第14話 メテシュシス




「綺麗······。とても綺麗です」



 中央広場まで連れ出され、やっと思い出しました。

 噴水を中心に露店ろてんが出ていて、大通りや広場には明々あかあかと提灯が灯っています。薄暗い細い通りから抜けてくると、そこには別世界のように優しいあかりがともる暖かい光景が広がっています。

 今日から3日間、ご先祖様のたましい輪廻りんねを願い、最終日には全ての王国民が鎮魂歌ちんこんか斉唱せいしょうする慰霊祭メテシュシスが始まるのです。


「今日からだったのですね。すっかり忘れていました」

「みたいだね。フルールと来たくて楽しみにしてたんだ。おじゃま虫もついて来ちゃったけど」

「僕の事だったら気にしないでぇ。いないと思ってくれていいからぁ。えへへぇ」

「いえ、そんなのダメです。もちろんアズ様もご一緒に、皆で楽しみましょう!」

「わーい、やったぁ」

「やっぱりこうなるよね。アズ、狙ってただろ」

「なんの事かなぁ。僕だってフルールちゃんと遊びたいんだよぅ。勿論もちろんラーファともねぇ」

「はぁ······、仕方ないなぁ。でも、フルールと僕の邪魔じゃまはするなよ」

「はいはぁい、わかってますよぉ。じゃぁ、まずは腹拵はらごしらえだねぇ」

「おふたりとも、あちらをご覧下さい! フワフワです! あっ、あそこに焼きもろこしと干物刺ひものざしも!! どれから頂きましょうか。迷ってしまいますね。とりあえずフワフワからでしょうか。私買ってまいりますね」


 ラーファ様とアズ様は顔を見合わせて、クスクスと笑ってらっしゃいました。


「フルールが楽しそうで何よりだよ。僕も一緒に買いに行くから、アズはここで場所取りね。じゃ」

「はぁい。行ってらっしゃ~い」



 やってしまいました······。久しぶりのお祭りで、ついはしゃぎすぎてしまいました。


「ラーファ様は毎年来られるのですか?」

「ん~、何度か来たことがある程度かな」

「ご家族でですか?」

「うん。最後に来たのは2年前かな。あの時は妹が迷子になって大変だったよ」

「へぇ、妹······。えっ、ラーファ様、妹君いもうとぎみもおられるのですか!?」

「あれ? 言ってなかった?」

「初耳です。ラーファ様は一体、何人兄弟なのですか?」

「4人だよ。兄さん2人と妹が1人。1番上のエルミ兄さんは結婚して、アウスディースでのんびり家族で暮らしてるでしょ。2番目のアル兄さんはこの間会ったね。妹のウリルは今5歳。僕やアズが通ってる学院で博士号もらって薬の研究したり、やりたい放題やってるよ」

「え、待ってください。5歳とおっしゃいましたよね。あれ? どなたのお話でしたか?」

「あはは······。そうなるよね。ウリルは物凄い天才児なんだよ。母さんからの遺伝。母さんも昔は凄い天才児だったらしいけど、それ以上なんだって」

「まぁ、1度お会いしてみたいです」

「そうだね。そういえば、タイミング悪くて1度も会えてないよね。今度会わせるよ」

「是非、よろしくお願いします」

「フルールは毎年来るの?」

「いえ。私も家族で何度か来たことがあるだけです。父は仕事がありますし、母は人混みが苦手でしたので。ですから、こうして連れてきていただいて、とても嬉しいです」

「喜んでもらえて良かった。連れ出してから、お父さんと行く予定だったらどうしようかと思って······」

「大丈夫ですよ。父はきっと最終日までやぐらを建てるので大忙しでしょうから」

「へぇ、あの櫓ってフルールのお父さんが造ってるんだ。毎年国の何処からでもあかりが見えるくらい高いよね。国中の人々を照らすなんて凄いね。あっ、ほら、フワフワ出来たみたいだよ。どうぞ」

「わぁ! 美味しそうです。早くアズ様の所に戻りましょう」



 色とりどりの雲の様なフワフワを持ってアズ様の所に戻ると、クトゥス様もいらっしゃいました。

 ラーファ様があからさまに項垂うなだれてしまわれました。


「うわ······、増えてる」

「や~ぁ、ラーファ、フルールちゃん。君らも来てたんだね。会えて嬉しいよ~」

「僕たちは嬉しくない」

「もう、ラーファ様ったら。私はお会いできて嬉しいですよ。今日も警備ですか? いつもありがとうございます」


 武装ぶそうなさっているところを見ると、遊びにいらしたご様子ではなさそうです。


「フルールちゃんは優しいな~。これも国民の平和を守る憲兵けんぺいの立派な役目だからね~。っても迷子やら酔っぱらいの世話ばっかりだけどね」

「憲兵の皆様のおかげで、国民が平和に暮らせるのだと思っております」

「いや~、ホントにフルールちゃんには心を洗われるよ。じゃ、俺はまだ仕事があるから行くわ。フルールちゃん、楽しんでね~」

「いつもながら、嵐みたいな奴だったね。フルールはクトゥスを甘やかしすぎだよ」

「あ、ラーファねてるぅ。いてるのぉ?」

「別に、そんなんじゃないよ」


 これは完全に拗ねてしまわれました······。と、良い物を思い出しました。


「ラーファ様、少々お待ちください」

「あっ、フルールどこ行くの?ちょっと待って······」

「すぐに戻りますから!」

「あ~あ、行っちゃったねぇ」



「確かこのあたりに······。あ、あった! これをラーファ様と······」



「お待たせしてすみません。これを、ラーファ様にと。受け取って······いただけますでしょうか······」

「これってアテルの羽?」


 息を切らして戻った私は、ラッピングもしていないままの2本の首飾りを差し出しました。

 小指の先程の天然石から、銀細工ぎんざいくで出来た羽が生えている様な装飾そうしょくがついた首飾りです。



「はい。ご存知でしたか。かつてこの世界に愛をもたらした天使アテル羽には永遠の愛が宿やどると言われています。1つの石を2つに割って埋め込んで作られた物を、こ、恋人同士で持つと永遠に結ばれるのだと女の子の間で流行はやっておりまして······そ······もしおいやでなければ、こちらをどうぞお持ちください」

「あ、ありがとう」

「あらぁ、ラーファったら照れちゃってぇ」

「うるさいなぁっ!」

「ラーファ様もこれで少しは安心してくださいますでしょうか。あっ、これが無くても安心していただいて大丈夫なのですが、やはり形としてあった方が良いかと思いまして」

「うん、フルールの事は信じてるよ。僕が子供なだけなんだよね······。ありがとう。大切にするよ」


 ラーファ様は首飾りをしっかりとにぎりしめてから片方を私に着けてくださり、羽にキスをして、次は私の番です。

 ラーファ様に首飾りをお着けして、仕上げに羽にキスをしておまじない完了です。


「これで2人は永久とこしえに愛をたがえることなく添い遂げられよぅ」

「なんだよ、アズ。さまになってきたじゃんか」

「えへへぇ。牧師みたいでしょぉ。絶賛、猛勉強中だからねぇ」

「アズ様は将来、牧師様を目指されているのですか」

「そうだよぉ。家が代々ねぇ。クトゥスと一緒。家の方針ってやつだよぉ」

「立派なご職業ではありませんか」

「僕ねぇ、あんまり家の仕事好きじゃなかったんだぁ。だって葬儀屋だよぉ。小さい時は気味悪がられてたし、メテシュシスも本当は家でお祈りしなくちゃいけないの。僕も大きくなって葬儀屋のやり甲斐とか知ったから、親の意向通り牧師を目指すことにしたんだけどねぇ。でもねぇ、たまにはお友達と過ごしてもいいかなぁって。明日からはおいのりサボらない約束で来させてもらったんだぁ」

「そうだったんですか······。でしたらなおの事、今日はとことん楽しみましょう! ね、ラーファ様」

「そうだね。今日だけね。今日だけ」

「わぁーい。じゃぁ今日はいっぱい遊ぶぞぉ!」


 貴族には貴族の悩みというものがあるのですね。

 ラーファ様にも悩みなどがおありなのでしょうか。私にできる事はなんでもして差し上げたいです。


 お悩み相談会は後日開催するとして、今日はアズ様に楽しんでいただくのが最優先です。

 そして、最終日の献歌けんかはアズ様のお家の教会で行うことにしました(*´︶`*)



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