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真理の元に竜一からの返事が届いたのは6月中旬だった。7月には夏休みを取って遊びに来ると書いてある。さすがの行動力だと真理は感心したが、2日前にはカイからも休暇をとってニュージーランドへ1週間遊びに行くと連絡があったばかりだ。幸い、時期は竜一が帰る直後にあたるためバッティングはしないが、どこかそわそわする気がした。竜一はクライストチャーチ周辺を案内すればよかったが、カイは真理が長く過ごしたオークランドも見たいという。真理もせっかくカイが来てくれるのならばオークランドの街並みを案内したかったし、仲良くしてくれた友人たちにもカイを紹介したかった。
続けざまに2人の来訪を受け入れるため、バイト先の中華料理屋に無理をいって長い休みをもらった。「そんなに休むのならクビにしたいところだが、真理はお客さんに人気だから特別だ」と店長のおじさんコックに言われ、恐縮しながら10日間の休みをもらった。
その後の竜一からの連絡によると、オークランドを経由して7月14日の夜にはクライストチャーチに到着するらしい。宿は市内の割安なホテルを予約して、真理には迷惑をかけないようにしたとメールに書いてあった。迷惑をかけられても困ると思いながら、「楽しみにしてます。気をつけて来てくださいね」とメールで返事を送った。
日程を改めて確認すると、カイがオークランドに到着する便の直後に竜一の帰国便はオークランドを出発する。クライストチャーチから竜一と一緒にオークランドへ向かい、見送りをしてからカイを迎えることにすれば一石二鳥だと思った。カイに「オークランドを案内したいから迎えに行く」と連絡すると、「わざわざありがとう」と言って了解してくれた。真理は竜一が直前に遊びに来ることをカイには言っていなかったし、言わないでおこうと思った。
真理は、竜一を案内する南島の観光ルートを考えていたが、そもそも旅行会社に勤務する竜一なのだから、南島といえども自分よりも詳しいだろうと思って連絡してみた。すると、「正直よくわからない」という頼りない返事で、「定番コースでいいですか」と送ると「問題ありません」と返ってきた。クライストチャーチ周辺のワイナリー巡りや、サザンアルプスと呼ばれる山並みの景観を楽しむツアーなどを計画した。天気が良ければ星空が有名なテカポ湖にもいきたいと考えていた。車の運転は竜一に任せるつもりだ。
7月になり、竜一がクライストチャーチにやってきた。オークランドからの乗り継ぎ便が到着し、大きめの荷物を引っ張る人たちの中に、少し日焼けした竜一の顔を見つけた。目が合うと、竜一は日焼けした肌に白い歯をのぞかせ、右手を振った。
「久しぶりです。元気そうですね」と真理は言ったが、久しぶりという感覚はあまりしなかった。ニュージーランドのゆったりとした時の流れでそう感じるのか、それとも竜一が帰国してからも時折心の中で竜一のことを考えていたからかわからなかった。ただ、竜一にとっては久しぶりに感じたようで、感慨深そうに真理のことを見つめて意味もなくうなずいていた。
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