第4話 最初の仲間(しんじゃ)
ハイポーションは金貨1枚。少女の値段も金貨1枚だった。
確かにこれではハイポーションを使うと何の利益も出なくなる。
「しかし本当によろしいのですか? お客様が望まれる戦闘用として、あまり適当な種族ではありません。力は人間族より少し強いですが」
「問題ない。それより早く薬を持ってきてくれ」
俺は金貨2枚を手渡した。
店員が下男らしき男にハイポーションを取りに行かせる。
「……?」
ドワーフの少女が俺の前へと連れて来られた。状況が分かっていないのか、不思議そうな顔をしていた。
俺はハイポーションを少女に渡した。
「ハイポーションだ。これでお前の病気は治る」
「あの……ニーナを、助けてくれるのです……?」
「ああ」
「ど、どうしてなのです……?」
「俺がお前を買ったからだ。せっかく買った奴隷を死なせるわけにはいかないだろ?」
「……」
不思議そうな顔をしつつも、少女――ニーナはハイポーションを飲みほした。
効果が出るまでしばらくかかるらしいので、その間に、俺は他の奴隷も見せてもらうことにした。
まずは戦闘用の奴隷から。
いかにも屈強そうな者たちがずらりと並んでいた。
大半が男だが、女も少なくない。この世界では戦闘能力において必ずしも女が男に劣るという訳ではないらしい。
店員が資料を見せてくれるが、そこに載っている情報は「剣術が得意」とか「元傭兵」だとか、かなりざっくりとしたものだけだ。
俺には〈神眼〉があるので、それで全員のステータスを見ていった。
そんな中、一人の少女が目に留まった。
綺麗な白銀の髪に、怖ろしく端正な顔立ち。しかしどこか眠そうな目をしている。年齢は十五、六歳くらいだろうか。
特筆すべきは、頭のてっぺんに獣耳が付いていることだろう。もふもふしたら気持ちよさそうだ。
ファン
種族:犬人族
レベル:23
スキル:〈剣技+3〉〈二刀流+3〉〈俊敏+2〉〈体術+1〉〈嗅覚+2〉〈闘気〉
称号:奴隷 英雄の卵
やっぱり獣人だ。しかしまだ十代だろうに、結構レベルが高い。
+2とか+3とか言うのは、スキルが熟達していけば付くものらしい。だがそう簡単に熟達するものではないようで、あそこまで成長しているというのも、彼女のような年齢では珍しい。才能があるということだろう。
しかし〈二刀流〉や〈闘気〉といったスキルにもそそられるが、何より気になるのは称号の「英雄の卵」だった。
Q:称号の英雄の卵って?
A:英雄に成り得る器の持ち主。経験値や熟練値が入りやすいなど、様々な補助効果がある。
未来の英雄か。
この奴隷はぜひとも手に入れたいな。
「お客様、お目が高いですね。犬人族は忠誠心の強い種族で、身体能力も高い。そのため戦闘用の奴隷として非常に人気があります」
「彼女の値段は?」
「金貨40枚です」
高い。とてもじゃないが足りない。
訊いてみると、戦闘用の奴隷はそもそも高価なものらしい。加えてこの見た目だ。この店の商品の中でも一、二を争う高額商品のようだ。
ニーナを買った俺には、金貨1枚と銀貨30枚の残金しかない。いや、ニーナを買っていなくても足りなかった。まぁ分かっていたことだが。
だがどうしても彼女は欲しい。
「金貨50枚出そう。その代り、一週間待ってくれないか? 今やっている依頼を無事に終わらせることができれば、ちょうど金貨50枚が入ってくるんだ」
嘘です。そんな依頼受けてません。
俺の提案に、店員はしばし迷う素振りを見せた。だが先ほど一人購入したこともあって信頼できる客だと判断したのか、最後は頷いてくれた。
元の部屋に戻るとニーナが迎えてくれた。随分と顔色が良くなっている。ハイポーションが効いたようだ。
こうして元気になった姿を見ると、くりくりした目が可愛らしい、なかなかの美少女だった。
ちなみに見た目は十歳くらいだが、実年齢は十五歳だという。
「ご、ご主人さまっ……これからよろしくお願いしますなのですっ」
ぺこりと頭を下げてくる。
「俺はレイジだ。こっちからもよろしく頼む」
応じつつ、彼女を〈神眼〉で見た。
・ニーナ:信仰度 0% → 50%
……くくく。
口端が自然に吊り上がり、思わず笑みが零れてしまう。
どうやら俺の選択は間違っていなかったようだな。
信仰度というのは、俺に対する信仰の度合いのことだ。分かりにくければ、恋愛シミュレーションゲームなんかの好感度みたいなものと考えてくれたらいい。
神の力を持つ俺にとって、この信仰度は重要だ。
俺が持つスキル〈献物頂戴〉についての説明が必要だろう。
Q:〈献物頂戴〉って?
A:信者が自らの力で得た経験値の一部を獲得できる神固有のスキル
Q:経験値の一部って、具体的にはどれくらい?
A:獲得経験値×信仰度
例えばニーナが100の経験値を得たとしよう。
すると現在、信仰度が50%なので、50の経験値が俺に入るということになる。もちろんニーナに入る経験値は100のままだ。
つまり、俺は信者を増やせば増やすほど強くなることができるということ。
ここは恐らく前世よりも危険な世界だ。魔物がいるくらいだしな。だから可能な限り強くなっておくべきだろう。
それに、あのクソ天使は心配は要らないと言っていたが、いつ他の神たちに神殺しのことを知られてしまうか分からないしな。
「ご主人さまは戦闘用の奴隷を探していたと聞いたのです。でもニーナは、戦いの経験がないし、そもそもドワーフなのです。……それなのにどうしてニーナを買ってくれたのです?」
「そうだな……」
1.「実は俺、ロリコンなんだ」真剣な顔で。
2.「ただの気紛れだ」ぶっきら棒に。
3.「処分されると聞いて、つい助けてしまったんだ。元気になって良かったよ」
1は論外だろ。逆に信仰度が下がりそうだ。
2もダメだな。なにカッコつけてんだ。そういうキャラがウけるのは乙女ゲームの世界だけだ。
「処分されると聞いて、つい助けてしまったんだ。元気になって良かったよ」
「……ご主人さまは、優しい人なのです」
・ニーナ:信仰度 50% → 55%
おっ、信仰度が上昇した。
ふっふっふ、チョロイもんだぜ。
実際には、死にかけているところを助けてやれば信仰度が上がるはずだと考えたからなのだが、予想通りだな。
そんな打算的な思考など知らず、彼女は俺のことを完全に信じ切ってくれているようだ。
素直そうな子だし、最初の仲間(しんじゃ)としてはちょうどいいだろう。まずは彼女で色々試してみることにしよう。
それにドワーフとは言え、俺には彼女を即戦力にする方法がある。
もちろん俺のもう一つの神スキル、〈賜物授与〉を使うのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます