第12話 由依ーおもしろアビリティ祭り



タツルと佐之助エロガッパが俊平ちゃんを迎えに行っていた頃。



「アビリティを実際に使ってみましょう。すでに試している人もいるとは思いますが、人に向けて魔法やアビリティを使ってはいけませんよ」


「はーい」


私たちはアビリティの講習を行っていた。

モブムーブを行うタツルがいないから、率先して返事を行う。みんなもつられて返事をしてくれた。


「タナカ様は転身願望メタモルトリップ。初めて聞くアビリティですが、どうやら先ほどの魔法を見る限り、魔法の習得に関するアビリティのようですね」

「にゃふふ、田中の異能は最強にゃ!!」


 ばっさぁ! と魔道士のローブを翻すタナカちゃん。魔力、回復したんだ。


 転身願望メタモルトリップはコスプレした衣装の能力を発揮するアビリティ。

 たしかに、魔道士コスの今ならば、魔法を使うことはお茶の子さいさいなのだろう。


「出でよ聖剣!」


 向こうでは光彦くんが聖剣を召喚して巻き藁相手になんかざっしゅざっしゅやってた。


「<破斬>!! 」


 スキルを使って巻き藁をぶった切っている。ふーん。

 おっさんのシノちゃんやギャルの内山ヒロミ、ケモナーの上村加奈、巨乳水泳部の岡野真澄なんかも光彦君がなんかやるたびにきゃーきゃー言っている。

 ふーん。


 そんなありふれた聖剣よりも、おもしろアビリティの方が私にとっては目を楽しませてくれる。



「うぁ~~~~(くにゃくにゃくにゃ)」



 たとえば、そう。

 あらゆるものを感染させてしまう感染系女子、荒川優子ユウコちゃんが両手を広げて、なんかくにゃくにゃしている。


「なんや、優子。なにしとるん?」


 なんて聞いたマジシャンの消吾

 いや、その気持ちはわかる。ユウコちゃん、何してるんだろう?

 そう思って成り行きを見守っていたら


「うぁ~~~………タッチ(ポン)」


 突如ユウコちゃんは消吾くんの肩にタッチした。


「は? 何をうぁ~~~~~~~(くにゃくにゃくにゃ)」


 今度は消吾くんが両手を広げてくにゃくにゃし始めた。


「(クイクイ)消吾、いったいなにを(ポン)うぁ~~~~~~~~(くにゃくにゃくにゃ)」


 眼鏡をクイクイしながら止めに入ったインテリメガネの硝子カラスくんまで!?


「お、なんだそれおもしれーのか? カラス、俺も混ぜろ!(ポン)うぁ~~~~~~~(くにゃくにゃくにゃ)」


 大食漢の団体一名様、太田ミノルまでカラスくんから肩に触れられて感染する。


「あ、じゃあ私も。ミノルくん、失礼して………(モミ)うぁ~~~~~~(くにゃくにゃくにゃ)」


 ついでだから私もミノルくんのお腹を揉みってやると、なぜか両手を広げてくにゃくにゃしちゃう。

 これやばいな。接触感染で広がる意味不明の行動。

 ユウコちゃんはこんなことを感染させてしまう【感染症候群インフルエンサー】というアビリティのようだ。



「俺も俺も! うぁ~~~~~~~(くにゃくにゃくにゃ)」



「「「「「 なにやってんのお前 」」」」」


「ええ~~~~!!?」



 便乗系男子の坂之下鉄太くんが接触してないのにくにゃくにゃし始めたから、急に素に戻ってツッコミを入れる。ユウコと消吾くん、カラスくんにミノルくんと私。

 いきなりハブられる鉄太には申し訳ないが、感染していない人はお呼びでないの。



例えば、ボケっぱなしの声楽部。白石響子キョーコなんか


「ある~日♪ 森の中♪」



なんて歌った瞬間に周囲の景色が森に変わる。



「くまさんに♪ 出会った♪」


『がおー!!』


クマさんが出現した!!


「スタコーラ サッサッサのサ~♪」


 花咲く森の道はどこに行ったのやら、いきなりエスケープだ。


「え、ちょ!? なんかクマが、急に熊が追いかけてくるっぜぃ!?」

「スタコラ サッサッサのサ~♪」


 俊平ちゃんを連れて戻って来た佐之助が巻き込まれて熊に追いかけられていたとか。


「ところが♪」


しかし、歌詞はまだ続く。


「くまさんが♪ 前から♪ 回り込む♪」


 シュバッ! と、佐之助を捉えていたクマさんが、突如スピードを上げて佐之助の進路を妨害!!


「瞬間移動!? このクマ想像以上にやばいっぜぃ!?」


「スタコラ サッサッサのサ~♪」


 歌に合わせて景色を変え、クマをも召喚する。マジで意味不明の能力アビリティだ。

 なんかもう、逃げ続ける佐之助がかわいそうだよ。


「くまさんの♪ 言うことにゃ」

「にゃ?」


 タナカちゃんじゃないよ。


「『お嬢さん、お逃げなさい』♪」


『お嬢さん、お逃げなさい、私の理性が保つうちに。………さあ早く!』


「なんか熊がしゃべりだしたっぜぃ!? なんかダンディーな声で逃亡を促されたんだけど、俺っちはお嬢さんじゃないっぜぃ!?」


 おそらく、言霊を操る系統の能力なのだろうと予想は付く。

 アビリティの名前は【歌詞限界リミテッドライター


「スタコラ サッサッサのサ~♪」


『がおー!』

「ぎゃー! また追いかけてきたっぜぃ!!」


 こういった理解不能で意味不明の能力は、意味不明の強さを発揮することを私は知っている。


「ポッポッポー、ハトポッポ―♪」


 急に歌が変わる。情緒不安定かよ?

 森は無くなり、今度は平和的な日本のハトが佐之助の周囲にバサバサと降り立つ


「こ、こんどは何事だっぜぃ!?」


「まーめが欲しいか………ソラマメバズーカ!!!」


 ガチャ! 

 ―――ドゴーン!!!


「ぎゃああああああ~~~~~~!!!!」


 もはや韻を踏んでなくたってソラマメバズーカを召喚してぶっ放している。

 マジで意味が分からん。


 ソラマメバズーカってなに? 

 豆鉄砲ですらないの?


「盗撮の恨み、晴らしたり。」


 ふっとバズーカの硝煙を吹き消すキョーコちゃん。

 お見事。パチパチと拍手を送ってやることにする。


「くそう、ギャグじゃなかったら危なかったっぜぃ」

「さすがに本気でやるわけないじゃない。ほら、盗撮した写真があるならだしちゃいな」

「そもそもこの世界じゃ現像できないっぜぃ!」

「………それもそうね」



 ………。よかったね!



  ☆



「おかえりタツル。俊平ちゃんも」

「ああ、ただいま。」

「うん。ただいまー」


 帰って来たタツルを迎える。

 俊平ちゃんもお疲れ様。一人だけ子守とか大変だっただろうに。


「なんか面白いことやってんな」

「うん。みんな自分のアビリティを試しているみたいだからね」

「自分のアビリティかぁ………」


 しょんぼりと足元を見つめる俊平ちゃん。

 っと、俊平ちゃんのアビリティって、たしか自爆だったよね。


「まあ、俊平はアビリティを使わないに越した事は無い。」

「そうだよね。自爆なんて、縁起でもない………」


 とはいえ、俊平ちゃんは勇者でありながら、他のステータスもみんなに比べて一回り弱い。

 その体格のせいでもあるのだろう。内包している魔力も少なく、筋力も少なく、敏捷も少ない。


 優っているところと言えば、この世界の謎のオリジナル数値である【通力】というのがずば抜けていることくらい。


 そんで、お姫様のお話によると、魔法を使うのは【魔力】、スキルを使うのは【通力】の項目に依存するのだとか。


 俊平ちゃんのアビリティの<自爆ディシンテグレイト>はスキル扱いということでもあり、それを最大でぶっ放したら、俊平ちゃんは間違いなく粉々になるというのは、自分のアビリティに意識を集中したらすぐにわかったそうだ。


「安心しろ、俊平。ある程度は俺たちと佐之助がお前を守ってやる。」

「うん、ありがと」

「だからもし裏ダンジョンRTAとかになっても心だけは折るなよ」

「うん………? え、どういうこと?」

「俊平には胸糞悪くなるような最悪が待っているかもしれないってこと。俺もそんなん見たくないから、極力回避するつもりだけどな」


そう。クラス転移において、追放及び裏切りなどによる突き放された主人公は、闇落ちする可能性が極めて高い。


 現在、私たちとタナカちゃんに主人公認定されている俊平ちゃんこそ、その胸糞悪い展開に巻き込まれる可能性が高いのだ。


 世界の攻略の為には必要なことかもしれない。

 それでも、この俊平ちゃんの無邪気な笑顔は守らないといけない。

 それが私とタツルとタナカちゃんの見解だった。



「あ、タツル様、ユイ様。シュンペイ様も。お三方はもうアビリティの確認を行いましたか?」



 決意を新たにしていると、お姫様のミシェルが声を掛けてきた。


 みんなのアビリティを確認して回っているって、大変だね。


「あー………俺たちは………」

「この場で使えるアビリティじゃないっていうか………」

「僕のは危険だから………」



 寝ることで発動するアビリティ。

 そして、自爆のアビリティ。


 そんなもん迂闊に使えるかよ。



 それにだ。タツルも私も、この国を信用しているわけではない。


 タナカちゃんだって、お姫様には自身が魔法系のアビリティだと誤認させている。

 違う世界から攫ってきた張本人に、己の能力の100%を、誰が明かそうか。


「なるほど………ステータスプレートを確認してもよろしいですか?」


 と、姫様がおっしゃるので、ほいと渡してあげる


 更新前なので、【聖女】のアビリティは無いよ。


「【夢幻牢獄ドリームゲート】………。あら………スキルも無いですね。タツル様もユイ様も魔法は優秀ですので、魔道系のアビリティなのでしょうか?」


「いえ、夢を見る能力です。夢の中に何日か、何週間か、何カ月か、何年かはわかりませんが、その夢に囚われる。昨日見た夢は1週間。別の世界を夢の中で旅をしました。」

「不思議なアビリティですね………。タツル様は?」


 返してくれたステータスプレートを受け取り、今度はタツルのステータスプレートを受け取るミシェル

 タツルはレベルとステータスの数値は消した状態でさらっと渡す。


 このタツルの演技力。私にはマネできない才能かな。


「【無現回廊ドリームコリダー】………。ユイ様と似ていますね。」

「はい。基本的には同じ能力だと思ってます。私は昨日、夢の中で1年過ごしました。」


「一年も!? そ、それは大変でしたね………」


「ええ………。なので現状だと、寝ている時にしか能力を発揮しておりませんし、詳しい能力などはまだ不明なのです。」


「そうなのですね………。能力の研鑽を期待いたします。シュンペイ様は………」



 なんだかんだで、お姫様はみんなの名前を呼んでくれるんだよなー。

 なんだか嬉しい気分になる。

 私たちを召喚した引け目もあったのだろう。


 この一日でみんなの顔と名前を覚えて、みんなとコミュニケーションを取ろうとしているの。


 俊平ちゃんとはあまり話せてなかったみたいだけど


「今日はイルシオとネマのわがままに付き合って頂き、ありがとうございました」


 と、俊平に微笑んでいた。


 そうだよね。ミシェルの弟妹だもん。


「い、いえ! 僕もイルシオやネマと一緒にいるのは楽しいですから!」


「ふふっ、イルシオも、年が同じくらいの友達ができて、喜んでおりましたよ♪」

 

 にこり、とほほ笑むミシェル。

 多くの男を虜にするような魅惑の笑みだ。

 これにはさすがの俊平ちゃんも………


「あの、僕………樹くんや由依ちゃんと、同い年、です」


 そっちかー!






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