第21話 真実は誰も知らなかったところに

 食事の後、全員はリビングでお茶を飲んでいた。


「きょう集まってもらったのはほかでもないわ」

「……紗姫さんがいるのにも関係がある? 母さん」

「そうね。これからの戦いに際して、私や紗姫が知っていることを伝えておきたいの」


 めぐみが息をのむ音が、美幸にも伝わって聞こえた気がした。

 有吉もじっと順を見つめる。


「何から話そうかしらね。――三原中川にある、【花嫁制度】のことは知ってる?」

「それってもうすぐある、【花嫁選び】……?」


 順は深くうなずいた。

 でもあれってミスコンですよね、と言う美幸に、静かに首を振る。


「その実、自分の思うとおりになる人間を増やすための悪い制度よ。ここにいる紗姫も、その被害者の一人」

「紗姫さんが? でもそんなこと、母さんは一言も」

「今言ってる」


 娘の発言を軽くいなしながら、順は語った。

 紗姫は三十年前、【花嫁制度】によって選ばれた女子だったという。

 もちろん美幸の言うとおり、一般生徒にとっては当時もミスコンのような扱いであった。

 だが――――


「それをきっかけに出会ったひとと結婚したけれど……そのひとは【あのお方】と繋がっていたの……」

「あのお方?」


 涙声で言った紗姫の背中をさすりながら、順はつなぐ。


「正体は私たちにも分からないの。ただ、とても大きな敵なのは間違いない」


 昔、私が戦っていたときにも、背後にいたのよ――順はそう言った。


「私には滅ぼしきれなかった。そのために紗姫に辛い思いをさせてる」

「どういうことですか?」

「……紗姫とご主人の間には、子どもがいたの。だけど、その子は、生まれてすぐにさらわれた」

「その……【あのお方】って人に?」

「その子は……どうなったの……」


 めぐみは静かに聞いた。

 順はひと呼吸置くと、めぐみをまっすぐ見つめて言った。


「【あのお方】の養子になったところまでは、つかめてる。藤山誠一という名前でね」

「…………!」


 めぐみはすぐに声が出ない。

 それは美幸も、有吉も同じであった。


「【花嫁制度】に選ばれた子たちは、ほとんど【あのお方】の駒として使われて、潰れていった。紗姫もその一人……」


 聞けば誠一を奪われた直後、紗姫はもう少しで【あのお方】の手の者に殺されそうになった。

 それをすんでのところで順が救い、いま、彼女は隣町にひっそりと隠れ住んでいるのだという。


「でも、お順やめぐみちゃんの手助けはしたかったの」

「だからスーツや木刀のメンテを……」


 子どもが敵に回っていることを知っていて。

 その心情やいかばかりか――と、めぐみも美幸も、無論有吉も思う。


「お父さんがめぐみに頼んだのは、もともと三原中川を平定することだったわ。でも、根本的なところから叩かないと、平定はできない」

「……そうだね」

「あのっ、お順さん」


 美幸がハイと手を挙げる。


「いままで、レディース仮面が平定してきた学校も、もしかして」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る