第31話 こめた決意は仲間とともに

 だがそれにしても、と有吉は思う。

 美幸はどこに連れていかれたのだろう?


「岡部を取り戻すには、わたしたちが降るしかないというのが向こうの言い分でしたね」

「うむ……だが、それで済むわけがないだろうね」

「そもそも、わたしたちが降れば、学院は無法地帯です」

「向こうだって素直に君たちが降るとは思っていないはずだしね」


 有吉は眉間にしわを寄せて、戦うしかない、と考えていた。

 その時だった。


「…………素直に降るつもりは…………ありません…………!」


 めぐみがゆっくり起き上がる。

 有吉は正面からめぐみの顔を見た。


「坂本!? 坂本だね!?」

「…………はい…………すみません、おじいさま。トオルがご迷惑を」

「いや、それは構わないよ。めぐみちゃんは大丈夫かい」


 めぐみは静かにうなずいた。

 だが、それきり、うつむいたままだった。


「私のせいで……岡部さんが……」

「坂本……?」

「守れませんでした……私には、守れなかった……」


 有吉にはめぐみの気持ちが痛いほどわかった。

 それでも、いまは立たなければならない時だ。


「坂本! 泣くのはあとにしなさい! 岡部は守れなかったんじゃない、これから守るんだよ!」

「…………先生…………」

「めぐみちゃん。順がこの場にいても、いまの有吉くんと同じことを言ったろうね」

「おじいさま……」


 有吉はめぐみの肩を抱く。


「素直に降るつもりがないのは、わたしだって同じ! 岡部は絶対に助け出す!」

「はい……!」


 いつもの表情に戻って、めぐみはしっかりとうなずいた。


「坂本、とりあえず、お順さんに連絡しておいて。岡部の親御さんには、わたしから説明しておく」

「……なんて……?」

「泊まりがけの勉強合宿とでも言っておきましょう。ヤンキーにさらわれたなんて口が裂けても言えないでしょ」


 それは確かにそうだった。

 それぞれがそれぞれに連絡を済ませると、一時間ほどのちに順が重箱を持って家からすっ飛んできた。


「ちょっと、もー、なになに! いよいよ殴り込みね!?」


 恐る恐るめぐみが重箱を開くと、中にはたくさんのおにぎりと、卵焼き、チクワとカマボコを醤油で煮たものがぎゅうぎゅうに詰められていた。


「母さんなんでウキウキしてんの……」


 美幸がさらわれたとめぐみは電話で話したはずだが、その状況すら楽しんでいるようなどこかノリノリな順の様子に、有吉は若干引きつつ、だからこそめぐみはレディース仮面たることができるのだろうと思った。


「で? トオルも出たんだって?」

「……ごめん……」

「ま、こんな戦いだもんねぇ、どこかで出るとは思ってたわよ。ついでだから手伝わせてもいいんじゃない?」


 言わなくてもあの子は出るつもりでしょ? と順は言う。


「そう言っていたよ、トオルは」


 理事長が優しい瞳でめぐみを見た。

 めぐみは無意識のうちに胸を押さえていた。

 ひとりではない。

 いまはこんなにも仲間がいて、守るべき人もいる。

 きゅっと唇を噛んで、めぐみは全員を見回した。


「……よっし……三原中川のヤンキー、全員潰します! 手を貸してください!」

「もちろん!」


 それから長いこと、理事長室の灯りは消えないままだった。

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