第3話 名探偵イスカ
アルドは急いで未来に足を運んだ。彼女なら、彼女ならこの事件の真実にたどり着いてくれるかもしれないと思い無我夢中で走る。IDAスクールH棟に行き2階に駆け上がりIDEA作戦室に飛び込んだ
「イスカ!イスカいるか!」
突如飛び込んできたアルドを見て一瞬驚くも冷静さを保ってアルドに声をかけた。
「どうかしたのかい?血相を変えて?」
「はあ、はあ、イ、イ、イスカ。ご、ごめん。はあ、お願いがあるんだ。」
「大丈夫かい?アルド。ひとまずゆっくりと息を整えるんだ。」
そうイスカに言われて息を整えて落ち着くことにした。
「どうやらその様子だと厄介な困り事を抱えているみたいだね」
「ごめん。急に飛び込んできて。でもこのままだとなんだか取り返しのつかない気がするんだけどそのとっかかりがわからないんだ。」
「わかった。話を聞くよ。アルドには以前協力してもらった恩がからね。」
それからのことアルドはこれまでの経緯を事細かに話した。その間イスカは顎に親指を当てて考えたり何かわかったのか小さく微笑んだり何か疑問に思ったのか真顔で髪の毛を耳にかけたりしながらアルドの話を聞き終えた。
「、、てことなんだけど本当に黄色の長髪の女が殺害したのかな?イスカはどう思う?」
「そうだね。確かに不可能なことを除外していって最後に残ったものが真実となるけどそう考えるとその黄色の長髪の女が犯人になるね。」
イスカが言うとアルドは悲しげな顔をしてやっぱりそうなのかと納得するしかなかった。が
「けど不可能と前提にしているものを一度懐疑的に捉えてみるとだんだん見えてくるかもしれないね。それが例え我々が普遍的だと思っていることだとしてもね。」
アルドは顔を上げた。
「そ、それじゃあ犯人は他に」
イスカは首を縦に振り
「犯人はその黄色の長髪の女性ではないね。」
驚きと喜びが込み上げてきた。自分の中でこの事件の真相は他にあるのではないかと思っていたがその糸口が全くわからなかった。けれどこうして事件の真相は他にあると自分以外の人間も口にすると理由はどうあれなんだか嬉しく感じてしまう。
「それで誰が真犯人なんだ?」
「そうだね。ここで言っても良いのだけどなんだかアルドかなり急いでなかったかい?」
「あ!そうだ!悠長にしていられないんだった。」
「なら私をその現場まで連れて行ってほしんだ。そこで公に真犯人を公言しよう。」
とても頼もしくなんだか心が躍る程であった。それじゃあ早速とアルドはイスカを連れて行こうとしたが
「すまない1分ほど待っていてくれないかい」
そう言うとイスカは作戦室にいる1人の男に声をかけ
「彼女と連絡をとって欲しいんだ。」
そして準備が整い2人は急いで現代に戻った
まほろばの湯ではナグシャムの人員達はすでに帰還する寸前だった。そして黄色の長髪の女は縄で手を縛られていて綺麗な髪の毛もボサボサ、体も泥だらけでまさしく囚人のようであった。
調査員が容疑者を縛っている縄を犬の散歩かのように乱暴に引くが黄色の長髪の女は体がついていかず大胆に転げる。人を殺しているのだからこんな扱い受けて当然だろうと調査員は吐き捨てる。黄色の長髪の女の目からは涙が流れる。ただ自分は温泉に浸かりにきただけなのになんでこんな仕打ちを受けなくてはならないのか今でも理解ができなかった。
「助けて、父さん、母さん」
急な不条理にあい心身ともに疲弊してしまったが最後に目一杯の力で声に出し想いを届けようとした。けれど誰にも聴こえていなかった。
調査員は協力してくれた被疑者たちにお礼を言いまほろばの湯を出ようとした。そこに急いで走ってきたアルドとイスカが到着した
「な、なんとか間に合ったな。」
アルドは肩を大きく揺らし一時の安堵につく。息が切れているもののなんとか調査員たちの足を止めなければならないのでしんどいが大きく息を吸い「ちょっと待ってくれ」と辺りに声を響かせる。調査員達は足を止め視線がアルドに集まる。
「すみません。少しお時間いただいてもよろしいですか。犯人は彼女ではないかもしれません。」
その発言に周りがざわめき立つ。ここにきて真相を覆すのは大事であるがそれは調査員達の判断が間違っていると言っているようなものだ。そして1人の調査員がアルドに歩み寄り
「君、そんなこと言うけどもし間違っていた時自分もどうなるかわかっているよね。」
調査員がアルドに威圧的に詰め寄る。
「あ、えっと、俺が推理するわけじゃなくて、、」
返答にアルドが困っていると。
「失礼。この場は私に任せてはいただけませんか?」
イスカが調査員の前に立ち聴衆の注目を集めたが
「君は誰だね?」
「ああ失礼、私はしがない探偵とでも名乗っておこうかな
。そこにいる被疑者のアルドの知り合いでそのアルドから事件について話は聞きました。そこで烏滸がましいのだけれども私の推理を聞いてもらってもいいですか。」
「何を言い出すかと思いきや。これは子供の遊びじゃないんだよ。さ、そこどいて。」
調査員は聞く耳を持ってくれない。そうとわかるとイスカは
「被害者を殺害したのはそこにいる白髪の男性です。」
その場にいた全員が凍りつく。イスカが言ったことが誰も理解ができなかった。ましてやその発言によって訳のわからないことを言う狂言者と捉えられた。調査員の1人がしたり顔
「君ね、そのアルドくんて子から事件の内容ちゃんと聞いてたの。緑色の短髪の女は犯行は無理、そこのアルドくん、そしてさっき君が名指しした白髪の男も犯行は不可能だ。そう考えればそこの黄色の長髪の女しか犯行は行えないのだよ。」
そう言って調査員はイスカをあしらおうとしたが
「アルドから聞きました。そこの黄色の長髪の女性は赤色の長髪の女性が浴場に再び戻ってきたと供述したと。けれどもアルドと白髪の男性の供述から赤色の長髪の女性が戻ってきてはいないと言うことから自然と黄色の長髪の女性が嘘をついていてその嘘の意味は罪を擦りつけるためと調査員は断定しましたね。」
「ああ、そうだが」
「ここで黄色の長髪の女性の供述が全て本当だとします。」
「だから、それは無理だって、、」
「そして今回の事件の鍵となるのは湯煙です。ここは気温が若干低いせいか飽和水蒸気量が小さくなって浴場の湯煙がすごく視界が悪い状態でした。実際にアルドが緑色の短髪の女性から聞き出した供述から5メートルほどで色が認識でき、3メートルほどでようやく顔が認識できると。」
「それがなんなんだね」
「黄色の長髪の女性は赤色の長髪の女性を目撃したとおっしゃりましたが目撃したことは真実だとしてその赤色の長髪の女性が本当に赤色の長髪の女性だったのかという疑問です。」
「どういうことだ、仮に他の人間だったとしてアルドくんと白髪の男の供述から赤色の長髪の女が暖簾をくぐって出てきてからまた暖簾をくぐって入っていった人間は緑色の短髪の女だけだが彼女は10秒ほどでまた出てきたと目撃されているはずだ。」
「いいえ。1人忘れています。」
「あ!!!!」
アルドは何か思い出し思わず息を強く吐いた。
「そういえば白髪の男が1度脱衣所に入っていったの忘れてた。」
「その通り。黄色の頭髪の女性が見た赤色の長髪の女性とは白髪の男だったのさ。」
それを聞いて白髪の男は思わず笑ってしまった。それにつられて調査員も笑い
「あのね、だからといってそうならないでしょ。我々もその供述は聞いているけど関係なさそうだから無視したよ。」
イスカの口角が上がった
「簡単なことです。変装していたら」
「変装?」
「そう、例えば赤色のウィッグとかを被っていたらどうです?」
「だがそうだとしてそんなのウィッグだけではすぐにバレてしまうんじゃ、」
「いいえ、ですから今回の事件の鍵は湯煙だと言ったんです。5メートル離れていると色がぼんやりと見えるだけ。つまり頭に赤いウィッグを被っていれば顔を見ていないけど赤色ということで先入観から赤色の長髪の女性と勝手に判断してしまうわけです。」
「な、なるほど」
今まで批判ばかりしていた調査員が納得した。しかし白髪の男が呆れて
「そんなのただの憶測だ。それに証拠がないじゃないか。」
気のせいか白髪の男の声色に若干の焦りがまじっているように感じた。けれどイスカはお構いなしに推理を続ける
「調査員の方にお尋ねしたいのだけれども赤い薬草はまほろばの湯に落ちていたりしませんでしたか?」
「いいや、そんなもん調査して発見されてないぞ」
イスカは髪の毛を耳にかけながら微笑んだ。
「それなら白髪の男性の荷物を調べていたたけませんか」
調査員は白髪の男にカバンの中身を見せてくれるようお願いした。しかし白髪の男は何も答えず急に無口になった。調査員は疑問に思ったもののこれも調査なのでと半ば強引にカバンの中を調べた。出てきたのはロープ、水筒、薬草図鑑、そして
「薬草ポーチ」
アルドは察した。この中にあるんだ。赤色の薬草が。そして調査員がポーチに手を入れ取り出したものが赤色の薬草を根元でロープで巻き束にしたものが出てきた。
「おそらく彼はこれをウィッグの代わりにしたのでしょう。」
疑いの目がいっきに白髪の男へと向く。イスカが言ったとうり赤い薬草をウィッグの代わりにしたとしたら今までの全ての供述が一致する。
「そんなの誤解ですよ。偶然赤色の薬草を集めていてそれをポーチに入れていただけですよ」
正直なんだか苦しい言い訳のように聞こえた。
「その赤色の薬草はいつ摘んだんですか」
「これは女たちが入浴中に摘んだんだ」
「そういえばあなたのカバンの中身少しおかしいですね」
イスカが問い詰める
「ナイフ、ナイフがない」
緑色の短髪の女が驚いた表情で気がついた。
「そう、どうやら薬草師という仕事はナイフは必需品だと緑色の短髪の女性は仰っていましたね。」
「俺はナイフなんて使わないんだよ」
白髪の男の声が震える
「嘘、嘘よ。普段はナイフ使ってるじゃない。」
緑色の短髪の女の発言によって白髪の男はあからさまな嘘をついたことがわかった。
「それにこの赤色の薬草の端を見てみるとわかるけど平になってるね。どうやらこの薬草は毟り取ったというよりも何かで切り取ったと考えられるでしょう。そう、ナイフとかでね。」
白髪の男の額から脂汗が流れる。
「このことから考えられることは赤い薬草を切りとり、その後被害者の首を切りナイフを現場に捨てた。そうすることによって容疑を黄色の長髪の女性に向けられるからね」
全員の視線が白髪の男に向く。白髪の男は膝から崩れ落ちた。その様子を見てアルドは
「ま、まさかあんたが本当に殺したのか」
驚きが隠せなかった。友人が殺されたことによって犯人に憎しみを抱いていたと思っていたがまさかこの男が殺人犯だとは思いもしなかった。アルドだけではない。調査員たちも、そして友人である緑色の短髪の女はこれほど複雑な心境はないだろう。
「ど、どうして殺したりなんかしたの」
緑色の短髪の女は悲しげに問いかける
「お、俺は、お前のことが好きなんだ」
唐突な告白で動揺した
「けどあいつは常にお前の悪口ばかりを俺に言ってきやがる。鬱陶しかったよ。」
「あんた、あの子のこと好きなの。やめといた方がいいわよ」
「あの子と付き合ったらあなた破滅するわよ」
「あのこと付き合うなんて頭が悪いわね」
緑色の短髪の女は手を口に当てて目を丸くした。白髪の男は俯きながら話す
「それだけならまだ我慢ができた。けどついにはお前にまで嫌がらせをしたんだ。俺は堪え兼ねて今回の犯行に至ったんだ。」
「そんなことで人を殺したのか」
アルドは白髪の男に呆れたが男は勢いよく顔を上げて
「おまえにはわからないだろうけどな。しつこく罵声を浴びせてきやがるやつが近くにいたら頭がおかしくなってくるんだよ。それにな、」
白髪の男は一度間をおいた
「俺たち薬草師はあの女には逆らえないんだよ。あいつの親父は唯一薬草師をちゃんとした給料で雇っているんだ。もしあの女に逆らったりなんかしたら簡単にクビにされて俺たちは食いっぱぐれちまうんだよ。」
白髪の男は緑色の短髪の女に視線を向けて
「ごめんな。お前まであいつから嫌がらせされて泣いてる姿を見るのは辛かったんだ。」
それからのこと男は口を一切開かず下を向いたまま両手を縄で拘束された。調査員の一部は男をナグシャムへと連行し、残りの調査員は黄色の長髪の女に額を土につけ何度も謝罪をしていた。しかし黄色の長髪の女の怒りはまったく収まらない。当然だ。あれほど乱暴に扱ったんだ。調査員の一部は追って処分が下されるだろう。
黄色の長髪の女はイスカの元へ駆け寄りイスカの両手を握りしめ泣きながら笑顔で
「本当にありがとうございました。あなたには感謝しても感謝しきれないです。せめてこの後ご飯でもご馳走させてくれませんか?」
黄色の長髪の女はイスカへの感謝の思いが溢れ出て顔がグシャグシャになっていた。
「気にしないでくれ。それよりも君が感謝すべき相手はそこにいるアルドだよ。アルドがこの事件を疑問に思って私の元に走って駆けつけなければ君は今頃牢獄だったかもしれないからね」
そう言われると黄色の長髪の女はアルドの両手を握りしめ
「あなたが裏でそんなことしてくれていたなんて。本当にありがとうございます。是非お礼をさせてください」
「いいや。俺は当然なことをしたまでだよ。」
と謙虚に答えた。
「お二人ともこの後是非うちに寄って行ってください」
そうするとイスカは
「ありがとう。でも今回は気持ちだけ受け取っておくことにするよ。それにまだやらねばいけないことがあるのでね」
そうイスカが言うとアルドは理解ができない表情で
「事件は解決したんじゃないのか?」
「いいや、まださ」
黄色の長髪の女は残念そうにしたものの「今度はお二人が困った時には私が駆けつけます」と言いイスカは笑顔で返答した
イスカは調査員に話しかけた。
「すまないが協力してくれないかな」
そういうと調査員は二つ返事で引き受けた。すっかりイスカの言いなりになっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます