第5話 お呼び出しはレトロチックに
藤山誠一は生徒会室でダーツに興じていた。
「――転校生?」
「親父がそう言っていた」
「ふうん……」
「どうした、藤山?」
「おかしいと思わないか? 島田」
ダーツの手を止める藤山。
島田始は生徒会長席に座ったまま、腕を組む。
「おかしい……?」
「この時期に、しかもこれだけ荒れているここに転校だ。なにかあると思うがな」
「ふむ……よし、転校生の件はお前に任そう。二年五組だ、名は坂本めぐみ」
藤山は島田の持っていたメモをピッと受け取ると、生徒会室を出た。
「それにしてもレディース仮面……こしゃくな……」
めぐみが転校してきて三日が経った。
いまひとつめぐみとなじめない美幸は、やきもきしながらも、それが自分だけではないことに、薄々気がつきはじめていた。
彼女は誰にでもそうなのだ。
ヤンキーではない、普通の生徒が話しかけても、反応は悪い。
まるで、意図的に人を遠ざけているような雰囲気であった。
それでも、彼女がなぜか気になる美幸は、積極的にめぐみに話しかけていた。
「ね、坂本さん、一緒に帰らない?」
「……図書館に寄ってから帰るので……」
この日も袖にされつつ、仕方がない、と美幸がため息をついたその瞬間だった。
クラスの扉がバシャンと勢いよく開けられる。
「坂本めぐみってのはどいつだ」
美幸もかろうじて「あ、クラスメイトだっけ、この人?」と思う程度にはめったに顔を見せない、クラスのヤンキーだった。
その勢いに他の女子生徒はビビったが、めぐみはそんな様子など全く見せず、なおかつヤンキーのほうも全く見ず、ぽつりとつぶやいた。
「……私ですけど」
「お前か。こいつを藤山さんから預かってる、とっとと読め」
「……嫌です、と言ったら……?」
「その時は無理矢理にでも引っ張ってこいと言われてる」
美幸はその一部始終を息をのんで聞いていた。
先日自分がヤンキーに囲まれた時でさえ、隣に賢がいたのに足が震えて仕方がなかった。
それなのにめぐみのこの落ち着きっぷりはどういうことだろう。
「坂本さん……」
めぐみはため息をついてから、ヤンキーの差し出したものを受け取る。
それは手紙だった。
失礼かとも思ったが、美幸も身体を乗り出して読んでみた。
『放課後夕方六時、プールの裏へ来られたし』
「……今時分プールの裏とか。……昭和ですか……」
めぐみは苦笑した。
その表情に、美幸は激しい既視感を覚えた。
「え…………」
だが思い出せない。どこかでこの苦笑を見た気がしている。どこで?
「……承知したとお伝えください、藤山さんに」
美幸は時計を見た。今は午後五時半過ぎ、もうあと三十分もない。
「坂本さんっ……」
ヤンキーは満足そうな顔をしていなくなってしまった。
めぐみは少し、何かを考えていたが、やがて立ち上がると、意を決したように言った。
「……岡部さん、……でしたっけ」
「えっ? う、うん」
初めて名前を呼ばれた。
美幸は少しドキッとしたが、気を取り直す。
「お願いが……あります」
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