第12話 統括宮へ




「今から向かう先は、イシュラ王の執務室が置かれている統括宮です」

「統括宮?」

「クラスピスタ王宮には大きくわけて三つの区画があります。国王と王妃、それと次期王候補の寝所や執務室に謁見室など、王が活動されている場所が統括宮。王子の寝所や執務室が置かれている王子宮。王妃と側室、王族である幼子と王女は後宮となります」

「王妃様は後宮ではなく統括宮なの?」

「本来であれば王妃である方は統括宮に部屋を置かれるのですが、王のご意向でルイーダ王妃は後宮に居られます」

「仲が悪いの?」

「どうでしょうか。王は身内であろうとどなたも側に寄せ付けませんので。今夜の晩餐も、イシュラ王が来られるのは私が知る限り初めてだと思います」

「家族が集まる晩餐なのに?」

「はい」


王や王子が執務で忙しいのは当然のことで、それでも晩餐だけは共に取ると教わった。王妃を後宮へ追い遣り、晩餐も出ない。やはり血も涙もない鬼畜なのだろう。


リオルガに説明を受けながら王宮の奥へと進んで行く。

裏口のときと違いメイン通路だからか、役職を持つ貴族らしき者や騎士、侍女や侍従とすれ違う。彼等や彼女達は先ずリオルガに気付き道を開け、次に彼の隣を歩く私に視線を移し驚愕する。

クラウディスタ家の侍女達による渾身の作リスティア王女。

一般的に美男美女が多いとされる王族の血筋なだけあり、私の顔立ちもそこそこなものだ。

肌に関してはシミやシワが怖くて日焼けしないように気を付けてはいたが、生粋の王族よりは肌が黒い。

だが、色々保湿クリームや化粧、その他諸々でカバーしている今の私に死角はない……はず。

そう自分に暗示を掛けながら、隣を歩くリオルガを見上げた。


「……どうかなさいましたか?」


視線に気付いたリオルガがふわっと笑うと、前から歩いて来た侍女が口元を押さえた。

侍女さんの気持ちが痛いほど分かる。

この人、騎士のくせに何でこんなに肌が白くて綺麗なのか、前世でどれほどの得を積めばこうなるのだろう。


「リスティア様?」

「リオルガって……」

「はい」


今身に着けている鎧とマントは常備軍の物なのか、ソレも良いけどドレスも似合いそうだと口走りそうになり慌てて口を閉じた。


「今、何か……」


立ち止まって屈み私の顔を覗き込んだリオルガに左右に首を振って見せる。

鬼畜リオルガが降臨しないよう「何でもない」と言って足を速めた。


「……ふっ、ふぅ」


客室からどのくらい歩いたのだろうか……。

子供の短い足で広い王宮内の移動は骨が折れる。


「抱き上げてお連れいたしましょうか?」

「結構です……」

「ですが、お顔の色が」


今は話し掛けてくれるなと、前だけを睨みノロノロと進んでいるとやっと視界に大きな扉が現れた。目を凝らすとその扉の左右には騎士が立って居て、きっとアレが統括宮への入り口なのだと心なしか速度が上がる。


それにしても、少し離れた場所に固まって立って居る侍女らしき人達は何なのだろう?

年配の女性の後ろにまだ若い女性が二人。侍女で間違いないのだが、通路で何度か見た侍女とは衣装が違っている。


「王妃付きの侍女達ですね……」


声を潜め警戒を促したリオルガに小さく頷く。

仕事中であろう時間帯に、通路の端で偉そうに踏ん反り返っている侍女達なんて私には関係ない。無視だ、無視。

彼女達の横を通り、扉の前で止まった。


「リオルガ・クラウディスタだ。リスティア王女をお連れしている」

「は、はい。お通りください」


私の顔をジッと凝視していた騎士達がリオルガの言葉にハッとし、姿勢を正す。

今間で存在していなかった王女が現れたら驚くよね……とリオルガと騎士達の遣り取りを眺めていたときだった。


「お待ちください」


年配の侍女が他の侍女を引き連れ近寄って来た。


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