第4話 クラッシャーは遠慮なく炸裂する
「あーあ、また撮り損ねた」
真横にいつの間にか賢がいた。手にはスマホを持ち、心底ガッカリといった顔をしている。
「ヒエッ新聞部……あんた何してんのよ」
「決まってるでしょ、レディース仮面の雄姿をおさめに来たんですよー。でもなかなか会えないんですよねぇ……」
聞けば賢もヤンキーどもの大騒ぎを聞くたびに駆け出すが、いつも一歩違いでレディース仮面は去った後なのだという。
「そっかあ、そりゃ残念ねぇ」
「こう、うまいことピンチに出会えればいいんでしょうけど」
賢がそう言った時だった。
「お前らそこで何してる!」
まだ残っていたヤンキーが数人、因縁をつけてきた。
これは状況的にとてもマズかった。
「……新聞部……よかったわねぇ……ご希望の大ピンチよ……」
「僕自身がそうなりたいとは一言も言ってないんですけど……」
二人は震えあがった。
いつの間にか囲まれてしまい、これを大ピンチといわずしてなんといえばいいのか。
「たっ、助けてーっ」
賢が弱々しく叫ぶ。
スマホを握る手がぶるぶると震えている。
「しっかりしなさいよっ新聞部! ……わたしだって怖いけどっ……」
「なにをごちゃごちゃ言ってるっ! ちょうどいい、おい、こいつらを島田さんと藤山さんの所へ――」
ヤンキーどもの手がまず賢に伸びたその時だった。
「やれやれ、ゆっくりご飯も食べさせてくれないのねこの学校は」
あの声がした。
「飯なんか勝手に食ってろ! ――ん、お前はっ……」
ワインレッドの輝きに身を包んだ――レディース仮面!
賢が本当に嬉しそうに叫ぶ。
「レディース仮面!!」
「なにィお前がかっ!?」
「他にこんな格好したのがいると思ってんの? レディース仮面、只今参上!」
言うが早いかレディース仮面は木刀を抜き、叫びながらヤンキーどもの胴体をぶん殴っていった。
「木刀クラッシャ――――――ッ!!!!!!」
「ぎゃああああっ」
次々とくの字に折れ曲がった状態で白目をむくヤンキーどもを、美幸も賢もあっけにとられて見ている。
「ほら、そこの二人! 逃げるわよっ」
「は、はいっ」
美幸は賢の手をとって、レディース仮面の後ろに隠れるようにして走り出した。
「ここまでくれば、なんとか……」
ただでさえ三原中川学院は大きな高校である。一度隠れてしまえば容易には捜し出すことができない。
「あの、ありがとうございました」
「気にしないで。同じところには戻らない主義なんだけどね、助けてーって聞こえたから仕方ないわね」
「あ、僕の……ごめんなさい……」
「じゃ、あたしはこれで」
「あの! い、今のこと、記事にしてもいいですかっ」
賢がスマホを構えながら聞く。
「勘弁してよ。あたしはおおっぴらにされるのは好きじゃないの」
レディース仮面はそう言って苦笑し、走り去っていった。
「はー……カッコいい……」
美幸はため息をつきながらつぶやいた。
格好やセリフこそ初めて見たときはアレだったが、二度も実際に助けてもらうとそういう感想がわくことも無理からぬところだった。
「いやァ……カッコいいですねぇ……」
賢もじんわりつぶやいた。
もうスマホで隠し撮りとかそういうことすら思いつかず、彼はただただうっとりとレディース仮面の後ろ姿を見つめていた。
「あ、いけない! 午後の授業始まっちゃう!」
美幸は腕時計を見て慌てた。
「またね、新聞部!」
「あっ、はいっ」
二人はそれぞれに教室を目指して走った。
美幸が教室についたとき、めぐみはすでに自分の席についていた。
黙ったまま、目を伏せて教科書に目を通している。
「坂本さん、どこでご飯食べてたの?」
「…………」
「ね、レディース仮面って知ってる!? この学校に最近現れたんだけどね、」
「……授業……、始まりますよ」
「あ」
慌てて座る美幸。この転校生は、昼休みの喧騒もレディース仮面のことも、興味なさげにただ静かに座っているだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます