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竜一は、真理から受け取った手作りのキャンドルを大事に抱え、自宅に戻った。
まだ昼間だったが、カーテンを閉め切って部屋を暗くし、さっそくキャンドルに火をつけた。淡くオレンジの炎が揺らめき、鼻を近づけてみると、かすかに香水の匂いがする。竜一は香水に詳しくなかったが、真理が使っているのは確かクロエの何とかいう種類だったと聞いたことがあった気がする。気がつくと竜一は、ろうそくの火を楽しむより、目を閉じて香りを楽しんでいた。
しかし、あまり大きなキャンドルではなく、長時間灯し続けるとすぐ無くなってしまうのではないかと思って2、3分で消した。大事なときに使うことにしようと思い、でも部屋のどこにいてもわかるようにと、テレビ台の上の見えやすい場所にキャンドルを置いた。
竜一は、夕方5時から彰や藍が企画してくれた誕生日パーティーまで仮眠をとることにした。会社もちょうど休みで、せっかくのクリスマスだから竜一の誕生日とクリスマスパーティーを兼ねてやろうと彰が提案してくれた。藍もすぐに賛同し、会社の同僚など5、6人が竜一の家の近くにあるホテルの1階のバーに集まることになった。
クリスマスプレゼントと誕生日プレゼントを一緒にされる不運に、竜一は自分の人生はこういう星の下に生まれたのだと割り切っていたが、今日だけは昼間の真理とのランチデートと、夕方からの誕生日パーティーと1日に2つのプレゼントをもらった気がして、幸せだった。
夕方5時、竜一が予定通りにバーに着くと、扉の影に隠れていた何人かがクラッカーを鳴らして「誕生日おめでとう!」とサプライズをしてくれた。「ありがとう!」と竜一は笑顔で答えたが、割と高級なバーだっただけにお店に迷惑をかけていないか少し心配になった。ただ、よく見ると店員もクラッカーを持ってうれしそうにサプライズに参加していたので、お店側も協力してくれているのだろうと思って安心した。テーブルの中央の席に竜一が座ると、飲み物が運ばれてきた。彰の簡単なあいさつに続いて乾杯し、あとはいつも通り賑やかな飲み会に移行した。
飲み物はビールからワインに移り、ボトルが3本空いて盛り上がってきたところで、プレゼントタイムになった。参加者が竜一へのプレゼントを一人ずつ手渡すことになった。
一人目は彰。ソフトボール仲間ということもあり、練習や試合でつかうスポーツサングラスだった。かなり高価なものに竜一は恐縮したが、お金に糸目をつけない、豪快な彰らしい選択に竜一は感激した。2人目は会社の別の部署の年上の男性社員。仕事で使えるおしゃれな紺色のハンカチだった。実用的なプレゼントにこれもまたありがたかった。その後、女性の社員からはワインボトルや、竜一がいつも会社でつまんでいるチョコレートのお菓子の詰め合わせなどをもらった。
最後に藍がプレゼントを渡すことになったが、藍が手に持っていた箱を見て、竜一は声を上げそうになった。見覚えがある、というよりも、昼間、真理に渡したものと同じキャンドルの箱だった。
「中村さんが確かキャンドルが好きだと言っていたので」
藍は精一杯の笑顔で渡してきた。竜一は「ありがとう」といって全力の笑顔を返して受け取った。ただ、別に悪いことをしているわけではないのに心臓の鼓動が早くなった。「箱、開けてみてください」と促されて中を見てみると、想像通りのキャンドルが入っていた。ただ、唯一の救いは、真理に渡したものと少し配色が違っていたことだった。「すごい!きれいだね」と褒めると、藍は照れ笑いを浮かべて遠慮がちに少しうつむいた。聞くところによると、竜一が買ったのと同じ、ニューマーケットの店の商品だった。
飲み会の最後、「20代最後の歳になった抱負を」と促され、竜一は酔っ払った頭で何とか皆への感謝と、もっと仕事をがんばりますと簡単なスピーチをしてパーティーは幕を閉じた。紙袋いっぱいに詰まったプレゼントを持って帰宅した竜一は、藍からもらったキャンドルをどうしようか迷った。確かに色合いがよく、火を灯すときれいなのはわかっていた。ただ、真理からもらったキャンドルのように灯してみることはなく、テレビ台の上に置かれた真理のお手製キャンドルの横にも置くこともなく、ほかのいくつかのキャンドルが並んだ引き出しにしまっておくことにした。
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