第6話 雨の日
皆さん、おはようございます。雨でも元気いっぱいのフルールです。
今日は
嵐の前の静けさと言いましょうか、昨日から城下町はとても静かです。昨日のお昼から降っている雨のせいで、あの事件を警戒しているのかも知れません。
あの事件というのは、連続少女失踪事件です。数ヶ月前から10歳前後の少女が次々に行方不明になっていて、それは決まって雨の日に起きるのだそうです。
人気のない路地や、雨で視界が霞んでいるとはいえ大通りでも犯行は行われたんだとか。そして、どの現場にも少量の血痕が見つかっているそうです。雨に流されているせいで正確な出血の程度は分からないそうですが······。兎にも角にも、皆さんのご無事を願います。
憲兵隊が日夜捜査しているのに、何の手掛かりも掴めていないそうで、
『雨の狂人-プルウィロル-』
雨の日に王国を恐怖に陥れる狂人。この穏やかな国で
雨が窓を叩くのをぼんやり眺めていると、外から馬車の音が聞こえました。
ドンドンドンッ
扉を叩く音がしました。
「こんな雨の日に誰かしら······」
「俺が出る。部屋に居な」
部屋を出たところで父さんに
父さんとのものとは違う階段を昇る足音が聞こえ、怖くなったのでそっと部屋に戻りました。
しばらくすると、雨音を断ち切るようにコンコンとノックの音だけが響きました。
父さんではありません。父さんはノックなんてしたことがありません。
私は恐る恐る扉に近づきました。
「ど、どなたですか?」
「フルール?僕だよ。ラーファだよ」
その声は紛れもなくラーファ様です。慌てて扉を開くと、そこには雨に濡れたラーファ様が立っていらっしゃいました。
「ラーファ様、どうなさったんですか!?あぁっ、それより拭く物を········少し待っていてくださいね」
私はラーファ様に話す間も与えず慌ただしく部屋を飛び出しました。リビングに拭く物を取りに行くと、父がムスッとした顔で腕組みをしてソファに座っていました。
「ど、どうかしたの?」
「いーや、なんでも。早くソレ坊ちゃんに持ってってやんな」
「そうだったわ!」
部屋に戻るとラーファ様が窓から外を覗いていました。
「ラーファ様、これを。どうなさったんですか?こんな雨の中······」
「うん······。実は今朝方、この付近で例の誘拐犯が出たらしいんだ」
「まぁ、また女の子が犠牲に······」
「いや、今回は未遂だったんだ。どうも、犯人を見たらしくて、今は
「そうでしたか。女の子が無事で何よりです」
「それが、そうとも言えないんだよね」
「と、言いますと?」
ラーファ様のお話によると、少女は背中を切りつけられ大怪我を負ったそうです。そして、余程恐ろしいめに
ラーファ様はその少女が私ではないかと、慌てて馬車を飛ばして来てくださったのだそうです。
玄関で父さんに、私が無事かどうか詰め寄ったそうで、あまりに心配してくださる様子に父さんは複雑な気持ちだったようです。
「こんな事言っちゃいけないんだろうけど、フルールが無事で良かった。······ねぇ、少しだけ抱きしめてもいいかな?」
「そうですね、襲われた女の子は怪我をなさって······心配ですし······え? 抱き······?」
「ダメ······かな? フルールが無事なのをもっとちゃんと確認したいな」
「す、少しだけですよ······」
ラーファ様はとても甘え上手でらっしゃいます。そっと、ですが力強く抱きしめられた手は少し震えていました。
──ガチャ
「坊ちゃん、これでも飲んで──」
温かいミルクを持ってきてくれた父さんは、抱きしめられている私を見てキレました······。
「テェェンメェェェこの野郎!! 嫁入り前の!!俺の娘に!! 何してやがんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
激しい雨音にも負けず、父さんの声は街中に響いたことでしょう。
「きゃぁぁぁ!! 父さん落ち着いて!!」
「す、すみません、あの、これには事情が······」
「どんな事情があったら抱き締めんだこの野郎!!」
「ラーファ様は私を心配してくださったのよ!」
「そんな事ぁ関係ねぇ! 俺の大事な娘に気安く触れやがって! 許せねぇぇぇ!!」
「お
「なっ······くっ······にっ、二度と俺の前でフルールに触んじゃねぇぞ!!」
「もう、父さんったら······」
「はい、お約束します。ありがとうございます」
「ったく、あったけぇうちに飲みな。風邪でもひかれちゃたまんねぇからな」
「あ、ありがとうございます。いただきます」
「俺がいねぇ隙にフルールの嫌がる事してみろ。坊っちゃんだろうが容赦しねぇからな!」
「勿論です。フルールが嫌がる事は決してしませんので、ご安心ください」
「っかー、んとに口のたつ奴だなぁ」
ブツブツ言いながら父さんは自室に戻りました。
「良いお父さんだね。フルールの事、本当に愛してるんだね」
「そうですね。母が亡くなってからは特に。過保護になってしまったようで······」
「そりゃこんなに可愛いんだから仕方ないよ。僕なんか比べ物にならないくらい、フルールは愛されてるんだね。でも、僕だってフルールの事を大事に想ってるんだからね?」
「ラーファ様はどうしてそこまで私に······?」
「それより、早く犯人が捕まるといいね」
「そ、そうですね。今まで攫われた女の子たちが無事だといいのですが······」
「そうだね。ねぇ、これって、もしかしてフルールのお母さん?」
ラーファ様はテーブルに飾ってある写真を手に取り尋ねられました。
「そうです。私が生まれた時に撮った写真だそうです」
「綺麗な人だね。とても優しそうなお母さんだ。それにしても、赤ちゃんのフルールはもう本物の天使だね」
「ラーファ様は時々、父と同じような事を仰いますね。でもラーファ様に言われると凄く恥ずかしいです。······母はとても優しい人でした。私の憧れなんです。父なんて、女神だってよく騒いでいたんですよ」
「あはは。本当にお母さんの事が好きだったんだね。でも気持ちはわかる気がするよ。初めてフルールに会った時、花を僕にくれたよね。あの花を出した瞬間、僕にはフルールがとっても可愛い天使に見えたんだ」
「ラ、ラーファ様は本当にお口がお上手ですね」
「だって、本当にそう思ったんだもん」
「だもんって······。そうだラーファ様、お昼はまだですよね? ご一緒にいかがですか?」
「いいの? やったぁ。じゃあ、お言葉に甘えて」
「大したものはお出しできませんが······。それでは準備しますので、少しお待ちください」
「やだよ。手伝わせて?」
上目遣いで首をコテンとさせて、これはズルいです。
「······それでは、お願いします」
「何を作るの?」
「そうですねぇ······好き嫌いはありますか?」
「ん〜嫌いな物は特に無いかな。フルールが作ってくれるなら何でも食べれるよ」
「まぁ、じゃぁ鮭のクリームソース煮込みはいかがでしょう?」
「美味しそう。鮭、大好きだよ」
「それは良かったです。それではまず──」
ラーファ様に手伝っていただき、予定より早く昼食が出来上がりました。父さんも一緒にランチタイムです。
「すっごく美味しかったぁ。ご馳走様でした」
「ラーファ様が沢山お手伝いしてくださったからですよ」
「おーい、目の前でイチャつくんじゃねぇよ······」
「イチャ······ついてなんかないわよ。そうだラーファ様、デザートがあるんですけど、まだ食べられますか?」
「もちろん! なになに?」
「ちょっと待ってくださいね」
台所からおやつ用にと朝に作っておいたパイをとってきました。
「これです。レモンパイ、お好きですか?」
「うん、すごく好き」
ラーファ様は目を輝かせてらっしゃいました。余程お好きなのでしょうか。
「いただきます」
大きなお口でパクッとひと口召し上がったラーファ様は、噛み締めながら
「んっ、すっごく美味しい。今まで食べた中で1番美味しいよ!」
「うふふ、それは良かったです。沢山あるので食べてくださいね」
「フルールのパイは絶品なんだよ。料理だけは母さんに似なくて良かったな。あっははは」
「母さん、お料理だけはてんでダメだったものね」
「そうなんだ。そうだ、今度パイを作ってうちに遊びに来てよ。僕の家族にも食べさせてあげたいな」
「おうおう、行ってこい。お前のパイは世界一だって教えてやんな」
「それでは今度お邪魔させていただきます。私のパイで良ければお持ち致しますね。で、父さんは少し黙ってて!」
久しぶりに賑やかな時間を過ごしました。ラーファ様とお話をしていると、あっという間に夕方になっていました。いつの間にか雨は
「雨があがってるうちに帰るよ。今日は突然押しかけてごめんね。今度、本当にうちに遊びに来てね?」
「はい、是非伺います」
「それと、雨の日は絶対に家から出ちゃダメだからね」
「はい、勿論出ません。ご心配なさらず」
「それじゃ、帰るね。またね」
「はい······。ラーファ様! あの······お気をつけて。また雨が降りそうなので······」
「うん、じゃあね。さよなら」
「はい······さよなら」
なんでしょうか······。ラーファ様が帰ってしまうがとても寂しいです。
「もっと話したかったな······」
ラーファ様を見送りながらポソッと呟いてしまいました。なんだか胸の当たりがザワザワしています。よくわかりませんが、大雨でお店も開けられませんし、3日後のご生誕祭の練習をしましょうか(*´︶`*)
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