第13話 樹ー名前呼びイベントはいつも尊い



「僕、樹くんや由依ちゃんと同い年、です。」


「えっ!?」


 目をパチパチさせて俊平を見るお姫様。



「ほ、本当ですか!?」


 と、由依の方を見たお姫様。


「本当ですよ。なんなら6歳くらいから一緒の学校に通ってますから。昔からちっちゃいんです。俊平ちゃん。」


「そ、それは、申し訳ございません、てっきり10歳くらいかと………」

「いいんです。僕はもう慣れてるんで………うぅ」


 しょんぼりと肩を落とす俊平。


「き、気を取り直してアビリティの確認を致しましょうか! ステータスプレートをお預かりします!」


 と、気分を変えようとステータスプレートを受け取るお姫様。

 すると、ヒュッと息をのむ。


「アビリティが、自爆!?」


「はい………。」


 なにやら恐ろしい物を見る目で俊平を見るお姫様。

 自爆なんてアビリティを持っていても、俊平は俺たちの大事な仲間マスコットだ。

 お姫様にもそんな目で見てほしくはない。


「おっと、夢を見るしか能のない私たちの方が俊平よりも使えないアビリティですよ。嫌わないであげて下さい。お姫様」


 俺がフォローしてやると


「あ、いえ………失礼しました。」


 お姫様も謝罪ののち、俊平にステータスプレートを返してくれた。


「俊平ちゃんには魔法の使い方、教えてあげないとだなー」


「なー。まあ俊平がザコ敵を相手に特攻したいってんなら止めはしないが俺たちやイルシオ殿下、ネマ姫殿下、縁子なんかはめっちゃ泣くだろうな。」


「やらないよ! 僕だって生きたいんだから!」


 なんていつも通りにふるまっていると、お姫様もクスリと笑ってくれた。

 迫害は回避できそうだな。


「イルシオやネマも、シュンペイ様のことを気に入っているのです。そんなことはしませんよ」


 ふわりとほほ笑んでくれた。


「お姫様、俊平はこの通りチビでちんちくりんでちっちゃくてかわいいヤツなんです。迫害されるようなことがあったら、私たちのクラスは黙っちゃいない。この世界に来る直前だって、クラスのみんなで俊平を取り合って大騒ぎしていたんです。こいつは、うちのクラスに必要な人間だ。見守ってやってください」

「ふふっ、みんなに好かれているのですね、シュンペイ様。イルシオとネマが懐くわけです。確かに承りました。お任せください」


 お姫様は胸に手を当てて、俺たちの願いを確かに受け取った。

 俺たちを召喚したお姫様っていうからどんなもんかと思えば、面倒見がよく、俺たちのことを名前で呼んで、話やすそうに気遣ってくれる。

 なんだ、いい子じゃないか。


「だってさ。よかったね、俊平ちゃん」

「うん。ありがと、由依ちゃん、樹くん」


 自分のアビリティにコンプレックスを抱えていた俊平だが、俺たちとお姫様のお陰で明るく顔を上げてくれた。


 そうだよ。お前はその無邪気に子供みたいに笑っているのが一番いい。


「そんなわけで、私と由依と俊平はアビリティの試し打ちなんかは出来そうにないです、申し訳ございません、お姫様」

「いえ、事情はわかりました。魔法の研鑽とアビリティの研鑽に励んでください」


 と、締めくくるお姫様


「それと………」


「ん?」


 俊平と由依も首を捻る。


「シュンペイ様も、タツル様もユイ様も。どうかわたくしのことはミシェルとお呼びください。勇者様の皆さまは名前で呼び合っているのに、私だけ「お姫様」、「お姫様」と。………たしかに皆様を召喚してしまった負い目はあります。ですが、どうかおねがいします。不躾だとは承知の上なのですが、皆さんと、お友達になりたいのです。」


 ………。自分より年下の子供に、頭を下げるお姫様。

 王族だぞ。軽々しくできる事じゃない。


「わかりました! よろしくね、ミシェルちゃん! 様づけなんてかたっ苦しいし、私もユイでいいよ」


 こういうノリの良さ、由依のいいところだと思う。


「あ、ありがとうございます! ………ユイ。なんだか変な感じです。敬称をつけないのはイルシオとネマだけでしたので………」


 ああ、そうか。社交界でもおそらく○○様、○○令嬢、○○さん、○○伯、○○男爵などを使い分けないといけないのだろう。

 社交界なんてものはドロドロのズブズブだ。腹の中で何を考えているのかわからないのだ。

 信用なんて出来る物じゃない。


 あと、ミシェルの喋り方などは染みついた教育のせいだろうから、そこを是正するつもりはない。

 個性だもの。


「僕はイルシオたちと一緒にいることが多いと思うけど、よろしくね、ミシェルさん」

「さすがに公的な場では敬称はつけることにするよ、ミシェル。俊平ともども弟が出来たとでも思ってよ。」


「は、はい! ありがとうございます!」


 と、嬉しそうにほほ笑む

 

「お礼はいらないよ、ミシェルちゃん。」

「え?」

「『ありがとう』の対義語って、なんだと思う?」

「え、えっと………」


 と、由依の言葉にに視線をさまよわせるミシェル。

 由依が俺と俊平にウインクして続きを譲った。


 臭いセリフだが………。俊平の肩を小突いて続きを促す。


「『あたりまえ』………だよ。友達くらい、僕らが、いくらでもなるよ。もちろん、ネマやイルシオも一緒にね。ミシェルさん。」


 ガシっとミシェルの手を捕まえた俊平。無邪気ながらも、芯の強さを感じさせる笑みだ。

 よくもまあそんな臭いセリフを吐けるなぁ………。

 ま、俺も人の事言えないムーブをよくやるけどな。


「っ~~~~~!!!」


 声にならない感激で、ありがとうを言えずに頭を下げた。 

 うんうん。その感激を見れてワイは満足満足ほっこりマンやで。


 ………ん?


 と思ったとき、由依もあれ? と首をかしげている。


 そして思い至った。


(( 無意識に主人公ムーブかましてた!! ))


 身分の高いお姫様に名前で呼んでもらう、名前を呼ばせる。それは間違いなく主人公の特権


 俊平もいることから俊平につられている形にはなるかもしれないが………主にお姫様呼びしていたのは俺だ。

 やべえ、ミシェルには光彦あたりとフラグでもたててもらわないとなーなんて思ってたのに、俊平の主人公補正と由依のイケメンムーブで完全に主人公の一員になっている!


 ………いまさらか。


 だったら、ガッツリ関わるか? それもありっちゃありだな。

 別に俊平を主人公としながらも、周囲にいる、なんかかっこいいセリフを言う人。それになろう。


 この世界で、決まったムーブをしなければならないなんてルールはない。

 能力を十全に使って元の世界に帰るのが最終目標のはずだ。

 主人公にこだわる必要もない。

 


「それで、ミシェルはなんで俺たちにそんなことを言ってきたんだ?」


 もう一人称を私じゃなく俺にしているよ。友達に対して男の俺が私ってのは壁を感じるだろうからね。


「あの、シュンペイは子供っぽくて話しやすそうで………ユイとタツルは、なんというか、いい意味で平凡そうだったので。ちゃんと目を見てくださるから、私も話しかけやすいのです」


「平凡? 俺、風魔法で液体窒素とか作ってましたよ?」


「いえ、友達を思いやる気持ちとか、そういうのです。みなさん、アビリティを手に入れて少しヤンチャしているところってございませんか? お二人にはそういった感情が見えませんでしたので」


「魔法でヤンチャしてたような………」

「私はみんなのアビリティに積極的に巻き込まれに行ってたよ?」


「それでもです。他の方に比べて随分と落ち着いていましたから。お二人が勇者さま方の潤滑剤、緩衝材になっていたことは見ていればわかります。」


 まあ、光彦でさえあっちの巻き藁で聖剣ドヤをかましている最中だからな

 落ち着き加減で言えば妙子もそうだろうが、妙子は王やミシェルに対してかなり悪態ついてたからな。

 人さらい呼ばわりして、いい感情を持たれていない事はミシェルもわかっているから、必要以上に近づいたりはしていない。


 田中は田中だからめっちゃはしゃいでる。


「私は友達も大好きだからね。クラスメイトの誰かが不幸になるのは嫌なの。ミシェルちゃんも、クラスメイトのみんなとちゃんと話はできているから、ちゃんと友達になれるはずだよ。うん。私が保証する!」


 由依が最後にそう締めくくった。


「はいっ! ありがとうございます!」


 その笑顔は、すっきりしたような笑顔だったとか。





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