第23話 喧嘩の心得はハッタリ八割です
有吉と美幸はめぐみが送っていくことになった。
紗姫は泊まっていって、翌日昼に順が送っていくという。
「ごちそうさまでした、お順さん」
「またいつでも来てちょうだい。めぐみも喜ぶわ」
「……別に、そんなことは……」
また元に戻って、少しそっぽを向くめぐみ。
美幸はその横顔を見ながら、くすっと笑うのだった。
「坂本は、ずっと戦ってきたんだね?」
帰り道、有吉が少しうつむいて聞く。
「そうですよ」
「……いつから?」
「…………中学生の頃からですかね…………」
二人は言葉を失う。
ということは、中学校にも【あのお方】の手は伸びていたということだ。
そして、それを阻止するために、ずっとめぐみはレディース仮面として――
「思ったことはない? 普通の中学、高校生活に戻りたいって?」
有吉の問いに、めぐみは一瞬だけ戸惑う。
「……さあ……私はずっと戦うことが普通だと思ってきましたからね」
そうして彼女は少し笑った。
どこか陰のあるその笑みに、有吉と美幸の胸は痛んだ。
「いつか戦いが終われば、そのとき、先生たちの言う【普通】になるんでしょう。その時までに、私が卒業しなければ、ですが」
終わらせなければならない。
美幸と有吉はほとんど同時にそう思う。
「あ、わたし、こっちだ」
有吉が四つ路で言った。
「そこまでお送りしますよ」
「大丈夫。それより岡部を送ってやって、なんかあればわたしにはカードがあるし」
それでも家の前まで、と言っためぐみの言葉に負けて、有吉は送ってもらった。
この正義感がいままで何年もレディース仮面としてやってきた原動力に違いなかった。
それでも、と有吉は思う。
窮屈とまではいわないが、この精神力が枷になったことはなかったのか――と。
一抹の不安を胸に抱えて、有吉は自分の家の前で二人とわかれた。
美幸とめぐみは美幸の家を目指してゆっくりと歩く。
「……今日ね、いろんなことが知れて、よかった」
「そうですか……」
美幸はめぐみの横で、ぽつりぽつりとひとりごとのようにつぶやいた。
「坂本さんのことも、お順さんのことも。……ごめんなさい」
「なにがです?」
「もっとね、気軽なものかと思ってた。ノリというか」
「ノリ……」
ノリであんなことできませんよとめぐみは苦笑する。
それにしては格好にしろ物言いにしろノリノリみたいだけど、と美幸が言うと、あれはハッタリみたいなものですからと返す。
「喧嘩はハッタリ八割腕二割。私もそう強いほうではありませんよ」
そうは言ってもあの実力は伊達ではあるまい。
聞けば理事長に剣道の心得を教わったのだという。
「かなり自己流です。段持ちでもありませんし」
「そうなの!?」
自己流でなんとかなる、それだけ急ごしらえのヤンキーが多いということです、とめぐみはまっすぐ道の向こうを見つめた。
美幸はごくりと息をのむ。
だから逆に、ハッタリだけでは藤山に通用しないのだ。
いままでの相手とは明らかに違う、それを彼女はひしひしと感じている。
「ですから、友達でいるのは危険かもしれません。先生はともかく、岡部さんは――」
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