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真理はカイを連れて、以前働いていた語学学校や、ハヌルたちルームメイト、彰などの日本人の友人にも会った。
久しぶりの再会にも皆変わらずやさしく、カイとも丁寧に接してくれた。カイはオークランドで真理が親切な友人に恵まれていたことに感動した様子で、ニュージーランドの良さを実感してくれたようだった。南島へ戻り、クライストチャーチでも2泊した。真理が通う中華料理屋にも行き、頑固親父の店長はカイのことを中国人と知っていつもは絶対にしない餃子をサービスしてくれた。店長は上海の出身らしく、北京育ちのカイとはあまり共通の話題はなかったが、互いに生まれた国を出てやっていく大変さは感じ合ったようで、店長がいつもより饒舌になったのに真理は驚いた。「明後日からちゃんと働けよ!」と喝を入れられた真理は「はい!」と頭を下げ、店を出た瞬間、カイと目を合わせて苦笑いした。
カイのニュージーランド滞在最終日、真理は手紙を書いてカイに渡した。恥ずかしいから飛行機の中で読んでと言ったが、中身は、婚約したにもかかわらずニュージーランドへの滞在を許してくれたことへの感謝と、帰国したら結婚しようと改めて意思表示するものだった。メールや電話で連絡を取り合ってはいたが、久しぶりに会うことでカイへの思いが以前とは変化しているのではないかと真理は恐れていた。しかし、久しぶりに会うことで一層愛情は深くなり、カイに一生寄り添い、ついて行きたいと思うようになった。カイの思いはわからなかったが、手紙には素直な気持ちを言葉で表した。
クライストチャーチの空港まで見送りに行った真理は、見送りのロビーでカイと長い抱擁を交わした。涙はなく、笑顔の抱擁だった。
「あと1カ月、待っててください」
「待ってます。久しぶりに真理に会って、やっぱり僕には真理しかいないと思った。帰ってきたら結婚しよう」
二度目のプロポーズを受けた。真理はもう一度カイの胸の中の人となって、「もちろん」と言ってカイの優しい眼を見て答えた。
南島での残りの1カ月を存分に満喫した真理は、夏真っ盛りの8月、約9カ月間の滞在を終えて帰国した。成田空港にはカイが迎えに来てくれた。翌日、新幹線で盛岡に戻ると、両親が駅の改札で待ってくれていた。職場の国際交流協会にも帰国あいさつと今までの礼を言い、9月からの復職を伝えた。ニュージーランドにカイが来た時に相談したが、休職させてもらったこともあり、結婚しても当分は岩手に残って働くことにした。ただ、籍は入れることにして、別々の暮らしではあるが、正式に結婚して夫婦として共に歩むことを決めた。
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