彼女の名はＬ

第40話 決戦は人質つきの不利状態

　レディース仮面の身体から力が抜ける。

　そんな馬鹿なと身体中が警鐘を鳴らしていた。

「…………しは…………」

「うん？」

「あたしは……トオルの存在はあたし自身が認めてる、一緒にいてもいいと！　闇の存在なんかじゃない、あの子がもし光なら、闇はあたしのほうよ……！」

「ほほう？」

　面白いことを言う、と、【あのお方】は微笑んだ。

「そのトオルとあたしが言ってる、あんたたちは絶対に許さないって！」

　レディース仮面は立ち上がり、木刀を構え直す。

「ひとまずお隠れください、ここは俺が」

　藤山が前にずいと出る。

　【あのお方】はふんと笑い、下がった。

「レディース仮面……決着をつけようじゃないか。俺が勝てばお前とレディースクイーンは我らに降る条件でどうだ？」

「あたしが勝った時の条件は？」

「つけるまでもない！」

　藤山が地面を蹴った。

「！」

　握られた針が正確にレディース仮面の顔を狙う。

　レディース仮面は針を木刀で弾き返した。

　同時に、藤山の蹴りが脇腹をとらえた。

　やはり重い蹴り。

　先程里佳の蹴りを食らった時も確かに重かったが、その数倍はあった。

「うぐ……！」

　身体が吹き飛びそうになる衝撃。

「降るなら今だぞ、レディース仮面！」

「嫌……よ……！」

　レディース仮面はずきずきとする脇腹を押さえながら、ぎり、と歯を噛んだ。

「【花嫁制度】に関わらせられた女の子たちのためにも、【あのお方】も含めて三原中川の悪は全員潰す！」

「やれるものならやってみろッ!!」

　二発目の蹴りが飛んできた。

　レディース仮面は思わず木刀で受け止めようとする。

「……っ！　……」

　べき、と音がする。

「ヒビ……!!」

　いまにも折れそうになる木刀。

　まずい、とレディース仮面は思った。

　木刀がなくなれば、自分は決め手を失う――

「さあ、言うことを聞いてもらおうか。【花嫁】もこちらの手の中にある今、お前にできることは降ることしかないはずだ」

「嫌だって……言ったでしょうっ!!」

　レディース仮面は体当たりをしかけた。

　藤山は針を構え、彼女の腕をつかむ。

「このまま洗脳部屋に連れ込んでやろうか。それとも再起不能になるほど痛めつけてやろうか――」

「お断りよ！」

　片腕で肘を入れるレディース仮面。

　二人はまた離れた。

　だが、ただでさえここまで上がってくるのに体力を相当使っている。

　短時間で決めなければどう考えてもレディース仮面に不利なのは見えていた。

　最後の一撃のために、ヒビの入った木刀はもうあまり使えない。

　不利を承知で、レディース仮面は蹴りを繰り出す。

　藤山は腕でそれを受けた。

「……いい蹴りだ。ますます欲しい、山尾トオルとともにな」

「――死んだって嫌よ！」

　まだレディース仮面の瞳から諦めの色は見えなかった。

　その強さはどこから来るのか。

　守りたいと思う者がいる強さか。

「ならば――――」

　藤山は指をパチンとはじいた。

　その音に、いままで動かなかった美幸が、ピクリと反応を見せる。

「…………は、い、…………」

「いい子だ、【花嫁】……レディース仮面を、刺せ……」

　ガシャ、という音とともに、美幸が静かに立ち上がる。

　藤山は美幸の拘束を解き、彼女に針を渡した。

「守るべき者から攻撃される絶望感を味わえ、レディース仮面」

「…………!!」

　じり……とレディース仮面は後ずさったが、針を構えた美幸は一歩一歩、ゆっくりと近づく。

「攻撃できまい！　さあ、どうする？　降れば命令を止めてやる」

「あたしは……絶対に、降伏しない！」

「ならば黙って刺されるがいい……どうせ、刺されてしまえば、次に目覚めたときは我らの仲間だ」

　それを聞けば尚更刺されるわけにはいかないが、降るわけにもいかない。

　レディース仮面は様子をうかがいながら後ずさっていたが、やがて、壁ぎわに追いつめられた。

「っ……」