第3話 異世界行ったら奴隷買う
ファースという街が見えてきたのは、すでに日が傾きかけた夕刻の頃だった。
中世ヨーロッパ風の街並みが赤く染まっている。
「思ったより時間がかかってしまったな」
というのも、森の中でちょっとゴブリン狩りに精を出し過ぎたせいだ。
〈神智〉が教えてくれた通り、あの森には多くのゴブリンが棲息していた。
種族:ゴブリン
レベル:3
スキル:〈剣技〉〈逃げ足〉
種族:ゴブリン
レベル:4
スキル:〈槍技〉
最初は素手だったので苦労したが、一体目を倒してからはだいぶ楽になった。〈剣技〉スキルと武器が手に入ったからだ。
・錆びついた剣
無いよりはマシという程度のものだけどな。
中にはホブゴブリンという、ゴブリンの亜種もいた。
種族:ホブゴブリン
レベル:6
スキル:〈怪力〉
こいつは普通のゴブリンより二回りほど身体がでかく、〈怪力〉というスキルを持っていた。ちょっと苦戦はしたが、どうにか倒すことができた。動きが鈍重だったのが幸いした。
・棍棒
ホブゴブリンが使っていた棍棒も入手できた。けっこう重たいはずなのだが、〈怪力〉のスキルを獲得したせいか、普通に振り回すことができる。
森を出る頃には、レベルが4まで上昇していた。
レイジ
種族:人間族(ヒューマン)(邪神)
レベル:4
スキル:〈神眼〉〈神智〉〈献物頂戴〉〈賜物授与〉〈死者簒奪〉〈物攻耐性〉〈自己修復〉〈突進〉〈剣技〉〈逃げ足〉〈槍技〉〈木登り〉〈怪力〉〈毒耐性〉
称号:神殺しの大罪人
〈逃げ足〉〈木登り〉〈毒耐性〉も、倒したゴブリンが持っていたスキルである。
ファースの街に辿りついた俺は、とりあえず手に入れたアイテムを換金することにした。何せ無一文だしな。
ドロップアイテムは持てるだけ持ってきたので、かなり重い。アイテムを無限収納できるような袋が欲しいな。あるかどうか分からないが。
・冒険者ギルド
街に入ってすぐのところにあった建物を見たとき、俺の〈神眼〉がそう教えてくれた。
恐らくは前世の知識だろうが、俺はすぐにそれがどんな場所なのか理解することができた。ここならアイテムを買い取ってくれそうだ。
ギルド内に入る。人の出入りが激しいからか、俺のことなど誰も見向きもしない。ざっと見渡してみると、やはりいかにも冒険者といった暑苦しい感じの男たちが大部分を占めていたが、意外と女性の姿も多かった。
俺は受付に行き、買い取り希望だと伝える。すると、ギルドに所属する冒険者なら高値で買い取ってくれると教えてくれたので、ついでに冒険者登録もしておくことにした。
やはり大した金額にはならなかった。ゴブリンが落した剣や槍はそれぞれ銅貨10枚。棍棒は銅貨50枚。粘性生物の目玉は銅貨30枚だった。
合計して今日の儲けは銅貨280枚。
平均的な一食の代金が銅貨50枚~70枚くらいらしいので、五食分くらいは食べられそうだ。ただし宿に泊まるお金も必要だろう。
ちなみにこの世界の貨幣だが、銅貨100枚が銀貨1枚に、銀貨100枚が金貨1枚に相当するらしい。
銅貨は十円、銀貨は千円、金貨は十万円と考えれば分かりやすいかもしれない。円っていうのは、俺の前世の通貨単位だ。たぶん。
「ゴブリンの討伐ですと、一体につき銀貨1枚になります。ホブゴブリンは銀貨3枚です」
どうやら登録してから討伐していれば、報酬を貰えたらしい。今さら遅いが。
依頼を受けて成功すれば、報酬を得ることができる。ただし登録したての俺はまだ冒険者ランクが低い。ランクの高い仕事は優先的に上級冒険者が持って行ってしまうため、大した依頼を受けることはできそうになかった。地道にゴブリンを倒している方が儲かりそうだ。
ところで、俺には〈神眼〉があるため魔物の種族を知ることができるが、通常はそんなことは不可能だ。
ではどうやって魔物を判別するのかと言うと、知識である。例えばゴブリンは種族によって耳の形が異なるため、それで見極めているらしい。
報告の際には、部位を持ち帰るなどして証明しなければならない。簡単な判別法がないような魔物の場合、丸ごと持ち帰ることもあるという。
冒険者登録を終え、ギルド証を受け取った俺はギルドを後にする。
宿を探したが、安いところでも一泊が銀貨2枚だった。つまりは銅貨200枚だ。残りは銅貨80枚。懐が寂しいが仕方がない。また明日、魔物を倒して稼ぐことにしよう。
◇ ◇ ◇
翌日から、俺はせっせとゴブリンのいる森に足を運び、ゴブリンの討伐に精を出した。
稼いだ金でちゃんとした武器を揃えることができた。
・鋼の剣:量産品。稀少度コモン
・皮の鎧:量産品。稀少度コモン
もはやゴブリン程度、俺の相手ではない。ホブゴブリンも余裕で倒せる。たぶん単純にレベルが上がり、しっかりした武器を手にしたというだけではこうはいかないだろう。〈死者簒奪〉で得た〈剣技〉や〈怪力〉などのスキルによるアシストの影響が大きいはずだ。
実はゴブリン討伐の報酬以上に、森に生えている薬草の採取がいい稼ぎになった。
・薬草:ポーションなど治療薬の原料になる。
・赤い薬草:薬草より稀少。ポーションなど治療薬の原料になる。
薬草は一束(200グラムくらい)で銀貨3枚、赤い薬草は一束で銀貨10枚に換金できた。
どうやら薬草の見極めは専門的な知識がないとできないらしく、そのため高値で買い取って貰えたのである。
〈神眼〉がある俺にとっては、薬草の見極めなど朝飯前だった。
「よし。そこそこ金が溜まったな」
一週間で金貨3枚と銀貨30枚を稼いだ俺は、ある場所へと足を運んだ。
奴隷商館だ。
もちろん奴隷を買うためである。
もっとも今の所持金では厳しいかもしれないが、大よその相場を確かめておきたかった。
「いらっしゃいませ」
街の裏通りにある商館に入ると、小太りの男性店員が出迎えてくれた。
ただし身なりは良い。商館の内装も豪華で、けっこう儲かっているようだ。
「奴隷を見に来た」
「お客様は冒険者でございますか?」
「そうだ」
「では、戦闘用の奴隷をお買い求めで?」
「ああ。けど、戦闘用に限らず、できる限りたくさん見せてほしい」
「畏まりました」
店員の案内で奥の部屋へと通される。
と、そのときだった。
「おい、とっとと歩け」
「……」
小柄な少女が、追い立てられるように歩かされていた。体調が悪いのか、ふらふらしている。横顔しか見えないが、顔色もかなり悪いようだ。
俺は〈神眼〉で彼女のステータスを見た。
ニーナ
種族:ドワーフ族
レベル:2
スキル:〈採掘+1〉
称号:奴隷
状態:病気(深刻)
ドワーフ族か。レベルは低い。
どうやら深刻な状態異常にかかっているようだ。
「あの奴隷は?」
「え? ああ、はい。あれはこれから処分する予定でして」
「処分?」
「ええ。実は酷い病気に罹ってしまいましてね」
「治療はしてやらないのか?」
「してあげたいのは山々なのですが、治療にはハイポーションが必要だと診断されたのです」
Q:ハイポーションって?
A:ポーションより効果の高い治療薬。大抵の傷や病気を治すことが可能。
当然ながら、一本当たり銀貨10枚もするポーションより、さらに高価らしい。
「あれは売れ残りでして」
つまり、治療してやるほどの価値もないということか。店員が当然のような顔をしているのを見るに、商品にならない奴隷を処分するというのは、この世界では普通の価値観なのだろう。
そもそもドワーフはあまり人気がない商品らしい。鍛冶や採掘などの能力は高いが、奴隷にそれを期待する者は稀だ。大人になっても身体つきは子供のままなので、性奴隷としての価値も低い(特殊な性的嗜好を持つ者には人気らしいが、ごく一部に過ぎない)し、戦うのも得意ではない。
ふと、その少女と目が合った。
絶望を通り越し、もはや諦観し切った瞳。恐らくこれから自分が辿る運命を知っているのだろう。
さて、どうするか。
1.「ふーん……」自分には関係のない話なので放置する。
2.「処分するなんて酷いじゃないか」店員を非人道的だと非難する。
3.「彼女を買おう」あの奴隷を買う。
俺の頭に三つの選択肢が浮かんだ。
悩むまでもなく、俺はその内の一つを選択する。
「ハイポーションは置いてあるか? 俺が金を出すから、彼女に飲ませてやってくれ」
「えっ? ですが……」
「彼女を買おう」
選んだのは3だ。
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