第3話 転校生はかなりの陰キャ

 それから一週間、美幸自身には特に何も起こらず平和な日々を過ごしていた。

 だが、どうも噂によると毎日のようにレディース仮面は現れているようだった。

 実際彼女の「木刀クラッシャー!!」を聞いた生徒も数多くいるという。

 本人が秘密にしたくてもこれでは秘密にならないだろう、しかもあれだけ派手では。

 美幸は思う、本気でこの学校をどうにかしようと彼女は思っているのか?

 すでに全校生徒の半分以上がヤンキー化したようなこの学校を?

 何のために……?


「あーあ。わっかんないなあ」


 美幸はいつものように登校し、ホームルームが始まるのを待っていた。


「みんな、おはよう」


 担任の有吉がいつものように入ってきた。

 快活な女性教師で、美幸は彼女のサバサバしたところが好きだ。


「今日はね、ホームルームの前に、転校生を紹介するよ。入ってー」


 呼ばれて、教室の扉を開けたのは、どうにも陰気な感じのする女子だった。


「……はい……」


 バサバサと落ち着かないショートカットに、度のきつく入っていそうな眼鏡。

 制服を規定通り着こなしているところから、間違いなく根が真面目なのだろう。


「みんな、仲良くしてね。じゃ、自己紹介」

「……あの……坂本、めぐみ、です……よろしくお願いします……」


 ぼそぼそと聞こえづらい話し方で自己紹介しためぐみは、ぺこりと頭を下げた。


「んじゃ、坂本の席はあの端っこね。岡部の後ろ! 岡部、いろいろと教えてやって」


 美幸はそれを聞いて、「はーい」と返事する。

 教えてやってと言われてもなんともとっつきにくい感じのする転校生だが、仲良くなれるだろうか、そんなことを美幸は思った。


「…………」


 めぐみは黙って、机についた。


「坂本さん、よろしくね」

「はっ……はい、よろしくです……」


 それきり彼女はまた黙る。

 休み時間に何度か話しかけてみたが、どうにも反応がよろしくない。

 うーん、と思いながら、美幸は昼休みを待った。


「坂本さん、お弁当一緒に食べない?」

「え……あ、いや、いいです……私、ひとりで食べますから……」

「え?」


 そう言うなり、めぐみは弁当らしき小袋を持ってどこかへ消えてしまった。


「嫌われたかな?」


 話しかけた以外に嫌われる理由も大して思い浮かばないが、美幸はまあいいやと自分の弁当を食べてしまった。

 弁当を片づけてしまって、彼女が一息ついた、その時だった。


「レディース仮面が出たっ!」

「野郎、今度こそ袋叩きだっ」


 窓の外でそんな叫び声がする。

 ヤンキーどもが右往左往しながら、やれ武器を持って来いだのやれ何人でかかれだの大騒ぎしていた。

 美幸も湧いて出る好奇心を抑えられず、こっそりヤンキーどもの後をつけてみることにした。

 もしいたとしたら、もう一度会える。

 不思議な高揚感を胸に、美幸は走った。

 だが――――

 たどり着いたときには、すべてが終わっていた。


「足の速い奴だっ」

「誰か藤山さんに報告しておけ! 次は絶対逃がすなっ」


 相変わらず足元には数人のヤンキーが白目をむいている。

 駆け付けた元気なヤンキーどもは白目のヤンキーどもを運んだり、報告に駆け出したりと、三々五々、散っていった。

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