第三章 新しい転校生、作戦会議は深刻化
第18話 お昼の会話は出汁巻きとともに
島田は生徒会室でイライラを隠せない様子だった。
「藤山! どうなってるんだ、これはっ!」
彼が床にたたきつけたのは、今朝の学校新聞号外――――
『レディース仮面に強力な助っ人!! レディースクイーン見参!!』
『美しき新世紀の女神! 今後の活躍に期待!!』
「読んでの通りだ」
藤山はシンプルな返事をよこす。
「こいつはお前がニセモノのレディース仮面として作った奴だったろう?」
「邪魔が入った……」
ストン、とダーツの矢が的に刺さる。
「最近、レディース仮面にどんどん押されてるじゃないか。確かにいろいろと任せてはいるが、あまり失敗が多いと親父に報告するぞ」
「…………」
藤山は黙って島田を見た。
「なっ……なんだ、その目はっ。お前なんかどうなるかわからんのだぞっ」
そうだな、と小さくつぶやいて、藤山はまたダーツに興じる。
「それよりも」
藤山は矢を投げながら静かにつぶやいた。
「学院の花嫁を決める準備は進んでいるのか、会長様?」
「む……」
島田は腕を組んだ。
「進めていく! 親父からもせっつかれているしな!」
藤山はまた美幸の顔を思い浮かべつつ、さてどうするか――と思案していた。
昼休み。
「坂本さん、お弁当、一緒に食べよ?」
「……いえ、私は……」
「そんなこと言わないで! お弁当だけでも、ねっねっ?」
美幸はめぐみの腕にぎゅうっとしがみついてねだった。
「…………仕方ありませんね。なにかあったらすぐ六階へ行きますよ?」
「六階? ……あ」
そこで美幸はめぐみが昼休みにどこへ行っているのか、レディース仮面の登場がなぜ早いのかを察した。
理事長室だ。
なるほどあそこなら学院全体を見渡せるし、非常階段もある……
気取られぬように登場するにはうってつけの待機場所というわけだ。
めぐみはすこしため息をついて、美幸と向かい合って小さな弁当箱を開いた。
静かに食べ始めたが、会話の間がもたない。
美幸は自分の弁当箱を開きながら、思い出したように言った。
「そういえばね、そろそろ、【花嫁選び】があるんだよ」
「……【花嫁選び】……」
出汁巻きを口に運んだめぐみの目に、光がともった気が、美幸はした。
「この学院で、五年に一度、一番の女の子を決めるんだって! ミスコンみたいなもんらしいんだけど」
めぐみは黙って白飯を口に運ぶ。
「でもね、どうやって選ばれるのかはわかんないんだって。坂本さんも候補だよ!」
「…………まっぴらごめんですけどね…………」
「え?」
めぐみのつぶやきは美幸に届かなかった。
届いていたとしても、その意味をいま彼女が理解することはない。
「さて……」
あっという間に弁当を食べてしまって、めぐみは席を立つ。
「六階に行ってきます」
待機というわけだ。
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
「……ありがとう、ございます」
めぐみは少し照れたように礼を言った。
ちょっぴり近づけたかも、美幸はそう思ってうふふと笑うのだった。
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