第38話 クイーンは意地でも倒れない
後ろからヤンキーがレディースクイーンを襲う。
「隙だらけだっ!」
背中に走る衝撃。
釘バットで殴られた、と理解するのに、時間はかからない。
だが、防刃素材のおかげか、彼女が感じたのは衝撃のみで、皮膚をえぐるまでには至らなかった。
「ありがとう……紗姫さん」
スーツをひと撫でして、心から彼女は安堵した。
「お返しよっ」
振り向きざま、木刀でヤンキーを一突きにする。
暗闇に目が慣れてきた。
レディースクイーンは続けて、他のヤンキーにも木刀を見舞う。
「調子に乗るのも今のうちだ!」
島田が迫った。
繰り出したナイフが、レディースクイーンの腕をかする。
「……っ! ……」
血がしぶいた。
傷口を押さえ、レディースクイーンは島田をにらみつける。
「ふ……ふはははは……やったぞ!」
「こんなもので? なめるのもたいがいにしなさいよ!」
「いつまで強がっていられるかな……」
迫るヤンキーを二人、木刀で仕留めた直後だった。
島田がそう言って笑うのを、レディースクイーンは耳の遠くで聞いた。
「……!?」
足に力が入らない。
「まさか――――」
そうして思い出す。
レディース仮面が藤山の針に塗られた薬にやられた時のことを。
「ふふふ、効け効け。そのまま再洗脳してやる!」
「冗談……!」
「かかれ!」
まだ残っていたヤンキーどもがローラーシューズで滑りながらレディースクイーンを襲う。
「ぐっ……!」
まだ立っていられる。
レディースクイーンはよろよろとしながらも、攻撃を木刀で受け止め、身体を翻す。
力がだんだんとなくなっていくが、それでも、残っていたヤンキーどもに木刀を食らわせた。
「はあ……はあ……」
「限界か、レディースクイーン?」
島田が嫌な笑いを浮かべる。
残っているのは島田と数人のヤンキーどもくらいだが、レディースクイーンはもう体力がもちそうになかった。
目の前が霞んでいく。
「わたしがここで倒れたら……レディース仮面は……!」
レディースクイーンの目がかっと開く。
彼女は持っていたカードで、腕の傷をさらに拡げた。
「何っ……」
ぼたぼたと流れ出る血。
心なしか、すこし、ふらつきがおさまる。
だが、おそらく、あまりもたない。
レディースクイーンは自分のマントの切れ端を破き、木刀と自分の手を離れないようにきゅっと縛った。
「かかれ、かかれっ!」
島田が号令をかけるとともに、スピードを上げたヤンキーどもが襲いかかる。
レディースクイーンは木刀を構えた。
叫び声をあげる余裕はない。
もう既に、声もなかなか出せない状況にある。
彼女はぶん、と木刀を振るい、ヤンキーどもに命中させていった。
「レディースクイーン! ここで終わらせてやる!」
島田がナイフを構える。
ぐらぐらとふらつくレディースクイーンは、次あのナイフを受ければ終わりだ、と思っていた。
リーチは木刀のほうがある。
レディースクイーンは木刀を突き出し、島田の胸を一気に突いた。
「!」
だが、島田は倒れない。
「力不足か……レディースクイーン?」
ぎっと、レディースクイーンは歯噛みした。
身体ががっちりしているだけ、島田を一撃で倒すにはよほどの力がないと不可能だ。
そうはいっても、何度も攻撃を放つ余裕はもうない。
ぺた……と、島田のナイフがレディースクイーンの頬に触れた。
「終わりだ!」
「終わりは……そっちよ!!」
木刀が島田の脛を勢いよくとらえた。
がづっ、という音がして、島田がもんどりうって倒れる。
「ぐあああっ」
レディースクイーンは木刀を垂直に落として、島田のみぞおちに命中させた。
暗闇に、しん……とした静寂が広がった。
「全員、事が片づいたら補習授業と追試よっ……!」
倒れた全員を見回しながら、レディースクイーンはつぶやくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます