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竜一にとっての今回のニュージーランド訪問は、自身の未練へのけじめをつける意味を込めていた。
広島であの白いハンカチが入った封筒を受け取ってから感じていたことだが、真理もおそらくこれで最後の思い出を作ろうとしていると思った。その分、無理矢理夏休みを押し込み、はるばる南半球の島国までやってきたのだから存分に真理を楽しませて帰ろうと心に決めていた。それにしても、ここまで行動力を起こさせる愛というものは怖いものだと竜一は自嘲する気持ちもあった。
真理が計画した南島の観光コースは、竜一の目から見ても申し分なく、「さすが住民は違うね」と褒めてあげた。「まだ住んでそんなに時間が経っていないけど」と真理は笑ったが、旅行代理店のプロに褒められたのだから悪い気分ではなさそうだった。ただ、天気が悪い予報だけが気がかりだった。雨では星空も見えない。それは運に任せるしかなく、後でてるてる坊主を作ろうと2人で決めた。
竜一が手配していたレンタカーに真理を乗せて空港からホテルに向かい、チェックインして荷物を預けた。オークランドからの乗り継ぎ便が遅かったこともあり、もう陽は沈んであたりは暗い。ホテルは真理の家から歩いて10分ほどの距離にあった。真理がたまにいくレストランがすぐそばにあり、再会を祝してワインを飲むことにした。
案内された席に座って面と向かって座ると、お互いに照れてはにかんだ。
「レンタカーの中で思ったけど、香水変えた?」と竜一は質問した。
「わかりました?気分転換というか、南島に来てから変えたんです」
簡単な会話を交わすと、店員がメニューを持ってきた。竜一は久しぶりにソーヴィニヨン・ブランを真理と一緒に飲もうと決めていた。というのも、日本からの機内で、ニュージーランド航空は食事と一緒に白ワインを提供してくれる。飲もうかと思ったが、せっかくなら現地で味わおうと我慢していた。オークランドの公園でベンチに座りながら、というシチュエーションが最適だったが、真理を目の前にすれば申し分なかった。竜一がグラスに注がれた澄んだワインを見ながらそんなことを考えていると、真理から「どうかしたんですか?」と言われて我に返った。
「ううん。ソーヴィニヨン・ブランを見るとオークランドのことを思い出しちゃって」と笑い、「3カ月半ぶり?の再開を祝して乾杯!」とグラスをぶつけた。カンと高い音が店内に響いた。
真理が定番で頼むという魚介類の蒸し焼き盛り合わせを頼んだ。
「それでこっちはどうなの?」
「気楽にやってますよ。中華料理屋でアルバイトをしてますけど、そんなに大変じゃないですし」
真理は笑顔だった。
「竜一さんこそ、帰国してから大変なんじゃないですか?こっちより仕事量増えたでしょう」
「確かにニュージーランドの時よりは仕事してるけど、まあ、ぼちぼちというところかな」
久しぶりに食べるニュージーランドの食べ物は、楽しかった思い出と、真理との再会という調味料が加わってひときわ美味しく感じた。帰国してから、日本食の美味しさにありがたさ感じていたが、ニュージーランドの、食材の味や大きさをそのまま堪能させる大胆な感じがたまらなく贅沢だったのだと改めて気付かされた。
話したいことは尽きなかったが、明日は朝から竜一の運転で美しい山が眺められる国立公園へ行き、散策する予定だった。あまり遅くならないうちに切り上げて翌日に備えることにした。
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