第19話 新しい転校生は超がつくギャル

 レディース仮面の活動が本格化したのは放課後だった。


「世紀末の覇者!! レディース仮面、参上!!」

「新世紀の女神!! レディースクイーン、見参っ!!」


 多方面に出たヤンキーどもをぶちのめすため、かたやレディース仮面が、かたやレディースクイーンが大暴れし、新聞部の賢はどっちに行ったらいいのやらうろたえる始末であった。

 美幸は――それがもうすっかり習慣になっていた――理事長室で待機する。

 とりあえず、学院で一番安全な場所なのだ。


「めぐみちゃん、体調が元に戻ったようでよかったねぇ」


 理事長が穏やかな顔で窓のほうを見る。


「先生も仲間に加わってくれましたし、これで安心ですね」

「うん……まあ、そうとばかりは言えないのだが……」

「え……?」



 レディース仮面の木刀が、ヤンキーの肩をとらえた。


「木刀クラッシャ――――!!」

「げはああっ」


 カツアゲされていた一般生徒を逃がしてしまうと、レディース仮面は木刀をもてあそびながらヤンキーどもに声をかける。


「もっとやりたきゃかかってきなさい! 全員沈めてやるから!」

「……そう。じゃあ、あたしがお相手願うわね?」


 女生徒の声がして、レディース仮面はそちらのほうを見る。


「あんたたちは手を出さないで! これは誠一様の命令よ」


 ヤンキーどもをそう一喝すると、女生徒は前に出てきた。

 見る限りギャル風に制服を着た、普通の女生徒である。

 ただ――――


「見慣れない制服ね。どこのコかしら?」


 三原中川の制服ではなかった。


「そんなのはどうだっていいわ。あんたがレディース仮面なの」


 レディース仮面は木刀をぎっと握った。

 殺気はないが、闘気は感じる。

 こいつは……強い。


「名を名乗ってもらえるかしら? 藤山の知り合い?」

「あたしは里佳、陣内里佳。誠一様を呼び捨てるなんて何様のつもりかしら」


 言うが早いか里佳は蹴りを繰り出した。

 少し低めだが、スピードは藤山と同等か、それよりも速い。

 レディース仮面は瞬間的に、木刀を弾き飛ばされる、と察し、素早く大股で一歩半ほど後ずさった。

 木刀を上段に構え直す。


「木刀クラッシャ――――!!」


 素早く位置を下げて走った。

 里佳も同時にレディース仮面をめがけて走り出す。

 その右手には何かが光っていた――――

 カツ、という音のあと、ビシッという音が響き渡る。

 レディース仮面が里佳の針を受け止めたあと、木刀で彼女の肩口をとらえたのだった。

 針の刺さった木刀を振るって、レディース仮面が振り返ると、里佳はシャツの破れた肩を押さえて笑った。


「なるほど、聞いていたとおりね。やるじゃない」

「何しにここへ?」

「誠一様の頼みとあればどこへでも行くわ。もうすぐ【花嫁】も選ばれるというし……あたしも候補の一人になろうと思ってね?」

「あんたも【花嫁】の話を……」

「ま、今年選ばれるのはあたしに決まってるけどね!!」

「ずいぶんな自信だこと」


 その自信はいったいどこから来るのだろう、と一瞬レディース仮面は思ったが、要らぬ火種はないほうがいい。


「あたしに傷をくれたのはあんたで二人めよ。決着はまた今度ね、レディース仮面」

「待ちなさい!」

「今日はほんの挨拶代わりよ。また楽しませてもらうわ――」


 シュシュッ、と音がして、何本かの針が飛ぶ。

 レディース仮面はやはり木刀で受け止めた。

 三本刺さり、一本は頬をかすめる。


「!」


 藤山の針をくらったときのような、身体への異変は起こらなかった。

 これが本当に【挨拶代わり】だからなのだろう。

 次はこうはいかないというわけだ。

 頬のひっかき傷に手を触れて、レディース仮面は里佳の後ろ姿を見つめていた。

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