第20話 夕食はみんなで和気あいあいと

 傷を作って帰ってきためぐみに、美幸は大いに心配した。


「坂本さんっ。大丈夫なの!?」

「……平気です、このくらい、ただのひっかき傷ですよ……」


 それより、とめぐみは言って、里佳のことを有吉と美幸に話した。


「話は聞いてるわ。確か七組に転校してくるって――」

「藤山のことを様づけで呼んでいました。彼に呼ばれたと考えるのが適当でしょうか」

「でも、だとすれば、向こうの味方が増えたってことよね」


 美幸が不安そうに言う。


「……本気で私たちに対抗しようとしているということでしょう……」

「多分まだ、わたしたちを引き入れることも諦めていないしね」


 そのとき、めぐみのスマホが鳴った。


「母さん? ……みんなを……?」


 通話口を押さえて、めぐみは美幸と有吉に、順が夕食をごちそうしたいと言っている、と伝えた。

 二人とも二つ返事で了承したので、めぐみはもう一度スマホに向き直る。


「……うん……うん。じゃあ、みんなで行くから」


 電話を切っためぐみに、美幸はニコニコ笑顔で言う。


「お順さんの料理、超楽しみ!」

「……たぶん、それだけではないと思いますけどね……」

「坂本、それどういうこと?」

「何か話したいことがあるのかもしれません」



 めぐみたちは連れ立って家へ向かう。


「ただいま」

「おじゃましまーす」

「おっかえりー! まあまあ、美幸ちゃんも先生も、どうぞ上がって上がって!」


 出迎えた順はいつもの明るさであった。

 上がっためぐみは、応接間に誰かいるのを見た。


紗姫さきさん……!」

「久しぶりね、めぐみちゃん」


 紗姫と呼ばれた女性は、柔らかな笑顔を向ける。


「あのう……坂本、この方は?」


 有吉がそっとめぐみに聞いた。


「紗姫さんっていって……私のスーツとか、木刀のメンテは、この方が」


 だがめぐみは首をひねった。

 いままでに、スーツのメンテは順を介してのことが多かったからだ。

 ましてや家に紗姫が来ることなど、ここ二~三年で一回あったかどうか。


「初めまして。あなたが二代目のレディースクイーンね」

「あっ……有吉と申します、よろしくお願いいたします」

「わたしは岡部美幸っていいます」

「聞いてるわ、めぐみちゃんの友達なんですって? よろしくね」

「違いますってば、クラスメイトです……」


 めぐみはまた否定したが、それが少し照れ臭そうに見えたのは美幸だけではなかった。



 夕食は順特製のポトフであった。

 じっくりと煮込まれたテール肉と野菜のうまみが十分にスープに染み込んだもので、美幸たちは舌鼓を打った。

 そんな中でも、めぐみは静かな顔をしていた。


「お順さん、これすっごく美味しいです!」

「まぁー、嬉しいわ、めぐみはいつも仏頂面でご飯食べるから張り合いなくって」

「またそうやって娘をディスる」


 めぐみは少し笑って言った。

 彼女のこんな笑顔を見るのは有吉も初めてであった。

 戦いのないときでも順が言ったように仏頂面なめぐみの、本当の顔を見た気がしていた。

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