第14話 説得してみる
「今年の新入生はなんでそんなにイケイケなんだ?部活動を作るなんてっ、怖いもの知らずめっ!」
窓の外からずっと話しかけて来ているので、変な距離感は変わらず。こっちに来る様子は無かった。この先輩、今まで窮屈な学校生活を送ってきたんだろうなって。訳アリだとわかってしまう。
「先輩も経験有ると思いますが、所謂華やかな高校生活のスタートの一環っす。残念ですが、諦めて教室に戻ってください」
「き、君たちは僕を不登校にさせたいのか!?」
「いや、そんなつもりはないんすけど・・・脅しっすか?これが上級生からのパワハラかあ。ユニークっすね」
「近藤くん、脅しとかじゃなくて、本当に真面目な話なんだと思うよ?」
「だとしても、だ。俺らには関係ないし、空き教室なら他にたくさんあるだろ?先輩の教室から近いから良かったのかもしれないけど、そろそろ引っ越し時ですよ?ヤドカリ先輩」
「や、ヤドカリだああ?」
「先輩の口ぶりから察するに、学年が上がった今月からここに陣取ってるわけでは無さそうだ。かなり長い間、ここを避難場所として利用してたんすよね?でも、残念でした。4月になれば環境も変わるんだから。先輩も体の大きさに合った避難場所を見つけたほうがいいっすよ?」
「言わせておけばあああ!!いいかい!?入学したてのキラキラした期待だけたっぷりの君たちにはわからないかもしれないけどね、僕みたいなクラスからハブられてるぼっちはどこにだっているんだよっ。そして、ぼっち同士にもカーストは存在する!」
「蒲生先輩は、ぼっちの中でも最底辺ってことですか?」
「残念ながらそうだっ!ぼっちの中で群れるかどうかの違いで、だ。僕は残念ながら真の独りぼっちだから、ここを出て行ったらあとはトイレしか居場所が無いんだよ!わかるかい?トイレにずっと隠れて過ごすやつなんていない!だったら僕は、家にずっと居たほうがマシだろう!?」
顔を真っ赤にして怒っている蒲生先輩。でも、ちゃんとわかるように説明してくるあたりに余裕を感じるなあ。
「じゃあ。とりあえず入部してくれればいいんすよ。はい、これ」
「に、入部届・・・?やめたほうがいいよ。僕が入ったら君たちまで悪者になる」
「え・・・?先輩何かしたんですか?居場所無くて爆弾で地下シェルター作ろうとして、校庭を爆破未遂、とかしたんですか?」
「そんなことするかっ!ぼ、僕はこの通り、コミュニケーションが苦手だ。一年の頃にそれで友達ができなかったっ。それで、クラスのスケープゴートになったんだ。クラスで物が無くなったりすれば僕のせいになるし、それでいていないもの扱いだ・・・!」
「それは可哀想ですね」
「クラス替えで状況変わったりしないんすか?」
「もう状況改善は諦めてる。僕のことを知ってる人がまた一年の時のことを繰り返すに決まってるじゃないか」
果たして本当にそうだろうか?
この人が入部することは別に問題ないと思う。
僕は部活動に入ると決めた時点で、マイナスからのスタートでも良いと思っていた。なぜかというと、幸運にも僕はいじめとかそういう暗い部分に耐性が無かったから。僕が当事者にならなかったのは、多分ラッキーなんだろう。周りの人に恵まれたのがでかかったと思う。
だけど、このまま順風満帆に人生が進んで行くなんて思ってないし、この蒲生先輩みたいに一人で戦わなければならない時が来るかもしれない。そんなの誰にもわからない。わからないから心配しすぎることもないけど、今は自分にとって良いことも悪いことも吸収してみたい。
自分を語れるだけの経験が足りないんだ。だから、経験したい。それを言語化したい。そして誰かに伝えたい。誰かのためになるように。
―――たとえ自分が嘘つきになろうとしていても。
「先輩。大丈夫っす。うちの部は、強烈なやつがいます」
近藤くんが自信たっぷりな顔してまた入部届を突き出す。
蒲生先輩は面食らっていた。
「走り出した列車のレールを外されるのは大嫌いだ。あ、自分で外す分にはいいんすよ?ただ、俺がやると決めたら納得するまでやってやらあ」
「は、はあ・・・」
「僕としても、蒲生先輩を追い出すことはしたくありません。覚悟決めてくださいよ、先輩」
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