第24話 それぞれの想いは別方向へ向かう
いつの間にか、二人の足は美幸の家の前に来ていた。
「…………坂本さん」
美幸はめぐみを見ないように、名前を呼んだ。
「どうしました」
ギュッと顔をめぐみに向けて、まっすぐに目を見つめる。
めぐみはどぎまぎとした。
「やっぱりわたし、坂本さんと友達でいたい! ね、めぐみちゃんって呼んでもいい!?」
「え……!?」
めぐみの胸に顔をうずめて、美幸は言った。
「呼びたい! 呼ばせて? わたし、紗姫さんみたいに、めぐみちゃんの力になりたい……!」
「す……好きにすれば、いいでしょう……!?」
めぐみは完全に戸惑っていたが、まんざらでもなさそうであった。
「わたしのことも美幸って呼んで? 岡部さんじゃ、なんか、他人行儀みたい」
「そ……それはちょっと……」
そこまではさすがに、とめぐみは拒否する。
慣れていないのだ。
べりべりと引き剥がすように美幸と離れると、めぐみは「おやすみなさい」と美幸に言った。
「おやすみ、めぐみちゃん。帰り、気をつけてね?」
「……大丈夫ですよ」
美幸はいつまでも、玄関先からめぐみに手を振っていた。
――夜道で、めぐみは星を見上げる。
「………………」
祖父や紗姫以外の人間から、めぐみちゃん、と呼ばれるのは本当に久しぶりだった。
いままで、守らなければならないものに、こんなに近しい人間がいたことはなかった。
だからこそ、彼女は戸惑う。
どうしたら守れる?
胸に手を押し当てて、めぐみは家までの道を歩いていた。
「めぐみ」
順がそこまで来ていた。
「母さん。……紗姫さんは」
「家でゆっくりしてもらってるわ」
「迎えになんか来なくても別によかったのに」
「なんかあったらお父さんに顔向けができないだけ! それでなくても一度藤山に狙われたんだから、用心はしすぎってことないのよ」
「……ありがと」
この人には頭が上がらない。
それは戦う者として大先輩だったこともあるし、なにより母親だ。
歩きながら、めぐみはぽつりともらす。
「考えてた。どうやったら岡部さんを守れるか」
「経験者から言わせてもらうけどね、理屈じゃないのよ。積み重ねた経験が、必ず身体を動かしてくれる」
「そういうものかな」
「一人で守ろうと思わないで。さっきも言ったけど、仲間がいることを忘れないで」
「…………」
めぐみは深くうなずくのだった。
暗闇の中、藤山は駒をこつこつと叩く。
「クイーンに――俺の【花嫁】に据えたい女がいます」
「ほう? 陣内の娘か」
「いえ……」
向かい合って話す老紳士は、意外だ、という顔をした。
「てっきりそれもあって呼び寄せたものと思っていたが」
「里佳はあくまで駒のひとつ……利用できるものはするだけですよ」
強い者は好きだ。
里佳もレディース仮面も……レディースクイーンも。
だが、クイーンになる女とは手に入れたいと思う次元が違う。
「まずは島田に命じ、早急に花嫁の公表をします」
「それで奴らがどう出るかが見物だの」
椅子に深くかけて、藤山は目の前の老紳士を見つめた。
最終的には全部手に入れてやる。
俺はずっとそうしてきた――
ぎい、と藤山の口角が上がった。
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