第19話 報復



「ウリル! どうしてここに!?」


 なんと、少女はラーファ様の妹君いもうとぎみのウリル様でした。今日は風邪をされたので、お部屋でお休みされているとお聞きしていました。どうしてこんな所にいらっしゃるのでしょうか。


「お兄様、早く馬車から離れてください! 今すぐに!!」

「わかった!」


 ラーファ様がウリル様を抱え、私の手を引き建物の中に駆け込みました。すると、物陰に隠れるのとほぼ同時に馬車が爆発しました。

 幸い小さな爆発でしたので、お客様とお屋敷にたいした被害はありませんでした。ですが、御者ぎょしゃさんと馬2頭が軽傷を負ってしまいました。ただちに救護隊を呼び、医院へ搬送されました。


 パーティは中止され、憲兵隊による調査が始まりました。スキル絡みの襲撃などが疑われましたが、目撃者がいたので犯人はぐ判明したのです。

 その目撃者というのは、ラーファ様の妹君のウリル様でした。

 お部屋でお休みになって窓から外をご覧になっていた折、ウァール家の執事とドナ様が馬車に細工をしていたのを目撃なさったのです。危険を察知したウリル様は、ご病気の身体からだを押して報せにきてくださったのです。


 ドナ様と執事は連行され、ドナ様のお父上も関与を疑われ拘留こうりゅうされているそうです。

 これを機にラーファ様のお父様が、ウァール家のこれまでの悪事を公にされたのです。法を掻いくぐってきたことも、言い逃れできないよう証拠を提出し、貴族や商人などの証人を集め、徹底的にウァール家を潰しにかかりました。


 元々悪名高い一族だったこともあり、裁きを下すのにさほど時間はかかりませんでした。

 事件から半月足らずでウァール家は全ての財産を没収され階級剥奪のうえ、お父上は懲役30年、ドナ様は懲役20年、執事は懲役15年となりました。沢山の人達を傷つけてきたのです。うんと罰を受けてもらいましょう。

 しかし、執事はウァール家に家族を人質にとられ、数々の悪事を働くよう命令されていたそうです。ドナ様とお父上は否認しておられたようですが、執事の自白により余罪についても全てが明るみに出たのです。なんとも非道の限りを尽くした許しがたい一族です。


 事件から半月 、一旦平穏を取り戻しました。なので、 改めて内々でお祝いすることになりました。


「皆様、今日はわたくしの為にお越しくださいましてありがとうございます」


 先日のパーティがあのような形で終幕してしまったので、ラーファ様と改めてお誕生日パーティを計画したのです。そこで、改めてcafnekirigカフネキリグを舞うことを申し出ました。

 今日は音楽隊ではなく、ラーファ様が樺弦 バチングを弾いてくださいます。ラーファ様が奏でる樺弦の旋律せんりつはどこか優しく、とても柔らかい音色です。

 今日は前回ほど会場が広くはないのでお花の量を抑え、大きめのアルストロメリアとブルースターを放ちいろどりを添えます。

 終盤でウリル様をお呼びし、手を取り一緒に舞っていただきました。最後にウリル様がギリギリ抱えられるほどの大きな花束をお母様へ渡していただきました。とても驚かれましたが、それ以上に喜んでいただけたようです。

 ウリル様とはこの半月で姉妹のように仲良しになれました。私は兄弟姉妹がいないので、妹ができたようでなんだか新鮮な気持ちです。ラーファ様には甘やかしすぎだと拗ねられてしまいました。

 ウリル様はしっかりしていらっしゃいますが、まだまだご両親に甘えたい盛りなのです。ですが、ずば抜けて秀麗なあまり、周囲からの目が気になり素直に甘えられずにいるようです。なので、少しでも親子の時間を持つきっかけを作ることができたのなら嬉しいです。


 ささやかながら和気藹々わきあいあいと楽しいお誕生日パーティでした。無事終えることができたので胸を撫でおろしました。

 ウァール家の事は残念でしたが、これで本当に一件落着です。



 さて、ウリル様と仲良しになれたのは良いのですが、問題は拗ねてしまわれたラーファ様です。

 確かに近頃はウリル様とばかり遊んで、ラーファ様と2人でお出掛けすることも減っていました。お店にもお誕生日パーティの準備の為にウリル様がご一緒にいらして、ラーファ様はご機嫌ナナメでした。

 ラーファ様のご機嫌をどうにかしなければ、ラーファ様とアズ様のお誕生日パーティまでもうあまり日がありません。

 あと10日ほどでおふたりのお誕生日です。ウリル様と計画しているお誕生日パーティが成功するように、ここは何としても機嫌をなおしていただかなければ。


「あの、ラーファ様。もしよろしければ、明日2人で星を見に行きませんか?」

「星? いいよ。でも、どこに?」

「実は、とっておきの場所があるのです。明日は流星群が見られるそうなので、その、ラーファ様とご一緒に、と思いまして」

「いいよ。ウリルは? 天文学もかじってるから詳しいよ」

「いえ、私はその、お星様の事はよくわからないのですが、ラーファ様と綺麗なお星様を見られれば嬉しいなと思ったのです。ウリル様が嫌と言うわけではないのですよ。ただ、たまには2人きりで、と、思いまして······」

「そっか。わかった。じゃ、明日夕飯後に迎えに来るね。約束だよ。必ず、2人きりで」

「はい。楽しみにしております!」


 少しあからさま過ぎたでしょうか。ですが、言ったことに嘘偽りはありません。2人きりで過ごしたいという気持ちは溢れんばかりにあります。

 明日はレモンパイを焼いて、2人で食べながら素敵な時を過ごしたいです(*´︶`*)






❀アルストロメリア

 花言葉:未来への憧れ、持続、エキゾチック、幸福な日々


❀ブルースター

 花言葉:幸福な愛、信じあう心



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