第35話 身体は限界を迎えても、精神は!

 一階のヤンキーどもを倒し、レディース仮面とレディースクイーンは二階へ駆け上っていった。

 うっすらと嗅ぎ覚えのある香の匂いが漂う。


「……あの、香ですよね」

「そうね」


 一階ごとに本丸に近づいている感覚。

 それぞれの背中に冷や汗が流れた。

 二階でも一階と同じようなヤンキーどもが襲ってくる。

 だが、さすが藤山の采配というべきか、二階のヤンキーどもは一階のヤンキーどもより強者揃いだった。

 おそらく【度胸試し】をクリアした者も混じっているに違いなかった。


「らあああああっ!」


 レディース仮面の叫び声が二階にこだまする。

 レディースクイーンも、カードを投げながら武器を奪って蹴りを入れるなど、どんどんとヤンキーどもをなぎ倒していった。


「……やるわねぇ、レディース仮面、レディースクイーン……」


 かつ、かつと音がして、階段から誰かが下りてくる。

 レディース仮面は一瞬、そちらのほうを見た。


「陣内里佳!」


 里佳がそこにいた。

 やはりいたか、と二人は思う。

 だが、考えている時間はなかった。

 里佳のほうに気がとられた瞬間、残っていたヤンキーどもに腕をつかまれる。


「!」

「あらあら、やーだー。よそ見はダメよ、レディース仮面?」

「くっ……」


 木刀が音を立てて落ちた。


「レディース仮面!」


 レディースクイーンも腕をとられ、もがく。


「素直に誠一様のところには行かせないわ。ここで倒してあげる」


 言うなり、里佳は重い蹴りをレディース仮面の腹に食らわせた。


「ご! っ……」


 この重さは、里佳も安全靴を履いているとみてよかった。

 こみあげた胃液を吐きそうになるのを、レディース仮面はようやく辛抱して、里佳をにらみつける。


「なーに、その目? 生意気ー」


 がつ、とレディース仮面の顎をつかみ、里佳は嫌な笑い方をした。


「その目……潰しちゃおっかな」

「!!」


 片手に針が握られる。


「やめなさい、陣内!」


 レディースクイーンが――思わず、有吉として叫ぶ。


「うるさーい……っと!」


 里佳の蹴りがレディースクイーンにも入った。


「がっ……!」

「クイーン!」


 レディース仮面が叫んだ。

 瞬間、彼女の視界が真っ赤になる。


「づッ!!」


 なにをされたのか、すぐにはわからなかった。

 宣言通り目が潰された――――? だが、見えてはいるようだった。

 実のところ、里佳はレディースクイーンに攻撃を切り替えたため、突き刺すはずの針を横に滑らせたのだった。

 どこが傷ついたかはわからない。

 だが、出血しているのは確かだった。


「あーら、外しちゃった。でも、その目じゃあ、きっとろくに戦えないわねぇ」


 満足そうに里佳は微笑む。

 だがヤンキーどもの拘束は解けない。


「こんなもんじゃないわよ。ズタボロにして誠一様のもとに連行するまで、散々苦しんでもらうわ」

「………!!」


 顔の左半分が血に染まった状態で、レディース仮面はされるがままだった。

 二度、三度――――。

 里佳の蹴りは予想以上に重かった。


「レディース仮面ッ!!」


 レディースクイーンの悲壮な叫び。

 床に膝をついたレディース仮面の拘束が、ようやく解けた。

 その場にばったりと倒れた彼女を見下ろし、里佳は高らかに笑った。


「あはははは! もっともーっとズタボロになるのよ、レディース仮面!」


 だが――――


「…………た…………」

「は?」


 レディース仮面は、ゆっくり起き上がった――――


「約束した……ぜってー、勝てってな……」

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