第五章 決戦生徒会、レディース仮面よ永遠に

第32話 少年は生徒会室に再び殴り込む

 【山尾トオル】は三原中川学院に来ていた。

 制服を持たない【彼】が学内を歩くと、どうしても多少は目立つ。

 それでもまだまだヤンキーの絶対数が多い昨今、それをとがめる生徒も教師もいなかった。

 トオルが目指していたのは生徒会室だった。


「おら、たのもー!」


 ポケットに手を入れ、生徒会室の扉をノックもなしに蹴り開ける。

 中にいたヤンキーたちは一律に沸き立った。


「なんだてめぇっ」

「何の用だっ」

「うるせえちょっと黙れ雑魚どもが!」


 トオルの一喝。

 会長席に座っていた島田がゆっくりと立ち上がった。


「藤山から聞いている。お前、山尾トオルだな」


 トオルはイヤーカフをふるんと揺らして島田を見た。


「おうさ。わかってるなら話は早ェや。藤山はどうした」

「俺に何か用か……」


 トオルの背後で声がする。

 彼は振り返って二歩ほど飛びのいた。


「藤山さん!」

「藤山さん、無礼な奴が入ってきて!」


 ヤンキーどもが入ってきた藤山に群がる。


「無礼な奴……?」


 藤山は部屋の奥に目をやる。

 見覚えのない、おさげの少年がいた。

 だぼだぼとした上下の私服を着て、鋭い瞳をしている。


「よう、藤山誠一……!」


 だがその物言いには覚えがありすぎる。


「山尾トオルか、お前」


 先日藤山が最初にトオルと相対したときは【めぐみ】の格好だったため、彼はこれが山尾トオルの本当の姿か、と納得した。


「何の用だ。俺たちの仲間にでも入る気になったか?」

「あ?」

「それとも――レディース仮面が俺たちに降伏する話でも持ってきたか?」

「バカかてめえ」


 冷静に言ったトオルに、またヤンキーたちが憤る。


「てめえっ、藤山さんになんて口をきくっ」

「フクロにすんぞっ」


 藤山は手でヤンキーたちを制した。


「……では、何の用で来た?」


 トオルは藤山のその言葉を待たず、びゅっと拳を突き出す。


「宣戦布告だ」

「ほう?」

「三原中川のヤンキーどもは全員潰す! お前らも含めてな!」

「……言うじゃないか。だが【花嫁】もこちらの手の中にある今、それができるかな……?」


 藤山はにい、と笑った。

 トオルも負けじと笑みを浮かべる。


「レディース仮面とレディースクイーンは美幸を取り戻す気マンマンだぜ? てめえらなんかにゃぜってー負けねえってよ」

「面白いことを言う。ならば――――」


 藤山は顎に手をやって、少し考える様子を見せると、島田に言った。


「レディース仮面たちを【城】にご招待申し上げようと思うが、どうだろうな? 会長殿」

「【城】……?」


 トオルはいぶかしげに藤山を見た。

 水を向けられた島田は低く笑うと、なるほど――とうなずく。


「藤山、お前に任せる。その無礼なネズミの始末もな」

「おっと、俺ァまだ始末されるつもりはねえぞ? その【城】ってな、どこにある?」


 いつでも飛びかかれるように姿勢を低くして、不敵にトオルは微笑んだ。


「学校の裏手に廃ビルがあるだろう。そこが【城】だ。もともとは俺たちが度胸試しに使っているが――お前たち向きにしてご招待しようじゃないか」

「廃ビルねえ。キモダメシでもやるつもりか」

「そっちのほうがいくらかマシだったと後悔させてやる」

「美幸はそこにいるんだな?」

「もちろんだ。時間はきょうの夕方五時、だが無論――」


 藤山はその先を言わず、ただ笑った。

 その【ご招待】を蹴れば美幸を助けられない。

 かといってただの【ご招待】ではあるまい。

 なにかがあれば、レディース仮面たちはまとめてあちら側に降る形になるだろう。

 藤山にはそれだけの自信があるのだ。

 だが――――


「その【ご招待】、受けたぜ。あいつらにはそう伝えておく」


 トオルは姿勢を正すと、それだけ言って生徒会室を出た。


「待てっ」

「逃がすな、ネズミっ」


 ヤンキーどもが後を追おうとする。

 藤山はそれを静かに制した。


「……全員に号令をかけろ! 【城】の準備だ!」

「はいっ」

「レディース仮面……引導を渡してやる……!」

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