第17話 誓いのブローチ



 皆さん、こんにちは。今日は少し陽射ひざしが強くお花が好む陽気ようきです。


 お店の前のお花たちにお水をあげ終えて、中に入ろうとした時です。


「フルールちゃーん、お届け物だよー」

「あら、リーカンさん。おはようございます。お手紙ですか?」

「そうだよ。手紙に小包が付いているよ。お父さんは居るかい?お父さんあての荷物もあるんだけど······」

「父ならもうすぐここに来ます。預かっておきますね」

「それは助かるよ。それじゃ、またね。良い一日を〜」


 バサッバサァァ


「おじさんも、良い一日を〜!」


 リーカンさんは獣化のスキルで、腕だけ獣化して鳥の羽にできるのです。その力を使って長年配達員をされている優しいおじさんです。

 さて、お手紙はラーファ様からでしょうか。




 ‎──愛しい フルール


おはよう。今日も良い天気だね。

お昼頃に花を頂きに行くよ。今日は母に贈る可愛らしい花をお願いするね。

それと小包を開けてみて。それがあれば、シャルル家に自由に出入りできるからね。いつでも遊びにおいで。


 君のラーファより──




 ‏そうでした、早速開けてみましょう。


 小包の中には美しい金細工のふちに大きな翡翠ひすいをあしらえたブローチが入っていました。翡翠の中心にはシャルル家の家紋かもんが刻まれています。


「これは······?」

「どうした、フルール」

「父さん、これをラーファ様が······」

「こりゃぁ······ったーくあの坊ちゃんはよぅ。あ〜くそぅっ!!」

「ど、どうしたの?」

「あぁ〜これはだなぁ、そのぉ〜あれだ、通行証」

「通行証······にしては豪華ごうかすぎないかしら」

「あとは坊ちゃんに聞きな。ったく······」

「あっ、父さん待って! 父さんったら! もうっ」


 父さんは頭をきながらお店を出ていってしまいました。一体このブローチにはどういう意味があるのでしょうか。



 謎は解決しませんでしたが、街は今日もすこぶる平和です。

 お昼ご飯の前ですが、向かいの果物くだもの屋さんのおばあさんがマスカットをくださったので、店先でお花をながめながらちまちまといただいていました。

 すると予定よりも早くラーファ様がいらっしゃいました。


「いらっしゃいませ、ラーファ様。今日もお手紙ありがとうございました」

「やぁ。少し早いけど、会いたくて来ちゃった」

「あら、いつもお知らせくださるより早くいらっしゃってますよ。ふふふ。お花の準備はできております。こちらでいかがでしょうか」


 今日は可愛いお花をご所望でしたので、桃色を基調に小さなブーケをお作りしました。

 凛々りりしくもお優しいお母様を思い描き、絢爛けんらんでありながら派手すぎず可愛らしさを残し、それでいてラーファ様がお渡ししやすい物に仕上げました。お気に召していただけるとよいのですが。


「わぁ、すごく素敵なブーケだね。これなら母も喜んでくれるよ。ありがとう」

「恐れ入ります。今日は何か特別な日なのですか? 」

「うん。今日は母の誕生日なんだ」

「そうだったのですね、おめでとうございます。でしたら今日はパーティがおありなのでは?」

「まぁね。それでね······」

「······ラーファ様?」


 なんだかラーファ様のご様子がおかしいです。焦っておられるといいますか、緊張なさっているのでしょうか。


「急で申し訳ないんだけど、パーティに来て欲しいんだ。そのブローチの意味を教えるから······」

「そうでした! このブローチ、父は通行証だと言っていましたが違いますよね。これは一体······」

「それは今夜ね。今はそれより······ねぇ、これ、君を想って育てたんだ。フルールに受け取ってほしくて」

「バラ······ですか? これをラーファ様がお育てに? とても綺麗です。ありがとうございます」

「これでバラを君に贈るのは何本目か知ってる?」

「そうですね······もう100本は頂いているかと」

「108本目だよ。フルールならこの意味わかるよね。あのね、今日のパーティで君を、僕の正式な婚約者としてお披露目ひろめしたいんだ。まだ適齢てきれいではないし、こんな約束で君をしばりつけてしまおうだなんてずるいんだけど···僕が16歳になったら結婚しよう」


 落ち着いた優しい声でそう仰り、ラーファ様は小さな可愛らしい鉢に植えたままのバラを差し出されました。


「······はい。はい、喜んで。ですが、私なんかでよろしいのでしょうか。きっとラーファ様に色々とご迷惑をお掛けしてしまいます」

「ふふ、それはお互い様だよ。壁は立ちはだかるだろうけど、乗り越えて一緒に居たいんだ。君とじゃなきゃ乗り越えられないよ」

「ありがとうございます。嬉しいです。本当に······」

「承諾してもらえて良かった。ホントに良かった。そうだ、この間贈った青いドレスを着てね。今夜迎えに来るからね」

「わかりました。では、お待ちしております」


 ラーファ様が仰っていた青いドレスとは、シンプルなのですが品があり、平民の私でも貴族と勘違いされてしてしまいそうなほど上等のものです。先日お兄様のご帰還パーティの時のドレスを選んでいただいた際、これは大切な時に着て欲しいと言われて渡されました。



 さぁ、とんでもなく緊張しておりますが、そろそろラーファ様がお迎えにいらしてくださいます。



「フルール、お待たせ」


 髪を後ろに流しかっちり固められ、普段よりも大人っぽく見えます。身長は私とほとんど変わらないので、どちらが年上かわかりません。


「ん? どうかした?」


 ラーファ様はいつにも増してキラキラしてらして、まぶしくて直視できません…


‏「いえ、ラーファ様がいつにも増して素敵なので、吃驚びっくりしてしまいました」

「お前も綺麗すぎるぞ、フルール」

「えっ、父さん!? どうしてここに······」


 振り向くと父が立っていました。初めて見る父のタキシード姿に言葉が出ません。これは一体どういう状況なのでしょうか。


「坊ちゃんに呼ばれたんだよ。話も全部聞いてるよ! 全く、こんなに早くお前を嫁に出すなんてな。まったく······」

「お義父とう様、本日はパーティへの参加をご承諾いただき、本当にありがとうございます。どうぞ、馬車にお乗り下さい。さぁフルールも、お乗り下さい」


 そう言ってラーファ様は私の腰を抱き寄せて馬車へいざなってくださいました。


「ホントにお前さんはキザだなぁ······あきれるぜ。フルール、ホントにこいつでいいのかい?」

「父さん失礼よ! 私はラーファ様がいいの!」


 思わずはっきりと言ってしまいましたが、とんでもなく恥ずかしいです。


「だってよぅ······」


 父さんは叱られた子供の様にしょんぼりしてしまいました。


「フルール、気にしないで。お義父とう様、このたび婚約こんやくをお許しくださってありがとうございます。後日、改めてご挨拶あいさつうかがわせて頂きます」

「坊ちゃん、あたしらは平民ですんで、大層たいそうにされると立場がありませんよ」

「それは······考えがいたりませんでした」

「いえ、謝られるような事じゃないんでいいんですよ。むしろ、坊ちゃんは本当にいいんですかい? 身分違いの結婚は、恋愛よりもさらに大変ですぜ」

「僕にはフルールしかいないと確信しています。『運命』と言うとなんだか照れますが、本当にそう感じているんです。フルールは必ず僕が生涯しょうがい守ります。お約束します」

「頼もしいねぇ。俺ぁ坊ちゃんや貴族が嫌いなんじゃねぇんだ。ただ、フルールが心配なんだよ。だから、頼みますぜ坊ちゃん。フルールに何かあったら承知しねぇ」

勿論もちろんです」

「あのぅ、私、とても恥ずかしいのですが······」

「フルールよ」

「は、はい。なぁに、父さん」

「お前はこれから何があっても坊ちゃんを支えていくんだぜ。どんなに辛くても逃げちゃならねぇ。そういう覚悟はできてんだな?」

「えぇ、できてるわ。私もラーファ様に運命を感じているわ。ラーファ様となら、どんな困難にだって立ち向かえる気がするの」

「そうかい。なら、もう俺から言うことはひとつだけだな。幸せになりな、2人で」

「お義父様······ありがとうございます」

「ありがとう、父さん。やだぁ、泣かないでよ。パーティはこれからよ?」

「泣いてねぇよ。慣れねぇ事言うから、目から汗が出るんだよ!」



 その後も、ラーファ様のお宅に着くまで父さんは時折鼻をすすっていました。

 目を腫らした父さんも、シャルル家のお屋敷に着くと気が引き締まったようです。自分で自分の両頬をバチンッと叩き気合いを入れます。


「あのね父さん、闘いに行くんじゃないんだから落ち着いて」

「わ、わかってらぁ······」


 こんなに緊張している父さんは初めて見ます。カチコチのままラーファ様に連れられて、ラーファ様のお父様とお母様へご挨拶に伺います。

 両家の挨拶の後、お母様のご生誕のお祝いを申し上げました。すると、cafnekirigカフネキリグを舞ってはもらえないかとお父様が仰られたので、喜んでお受け致しました。


 とても広いパーティ会場の中央で、新技を交えて披露します。想定はしていましたが、本当に舞うとなると緊張してしまいます。

 今後の為にも、何よりラーファ様のお母様のおめでたい席で失敗はしたくありません。さぁ、気合いを入れて頑張ります(o*'^'*o)





 ❀108本のバラ

 意味:結婚してください


 ‎

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