USM

 次に一部の画面が切り取られて、窓の中は色彩の薄い2Dの映像になる。


 吹雪に包まれたプレハブ建築物の集合体が見える。きっとこれは古いビデオ映像だろう。


 再び男性の渋い声でナレーションが始まる。

「生き残った人々は、当時怪獣の被害に会わなかった真冬の南極大陸からの通信によって救われた」

 南極基地内部の映像に切り替わる。

「各国の越冬隊員たちは世界中の生き残った人々に無線通信を送り、応援し、勇気付け、ネットワークを作った。そして短時間のうちに世界を一つに纏める反抗組織を作り、貴重な情報を共有して、人類は怪獣に対抗した」


 再び立体のVR映像に切り替わり、武器を持った人間たちが怪獣と戦うシーンが映る。


「それが、怪獣討伐連合 Union to Subdue Monsters 略称USM(ウズム)の始まりである」

 それから、世界各地で怪獣と人間が闘う場面が続く。


「USMは世界各地に残る重要施設を保存し復旧させて、文明の崩壊を防ぎ人類が生き残る礎を築いた」

 そして街が復興され、少しずつ新しい街になる。


「だが半年後、夏を迎えた南極にも怪獣が押し寄せ、各国の基地は次々と壊滅した。しかしその後も組織は継続されて、人類の存続をかけて怪獣と戦うことに全力を傾けた。一部の越冬隊員はオーストラリア大陸へ無事逃れて、以来USMの本部はオーストラリア南部の都市メルボルンに置かれている」


 映像は、USMの紋章が掲げられている建物の内部へ移動した。壁面には創設当時に使われた無線機器が展示されている。


「軍事施設や原子力発電所、空港や港など多くの施設が無効化される中で、無人で稼働していた太陽光発電所や、病院・学校・博物館や図書館など、無傷のまま残された施設も多かった」


 次に、死んだ怪獣の腹の中から救出される人々の姿が映し出される。


「一度怪獣に丸呑みされて死んだと思った人でも、中には生きて戻る者がいた。彼らは胃袋からの生還者「Survivors from the stomach(または単にサバイバー)」と呼ばれた。最初の一年で5%にまで減った世界人口に加えて、怪獣の胃袋の中で仮死状態になっていた者が数多く存在した。サバイバーたちは、2010年代には全世界人口の実に七割弱を占めるまでになる」



 隕石が次々と街に落下する映像が流れる。

「これにより、ノストラダムスショック、あるいはノストラダムスインパクトと呼ばれるあの攻撃の目的は、怪獣による極端な人口の削減だったと考えられるようになった」


 復興される都市の映像に変わる。

「その後も継続する怪獣の襲撃の中で、死んだ怪獣の体内に長年保存され、仮死状態のまま救出される人間は数を増した。今ではサバイバーもしくはその血を引く者は、全人口の九割を超えると言われている。こうして人類は生き残り、各地に新たな都市を築いた」


 そして映像は2050という数字を表示して、明るい街の遠景を映した。

 高層ビルの並ぶ街から延びる透明チューブのようなハイウェイを車が走っているのがわかる。


 街の周囲は美しい緑に囲まれている。


 だがそんなことよりも、俺はその前の映像とナレーションが頭から離れない。

 死んだ怪獣の体内に長年保存され、仮死状態のまま救出される人間……まさかそれが、浦島太郎の玉手箱の正体だったのか?


 そう思ったときに、次のナレーションが始まった。


「今も度々襲い来る怪獣は、USMにより効率的に撃退され、2000年に3億人にまで減った世界人口は、度重なる怪獣の襲撃に会いながらも、50年後の今では倍の6億人にまで回復している」


 そして世界各地の都市と思われる街の映像が幾つか続く。


「だが、油断はできない。今でも世界中で日々怪獣は街を狙い、襲撃は繰り返されている。人類はそれに対抗する組織USMを強化し、日夜怪獣と戦い街を守っている。USMは倒した怪獣を研究・解析し、最新の技術を世界に公開して人類の更なる強化を進めているのだ」


 映像では、街に近付こうとする巨大怪獣が緑の中を進んでいる。


 よく見れば、怪獣の足元には廃墟となったコンクリートの塊が積み重なっている。

 すると円盤型の乗り物が飛来し、怪獣を空から攻撃し始めた。

 もう少し小型の怪獣が、地上から発射される遠距離攻撃の光線に焼かれて、倒れる。


 そして画面にもう一度墓石のような質感をしたUSMという文字が浮かび、その下にUnion to Subdue Monstersという正式名称も出て、画面がホワイトアウトした。

 何じゃ、これは?



「えっと、クイズは第一問しかなかったけど、あとの問題は?」

 病室でヘルメットを取り我に返ると、俺は機材の片付けをしている岩見さんの背中に声をかけた。


「あら、後半のプログラムを端折ったのがバレちゃったわね。もっと見たい?」

「いえ、充分お腹一杯です」


「そう。なら大体の事情は理解できましたね?」

「うーん……」

 俺はまだ納得したわけではない。聞きたいことは山ほどある。


「では、今日は午後からカウンセラーの山野先生が来ますから、その時によく話して下さいね」

「はい」

 今日は、ドクター永益はお休みらしい。


 昼食は柔らかなお粥に白身魚と野菜の煮物だった。病院の食事は夢の21世紀とは思えない簡素な品で、がっかりのようなちょっと安心したような、複雑な気持ちだった。


 多少冷静になると、一昨日の怪獣騒ぎがやはり現実だったことを強く感じる。


 謎の女、岩見美鈴の秘密も気になるが、ここから先は午後のカウンセラー氏の登場を待つしかないのだろう。


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る