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荷物を受け取った真理は、カイの到着まで空いた時間を、空港2階の喫茶店でつぶそうと思った。
竜一からもらった鳴子がバッグの中でカチャカチャと鳴るので、髪を束ねるゴムを鳴子に巻いて音が出ないようにした。別れの場面を振り返っても竜一は最後まで涙を見せなかったなと思い、最後の旅で気持ちがうまく吹っ切れたのだろうと真理は安心していた。フラットホワイトを飲み終えると、洗面所で髪型を整えてカイの到着を心待ちにした。
カイは予定通り、昼過ぎの便で到着した。真理は大きめのキャリーケースを転がしながら出てくるカイの姿にすぐに気付き、向こうもこちらに気付いたようで、20メートルほどの距離を置いて目が合い、自然と笑みがこぼれた。近くまで歩いてきたカイは「元気そうだね」と一層うれしさを込めた笑顔を見せた。真理も「長旅お疲れさまです」と言ってはにかんだ。9カ月ぶりに会ったカイの姿は、飛行機に長時間乗っていたせいか、仕事のせいか、少し疲れている気がした。それでも、久しぶりにフィアンセに会えることがうれしかったのか、真理の姿を見てずっとニコニコしていた。
オークランド中心部のホテルに荷物を置きに行った2人は、1時間ほど休憩し、真理が予約していたレストランへ向かった。ニュージーランドは初めてというカイに、オークランドの素晴らしさを感じてほしいと、地元の魚介類が食べられる店を選んだ。テーブルに着席し、向かい合うとなぜか少し恥ずかしくなり、真理はカイの顔を直視できなかった。「お酒は飲む?」とカイに尋ねると、「少しだけ」と返事があった。もとより、あまり多く酒を飲まないカイだったが、せっかくの再開を喜んでビールを飲みたがった。真理もビールを頼み、「ガン」と言って乾杯した。一杯飲んで、ようやくカイの目を見て話すことができた。近況や仕事の状況を話したカイは白ワインも注文した。「あまり飲み過ぎないようにね」と真理がやんわりと注意したが、カイは笑顔で「大丈夫」と言った。真理はカイの幸せそうな顔を見て、ふと、1杯目まで顔を見られなかったのは竜一とのことがあったからかもしれないと心によぎった。ただ、ほおを赤く染めて幸せそうに酔っているカイを見ていると、その思いはすぐに心のどこか見えない隅の方に消えた。
ホテルに戻った2人はシャワーを浴び、明日からの観光に備えて休むことにした。パジャマに着替え、ダブルベッドで寝転がって互いに抱きしめ合った。めがねをかけることが多かったカイが布団の中では裸眼で、優しそうな瞳が眼の前に迫ると、真理は改めてカイの精悍さを感じた。
少し目を細めて真理を見る仕草もかわいらしく、じっと顔を見ていると「どうしたの?」と照れながらカイが言った。「きれいな眼ね」と真理がいうと、「ありがとう」とカイは答えた。「真理もきれいだよ」と唇を重ねてきたカイの背中に手を回してギュッと抱きしめた。カイも応じるように真理の背中を強く抱き寄せ、首筋や鎖骨に舌を這わせた。
保とうとしていた理性が崩れ、2人は久しぶりに触れる互いの肌の感触を感じようと全身の神経が解放された。互いの名前を何度も呼び合って本当に愛すべき人が腕の中にいることを確認し合い、愛を求め合った。
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