまっていた。

 とは言え、森は広い。万一のことを考え、今までは比較的森の入り口に近い場所しか探索していなかったが、もっと奥に足を伸ばせばまだまだゴブリンは沢山いるだろう。

〈神眼〉があれば大よその現在地は分かるしな。


 俺たちはさらに森の奥へと分け入っていく。


「お、洞窟だ」

「ゴブリンもいるです」


 ・ゴブリンの巣。


 Q:ゴブリンの巣って?

 A:最も力のあるゴブリンの群れが棲息していることが多い。


〈神智〉で調べたところによると、ゴブリンの多くは五~十匹程度の群れを作っており(群れからハブられたぼっちも相当数いるそうだ)、その群れの中でも序列が存在しているらしい。そして序列の高い群れが、ああした洞窟を住処にしていることが多いのだという。


 洞窟の左右には見張りらしきゴブリンたちが立っている。


 種族:ゴブリンソードマン

 レベル:8

 スキル:〈剣技+1〉〈盾技〉〈勇敢〉


 種族:ゴブリンランサー

 レベル:8

 スキル:〈槍技+1〉〈動体視力〉


 Q:ゴブリンソードマンって?

 A:剣技に長けたゴブリンの上位種。レベル5以上で進化する可能性がある。


 Q:ゴブリンランサーって?

 A:槍技に長けたゴブリンの上位種。レベル5以上で進化する可能性がある。


 ゴブリンの上位種か。ホブゴブリンより身体が小さくて筋力値も低いが、敏捷値が高い。

 それにまだ俺が持っていないスキルを持っているな。


「ニーナ。足を狙うんだ。トドメは俺が刺す」

「は、はいなのですっ」


〈死者簒奪〉は俺自身が敵を倒さないと、スキルを奪うことができない。ニーナの投擲で仕留めてしまわないよう、念のため足を狙ってもらうことにした。


 ニーナが投げた短剣が、左にいたゴブリンランサーの足に突き刺さった。

 そのときにはもう、俺は走り出している。狙いはもちろん足にダメージを負ったゴブリンランサーの方だ。ゴブリンソードマンが加勢しようとするも、ニーナが石を投げて牽制する。


 俺の剣がゴブリンランサーの首を掻き切った。

 振り返りざま、背後に迫りつつあったゴブリンソードマンへ水平斬り。それは盾で受け止められたが、〈怪力〉に任せて強引に降り抜いて盾を吹き飛ばす。

 繰り出された斬撃を躱し、喉首に剣先を突き入れた。


レイジ

 種族:人間族(ヒューマン)(邪神)

 レベル:10

 スキル:〈神眼〉〈神智〉〈献物頂戴〉〈賜物授与〉〈死者簒奪〉〈物攻耐性〉〈自己修復〉〈突進〉〈剣技〉〈逃げ足〉〈槍技〉〈木登り〉〈怪力〉〈毒耐性〉〈盾技〉〈勇敢〉〈動体視力〉

 称号:神殺しの大罪人 駆け出し冒険者


 よし、新しいスキルが手に入ったぞ。


 ・鋼の盾


 ゴブリンソードマンが持っていた盾は拾っておくことにした。あまり盾を使うのは好きではないのだが、何かに使えるかもしれない。売れば金になるだろうしな。


 たぶんこの洞窟の中には、さらに強力なゴブリンがいるだろう。

 俺たちは洞窟内へと足を踏み入れた。

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