第21話 結婚式




 皆様、ごきげんようです。

 突然ですが、今日はこれからわたくしフルールとラーファ様の結婚式なのです。



 あの透花とうかの力を得てから約2年、『転機』に備えそれなりに訓練をしてきました。が、幸いな事に特に変わり映えの無い平穏な日々を過ごしてきました。その間もゆっくりゆっくりとラーファ様との仲を深めてまいりました。

 この国では男女共に16歳から結婚を認められるので、ラーファ様の16歳のお誕生日である今日を待ち結婚に至りました。階級に関する不安は拭いきれませんが、ラーファ様となら立ち向かえると信じております。

 私はこれからドレスアップの時間です。つい先程まで、昨日から夜通し泣いていた父さんにあれやこれやと結婚のしを語られておりまして、ようやく解放されたのです。



 コンコン――


「フルールちゃん、入っても良いかしら」

「はい、どうぞお入りください」


 お母様がドレスアップに来てくださいました。


「やぁ、フルール。今日はホントゥにおめでとう。僕の心からの祝福をドレスアップに込めるよ。そぉーれ!」


 なんと、突然現れたノエル様がスキルで着飾ってくださいました。なぜご存知なのかはわかりませんが、シャルル家の皆様がご用意してくださったドレスに、お母様がくださったネックレスとラーファ様がくださったティアラ、そして、母の形見のブレスレットも完璧です。父がくれたこのルージュは、一体どんな想いで選んでくれたのでしょうか。それぞれに込められた想いを感じて涙が零れてしまいました。


「おやぁ、メイクが崩れてしまうから泣かないで。ほら、こぉんな晴々はればれしい日の涙はダイヤに換えてしまおう」


 そう言ってノエル様が拭ってくださった涙がダイヤに換わってしまいました。驚きです。ノエル様のスキルとは一体······。



 式場はアズ様のご実家、モールズ家の教会です。慰霊祭メテシュシスの後も礼拝れいはいで訪れたり、皆様との集まりの場となった思い出の深い場所です。

 今日は普段のおごそかな雰囲気とは一転、白とピンクを基調きちょうにした可愛らしい装飾がほどこされ、私が出した沢山のお花たちもいろどりをえています。


 そろそろ式場にお客様方がそろわれたようです。

 音楽隊の美しい旋律せんりつから意識を奪ってしまうほど、佳麗かれいにご成長なさったラーファ様がご入場されました。控え室にその報せが届き、いよいよ私も式場へ向かいます。

 木製の大きな扉が開き、視線が一斉に私に向きます。2人で紡いだ時間を思い返しながら、ラーファ様の元へ1歩1歩ゆっくりと歩んでいきます。入場して数歩で、緊張しっぱなしだった父さんがこらえきれず号泣しはじめました。私はなんとか泣かずに辿たどり着き、ラーファ様にそっと手をとっていただきました。


「僕の可愛いお姫様、本当に綺麗だ」

「ありがとうございます。ラーファ様は輝きすぎですよ」


 2人見つめ合い、はにかみあっていよいよ式が始まります。

 今日はラーファ様と私の希望で、牧師様はアズ様にお願いしました。微塵みじんも見習いとは感じさせない立派な牧師様です。


「幸福の時も辛苦しんくの時も共に支え合い、すこやかなる時もめる時もたとえ死が2人を分かとうとも、互いを愛しうやまいつくしむことをちかいますか」


『はい、誓います』


「では、誓いの口付けをぉ」


 ラーファ様がベールをめくり、いつものように優しくキスしてくださいました。人前ではやはり恥ずかしいです。気がつけば、白と桃色のシクラメンの花びらが舞っていました。


「わぁ、フルールちゃんったら恥ずかしがり屋さんだねぇ」


 アズ様がそうおっしゃって、式場が温かい微笑ほほえみに包まれました。

 濃い桃色の花びらが舞う中で、指輪の交換を行います。指輪は、アテルの羽をモチーフにしたデザインなのです。勿論、あの首飾りはいつだって肌身離さず持っています。

 実はこの指輪、ノエル様がつくってくださったのです。例のごとく、ラーファ様と指輪の相談をしていたら、後ろからひょこっと現れ「お任せあれぇ」と翌日には創ってきてくださいました。私たちへの結婚祝いだそうです。


 誓いも指輪の交換も終え、これからガーデンで披露宴です。沢山の方々にお祝いの言葉を頂き感無量です。



 なんだか疲れてしまったので風に当たろうと、少し離れた所から皆様を眺めていました。すると、金髪碧眼の綺麗な男性が此方こちらに向かって来られました。


「フルールさん、おめでとう。この花をおふたりに。どうかお幸せに」


 可愛らしい花を頂いたのですが、これはトリカブトです。見た目は可愛らしいのですが、毒があり危険なお花です。そして、去り際に不敵な笑みを浮かべられた気がしました。悪意が無ければよいのですが······。

 王国内ではあまり見かけないお花なので、おそらくご存知ないだけなのでしょう。全く見覚えのない方でしたが、何処かでお会いしていたのでしょうか。思い出せず申し訳ない限りです。



 ──その青年の名はノーア。この優しげな青年は数年後に、とんでもない事件を巻き起こすのです。



「どうしたんだい、フルール。こっちへおいでよ!」

「はぁい」


 その話はまた今度。ラーファ様や皆様が呼んでくださっているので戻らなければ。今日は待ちに待った結婚式を楽しみたいと思います。


 それでは皆様、また何処かで(*´︶`*)





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❀シクラメン

 花言葉:恥ずかしがり屋、はにかみ、内気、 遠慮


❀トリカブト

 有毒。花言葉:騎士道、栄光、人嫌い、復讐

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