第8話 暴露はとてもシンプルに

 めぐみは、仕方ない、という顔をすると、ぽつりとつぶやいた。


「では、絶対に秘密にしてください。私がレディース仮面であることを」

「……ん? えっ!? 坂本さんがレディース仮面!?」

「そうです」


 めぐみは眼鏡をくいと上げ、落ち着いた表情で言った。

 美幸は、目の前の陰気な転校生と、あの底抜けに明るいレディース仮面とがいまひとつ結びつかず、しばし混乱した。


「え……だってなんで、マジで……?」

「マジです。私はこの学校をもとのように平和にしてほしいと、理事長であるおじいさまから頼まれました」


 だからここへ来たんです、と、めぐみは真面目な顔で言った。

 百パーセントの本気がその目に込められているのを、美幸は感じた。


「なんなら着替えましょうか」

「いやいや! そこまでしなくっていいから!」

「それにしても、彼らが動くのが早すぎるね」


 理事長がふむと考える。


「藤山という男、思った以上に頭が切れるタイプのようです」

「気をつけるようにな、めぐみちゃん」

「ええ」


 時間はもう夜だった。

 周囲の安全を確認すると、めぐみと美幸は連れ立って帰ることにした。


「……今までも、いろんな学校にいたって、新聞部が言ってたけど」

「そうですね……おじいさまから頼まれた学校はだいたい転々としました」

「坂本さんって、友達とか、いないの」

「いません」


 私に関わると、怪我じゃすまないかもしれませんから。――めぐみはそう言った。

 美幸はめぐみが自分たちを遠ざけているように感じた理由をなんとなく察した。

 さっき彼女自身が言っていた、「深入りすると、危ない」と。

 自分の近くにいる人間を巻き込ませないためではないか――――

 過去に何かあったのかもしれない、と思わせるに十分な説得力を持つ言い方だったが、美幸はそれ以上を聞かなかった。

 彼女はその代わりに、言葉を探した。


「あの……、わ、」

「わ?」

「わたしじゃ、だめ、かな……」

「は?」

「わたしが友達になるんじゃ、だめ?」


 街灯に照らされて、美幸の顔はなぜか真っ赤になっていた。

 めぐみはぽかんとして美幸を見ていたが、すぐ、真剣な眼差しになる。


「危険ですよ。ただでさえ、私は一度狙われました。岡部さんにもどんな危険があるか」

「それでも! ……この学校にいる間だけでも、友達に、なりたい」


 美幸がそう言った時――


「夜道は危ないぜえ、お嬢ちゃんたち?」


 だいぶ言葉のセンスがアレなヤンキーどもが、にやにやと笑いながら三人ほど寄ってきた。

 ぬかった、とめぐみは小さくつぶやく。

 だが、逃げ場はすでにない。


「岡部さん、隠れてください」

「え……、危ないよ!」

「私が何者かは、もうご存じのはずですけど」


 はっとした美幸は、急いで電柱の陰に隠れた。

 瞬間。

 めぐみのカバンがヤンキーの脇腹をとらえる。


「がふっ」

「てめえっ」


 飛びかかるヤンキーの足を払う。

 美幸は慌ててスマホを取り出した。


「もっ、もしもし警察ですかっ! 路上でケンカですっ」


 それを見たヤンキーは「くそっ」とつぶやいて、まとめて走り去っていった。


「岡部さん、ありがとうございます」

「なんのなんの」

「長居は無用です。私たちも逃げましょう」

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