24

 自室に戻ってベッドにもぐりこんだ真理は、久しぶりにカイに電話をかけた。

 近頃はカイも仕事が忙しいらしく、メールでのやりとりがほとんどだったが、どうしてもカイの声が聞きたくなった。

 「もしもし、真理どうした?」

 いつもの優しい声だった。

 「カイの声が聞きたくなっただけ」

 素直に答えた。真理は目をつぶって寝転がり、カイとの会話を続けた。

 「こないだね、すっごくきれいな星空を友達と見に行って心から感動したの」

 「そう言ってたね。よっぽどきれいなんだろうなあ」

 カイは真理の気ままな会話に丁寧に応じてくれた。

 「カイ、大好きだよ」と真理が言うと、「どうしたの急に。ちょっと酔っ払ってるね。声がいつもより甘えてるよ」とカイは敏感に変化を感じ取った。甘えた声は酔いのためだけではなかった。

 「急にカイに甘えたくなった…」

 「何か嫌なことがあった?」

 「ううん、大丈夫。カイのことを考え出すと止まらなくなったの」

 他愛ない会話を15分ほどして電話を切った。真理は、なぜカイに電話をしたのか、半分は正直に、半分は隠してカイに説明した。カイの声が聞きたくなり、甘えたくなったのは本当だった。酔っ払っているのも確かだった。ただ、竜一を思う気持ちがジリジリと大きくなっていっている現状に、怖さを覚えたことが一番の原因だった。心の中では気付いているが、声に出して説明する勇気はなかった。当初はあれだけ不快な印象を抱いていた竜一と、一緒に星空を見たり、よさこいを踊ったり、公園でワインを飲んで会話を重ねることによって、優しさを感じ、真理はその優しさに包まれることが心の支えになりつつあった。

 竜一と2人で会わないと決めていた当初はしっかりと自分の気持ちを制御できていたが、時を重ね、竜一と顔を会わせる機会が自然と多くなるにつれて真理の気持ちは揺らぎ始めた。婚約者がいるし、何より自分のモットーにしている「カイや両親に感謝する」という自分の中の取り決め、正義感に反することをしてしまう自分が嫌になっていた。今日の竜一への絶交宣言も、真理にとって苦渋の決断であり、自分の心をリセットする苦肉の策だった。

 当然、竜一と遊んだり、竜一の友人たちと遊ぶことは楽しかったし、皆いい友人ばかりで助けられてもいた。ただ、本当に自分はこのままでいいのか、このまま流されてしまっていいのかとハリネズミ公園からの帰り道で思い直し、「絶交」という、傍目から見れば子どものような行為に出た。

 竜一には申し訳なかったが、このままでは本当に竜一を好きになってしまう。そういう危機感が真理の中にはくすぶっていた。むしろ、すぐに着火しそうなまでに熱が高まっていた。だからこそ、関係を急速に冷やさなければいけなかった。強引な竜一との別れを選んだのはそういう理由からだった。

 カイの声を聞いて、真理は自分へのふがいなさから涙がこみ上げた。カイを含め、家族や職場の理解と協力をもらってニュージーランドにまで来たのに、「私はいったい何をしているんだ」と自分で自分をしかった。

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