第15話 大ピンチはかつてないレベルで

 保健室に入った美幸と賢は、ニセモノをベッドに寝かせた。


「……これから、どうするんですか」

「とりあえず、目が覚めるまで待つわ」

「です……」


 言いながら、賢は窓の外を見た。


「ああっ」

「どうしたのっ」


 美幸も窓の外を見る。


「レディース仮面がっ、また誰かと戦ってますっ」


 叫ぶなり、賢は駆け出して行った。

 美幸も追いたかったが、ニセモノひとり残していくわけにもいかない。

 だが、いまの体調で、レディース仮面は本当に大丈夫なのか……!?

 彼女がやきもきしていたところに、保健室のドアがガラッと開いた。


「先生……? ――お順さん!?」

「こんにちは、美幸ちゃん」


 順は少し笑って、ベッドの側へ行く。

 ニセモノが着けていたゴーグルをそっと外す――――


「有吉先生っ!?」


 美幸は驚くとともに、有吉の様子のおかしさを思い起こして納得した。


「もしかして……操られてた……?」

「そう考えたほうが適当ね。何年たっても変わらないったらないわ」


 順はため息とともにそうつぶやいた。


「ここは私に任せておいて。美幸ちゃんはめぐみのところへ」

「え、え、でも……わたしじゃ何もできない……」

「そばにいるだけで、十分なこともあるわ。行って!」

「はい……!」


 美幸は元の場所へ駆けた。



 藤山は勝ち誇った顔をしてレディース仮面の前にいた。


「ずいぶんと調子が悪そうじゃないか、ええ?」

「…………」

「初めて戦うんだ、もっと楽しませてもらわないとな……」


 とん、とんと、靴のつま先を軽快に地面で叩く。

 めぐみのときに不意打ちされたからわかる。あのつま先は危険だ。

 だが、もっと他にも隠し玉を持っているような気がして、レディース仮面は木刀を握る手に力を入れた。


「……初めましてにしては、ずいぶん手荒なご挨拶ねぇ……?」

「さあ、どうかな……」


 嫌な笑い。

 藤山は明らかにレディース仮面がめぐみであることを確信している。

 しかもめぐみは体調不良ときている、条件は最悪だった。

 長引かせるわけにはいかない。

 何度目かの蹴りが飛ぶ。


「!!」


 そのたび、身体をひねったり木刀で受け止めたりするが、体力だけが削られていく。


「はあ……はぁ……はあ…………」


 どんどんと熱が上がっていくような感覚。

 目の前すら、だんだんかすんできていた。

 駆けつけた美幸は陰からこの様子を見ながら、ハラハラしていた。

 隣では賢がスマホを構えながら、うろたえている。


「さっきからレディース仮面の様子がおかしいんです、まともに立てていなくって……」


 そりゃあそうよ、と答えようとして、美幸はどうにか自分を制した。


「このままじゃ……レディース仮面、負けちゃうかも……」

「バカッ!! 冗談でもそんなこと言うもんじゃないわ!!」


 美幸が叱り飛ばすが、彼女自身も、もはや祈るように様子をうかがう。

 何かあったら自分が飛び出していく――そんな気持ちにもなっていた。


「終わらせようか、レディース仮面……」


 藤山が再びにやりと笑う。

 ポケットに手を入れ――素早く引き抜いた。

 レディース仮面はとっさに、左手で顔面をかばう。


「づっ…………!」


 手首に激痛と熱が走った。

 左手首に巻いていた黄色いスカーフが、バラリとほどける。


「ああっ……!」


 美幸が悲痛な叫びをあげる。

 腕の皮膚が裂け、血が噴き出してきた。

 右手で押さえるが、指の間からだらりだらりと流れ続ける。


「このくらいで終わりに、ですって? ずいぶんとなめられたもの……ね……、!?」


 強気の発言をしたレディース仮面が、がくんと膝をついた。


「あ……!?」


 傷ついた左腕がびりびりと熱を持つ。

 目の前にばちばちとノイズが走った。


「効いてきたな」


 藤山がすっ……と手を出す。

 その指の間には針が仕込まれていた。


「なにか……塗ったわね……!」


 その問いに藤山は笑みをもってこたえた。

 ただでさえ熱で抵抗力が落ちている中、この攻撃は陰湿なうえに効く。


「あああ……」


 賢が情けない声を上げる。

 目の前の霞む中、レディース仮面は地をなめた。

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