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翌朝、真理が集合時間の10分前にホテルのロビーに着くと、竜一はすでに準備万端で待ち構えていた。
「楽しみすぎて早く目が覚めちゃった」と竜一は荷物を持って立ち上がった。真理も「実は私もいつもより早く目が覚めちゃった」と笑い、「でも、天気が良くないのが残念です」とロビーの窓から外を眺めた。まだ雨は降っていなかったが、いつ降り出してもおかしくないような灰色の雲が垂れ込め、天気予報も曇り時々雨だった。昨晩、食事を終えてから自宅で作ったてるてる坊主は効き目がなかったようだった。「まあ、とりあえず行きましょうか」と真理は明るく振る舞い、外へ出た。
竜一の運転する車に乗るのはいつ以来だろうと真理は考えたが、思い出せなかった。ただ、砂浜でのバーベキューや星空を見に行った夜など、どれも楽しい思い出だった。ゆるやかな丘陵が続く一本道には、ところどころ牛や羊が放牧され、こちらを見ている。竜一は「これこれ。この、のどかな感じ」とうれしそうに窓の外に目をやりながら運転した。
真理は昨夜のレストランで話し足りなかったことを車の中で話そうと思っていたが、いざその時になると何を話せばいいかわからなかった。ただ、ぽつりぽつりと近況を話してくる竜一の言葉に耳を傾け、自分の近況も重ねて告げた。会話が延々と続くわけではなかったが、沈黙の時間も、居心地がよかった。
「カイさんは元気かな?」
道中で竜一たずねてきた。
「変わりないですよ。私も会ってないけど」
真理は苦笑いしながら答えた。
「実は、竜一さんと入れ違いにニュージーランドに初めて遊びにくるんですよ」と正直に付け加えた。竜一は驚いて助手席の真理の方を振り返った。勢い余ってハンドルを右に切ってしまい、危うく対向車線にはみ出すところだった。
「僕がいて大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。竜一さんが来ることが決まった直後にカイが来ることも決まってしまって。本当なら伝えておくべきかもしれませんでしたが、日程はちょうど重ならないから余計な気を遣わせてもいけないかと思って」と言い、「気にしないで、南島を一緒に楽しみましょう」と明るい声で続けた。
目的の国立公園に到着したのは昼過ぎだった。観光客向けのレストランで簡単な食事を済ませ、人気だというサイクリングをやることにした。今も雲が立ちこめているが、雨は降っていない。遠くに霧か雲で山頂が隠れた大きな山が見える。色はないが幻想的な雰囲気で真理は感動した。ただ、晴れていたらさらに美しかっただろうとも思った。
真理も竜一もサイクリングは初めての経験だった。マウンテンバイクのようなしっかりした自転車を受け付けで借り、ヘルメットをかぶって整備された道を走る。1周7キロほどの平坦なコースは、小ぶりな湖の周りや木々の間を抜けながら自然を満喫できた。常に雄大な山が目の前にそびえ、その圧倒的な存在感を肌身で感じられる人気のアクティビティだった。
乗り慣れないマウンテンバイクに2人とも最初はおっかなびっくりだったが、慣れてくると風を切って走る感覚が気持ちよく、あっという間に7キロを走り終えてしまった。真理は「もっと走りましょう」と言って、竜一も了承したため、15キロのアドベンチャーコースを試してみようかと相談した。受付の若い女性に聞くと、こちらはやや起伏があり体力も消耗するが、人気は高いらしい。2人は即決し、再びマウンテンバイクをこぎ出した。
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