第10話 到着しました



宿や食事処に大きな街での買い物など、この身体では全てが初めてのことだった。

退屈な馬車の中ではリオルガが騎士について体験談を交え面白おかしく話てくれて、他にも王都にある有名店や王宮内にある噴水が置かれた庭園など、黙って相槌を打つ私に沢山聞かせてくれた。

稀に私の幼い頃の話を聞きたがっていたが、今だって幼い子供だというのにそれ以上となるともう赤子である。ただの平民のモブに何を期待しているのかと、至極真面目に「今と何ら変わりはありません」とだけ答えておいた。

子供らしくないということは自覚しているが、咳き込むほど驚くリオルガに、三度も転生していれば色々な人格が混ざってコレになりますと説明することはできないのだから。

王都まで一月掛かると聞いたときは気落ちしたが、旅費の心配がなく全て手配された旅路は中々快適なものだった。


で、何故村から王都までの長い旅路を締めくくったのかと言うと……。


「此処は王宮の裏口となります。まだリスティア様を人目に触れさせるわけにはいきませんのでこのような場所からとなりますが、どうぞご容赦ください。王からの召喚状を持っていますので、身体検査や身元の確認で門番に止められることはありませんのでご安心を」


王都にでかでかと建つ王宮へ到着したからだ。

日が落ち辺りが暗くなり始めた頃に裏口へ着いたのは、出仕している者達が屋敷へ戻る時間帯を狙ってのことらしい。


「王宮内にはお部屋をご用意しておりますので、一旦そちらでお休みになっていただきます。その間に王に謁見申請を出し、それが受理されれば……恐らく本日中にお会い出来るかと」

「別に明日でも構わないです」

「リスティア様に関しては何よりも最優先にとの命を受けておりますので、皆待たせないよう配慮するかと」

「そ、そうですか」

「では、失礼いたします」


何ソノ命令と若干引いていれば、身体全体を覆うほど大きくて真っ白な上着を着せられ、顔が見えないようにと上着に付いているフードを被せられた。

汚れが目立つ純白。普通こういった物は、目立たないように灰色とか黒とかを選ぶものでは?

色もさることながら、物凄く手触りの良い上着に何かあったら大変だとビクビクしつつ、リオルガに当然のように抱っこされて馬車から降りる。


「……その、リオルガ?」

「はい」

「この恰好もそうだけど、この体勢は、凄く人の目を引くような気が」

「王宮に馬車で出入りする者達は大抵が貴族です。しかも王の召喚状を持つような方ですから、この程度でしたら誰も歯牙にもかけません。それに、リスティア様の本来の身分であれば、こうして専属護衛騎士に抱き上げられるくらい何もおかしなことではないかと」

「うん、待って、いつからリオルガは私の専属護衛騎士になった?」


リオルガの首に腕を回し耳元に口を近づけて小声で抗議する。

この子供抱っこもそうだし、護衛という点は村でそのような感じで口にしていたからまだ納得できるが、専属って?貴方は国王様の専属でしょ?

間違えていますよと付け加えると、軽く顔を向けたリオルガは、とても素敵な(恐ろしい)笑みを浮かべた。


「その辺りも、私から王へお話しておかなければなりませんね」

「その辺りとは、どの辺りでしょうか……」

「私は国王直属常備軍の者なので、有事の際は隊を率いて戦場へ向かいます。ですからリスティア様の側を離れない為に、今のうちに移動願いを出しておかなくてはいけません。残るか去るか、どちらを選んでもよいように、配属先は吟味する必要がありますね……」

「ごめん、言っている意味が全く理解できません」


ガクッとリオルガの肩に顎を乗せるとぽんぽんと背中を優しく叩かれ、まるで幼子のようだと気恥ずかしくなる。


「リオルガ・クラウディスタだ」

「お疲れ様です……失礼ですが、お連れの方は?」

「国王陛下の客人だ。召喚状はここに」

「はっ、確かに。確認いたしましたのでどうぞ、お通り下さい」


フードの端を掴んで顔を隠しているので見えないが、門に立って居る騎士達が緊張しているのが声で分かる。

国王直属の常備軍というものは他国で例えると近衛騎士に近いと教えてもらったのだが、要は近衛騎士の地位を持つ実戦部隊なのだろう。リオルガはその一部隊を任されている隊長様なのだから、一介の騎士がこの反応なのは納得だ。

門を潜り静かな通路を運ばれながらトン、トン……とリオルガの肩を指先で突く。


「リオルガって、ちゃんと騎士だったんだね」

「すみません。それ以外の何だと思っていらしたのでしょうか……?」


ほら、初対面がアレだったから。

えへへ……と妙な笑いで誤魔化してリオルガから顔を逸らした。




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