第22話 ひとりじゃないは魔法の言葉
いいところに気がついたわね、美幸ちゃん――順はそう言って、美幸に茶のお代わりを注ぐ。
「大方が【あのお方】と繋がってる。黒幕が【花嫁制度】の子を親に持っていたりね」
「やっぱり」
私もなんとかしたかったのだけど、旦那の猛反対にあってね、と順はいたずらっぽく笑った。
しかしすぐに彼女は笑顔を消し、めぐみと有吉に向き直る。
「やらなきゃいけないことは単純だけど、とても難しいわ。五年に一度の【花嫁制度】も、多分もう走り出してしまってる」
「今年で潰す。それでいいでしょ」
めぐみの声にほんの少しの怒気がにじむ。
できれば誰かが選ばれる前に潰してしまいたいけれど、と、彼女は親指の爪を噛んだ。
「確か決定するのは生徒会長……」
有吉がその顔を思い浮かべる。
「島田くんだわね。まあ乗っ取りに等しい就任だったけど」
「その下に藤山がいるってことですか? でもなんで……」
「……島田は隠れ蓑でしょうね……」
あの一族はいつもそうだわ、と順は苦笑する。
「私がレディースクイーンだったころ、ボスは島田だったのよ。父親のほうのね」
「あっ……校長先生!?」
「お父さんは島田が校長になるのを阻止しようとしたらしいわ。そりゃあそうよね、私と戦った相手なんだもの。けれど――――」
何者かに階段から突き落とされ、入院していたときに、島田が無理矢理に校長に就任したのだという。
「多分【あのお方】の差し金だったと思うわ」
「そうまでして【あのお方】はいったい何を……」
有吉の疑問に、順は少し考える。
言ってもいいものか、どうか。
しかし、知っていることは全部話すと決めた。
めぐみも有吉も覚悟を決めている。
ならば、母親たる自分、先代たる自分がドンと構えないでどうする。
「日本を裏から操るつもりよ」
「はい?」
すぐには合点がいかなくて、美幸が半笑いの状態で反応する。
「【花嫁制度】が何十年続いてると思ってる? それで自分の思い通りになる人間が増えてごらんなさいよ」
藤山が使っていた香の匂いを思い出して、有吉も、そしてめぐみも、知らず、ゾッとした。
「三原中川に目をつけているのだってただの気まぐれじゃないわ。私立進学校にして膨大な生徒を抱えるマンモス校、これほどいい標的はある?」
「…………ないね…………」
めぐみがまた親指の爪を噛んだ。
「まして今、生徒の半数以上が藤山の言うことを聞くヤンキー化。計画は着々と進んでいるとみていいわ」
なんてこと、と有吉はため息をつく。
教師としての自分のふがいなさを十分すぎるほど感じてきたつもりではあったが、どうやら足りなかったようだった。
「潰す。潰す潰す潰す……」
めぐみががりがりと爪を噛む。
順は瞬間、ハッとなにかに気がついたようにめぐみの手首を押さえた。
「めぐみ!」
「……あ……ごめん、母さん」
「今まではひとりだったけど、今回のあなたはひとりじゃない。美幸ちゃんや先生がいる。仲間に頼ることは弱いことじゃないわ、頼りなさい! いいわね!」
めぐみに喝を入れるように、順は半分叫んだ。
有吉も美幸も、めぐみの顔を見てしっかりとうなずく。
「めぐみちゃん、それから、有吉先生」
紗姫がめぐみと有吉に、箱を渡す。
「紗姫さん……?」
それぞれが箱を開くと、そこにはレディース仮面とレディースクイーンのスーツがひと揃い入っていた。
「少し重量がつくけど、防刃素材を入れて強度を増したわ。少なくとも針やナイフは防げるはずよ」
「ありがとうございます!」
「先生はどちらかというと遠距離攻撃型だけど、念のためね」
「すみません……わたしにまでこんな手をかけていただいて……」
当然よ、と紗姫は笑う。
順が戦っていたころを思い出すわ、と彼女は言った。
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