第2話 食い違う供述

温泉で人が亡くなった事からナグシャムから兵士が派遣された。派遣された人員は死体の周りに集まり現場鑑識を行なっている。そしてアルドは被疑者として兵士たちから事情聴取を受けている。

「〜〜〜という事なんですよ。」

「なるほど、わかりました。ご協力ありがとうございます。それともう少しここに留まっていただいてもよろしいですか?まだわからないこともあるので。」

「わかりました。」

アルドは一通りの聴取は終えた。しかしどうやらアルドの他にも被疑者がいるようだ。まずは白髪の男、男の知り合いの緑色の短髪の女、赤色の長髪の女、そして第一発見者の黄色の長髪の女。けどまだ聴取は全員終わっていないようだ。

「こんなことが起きるなんてな」

アルドは下を向きながらぽつりと呟いた。温泉に浸かり気分をほぐそうと思っていたがそれができなくなったことが悔やまれることからくる憂鬱よりも亡くなった女の人への哀れみからくる憂鬱によってアルドの気分は沈んでいた。たとえどんなに旅をしてその中で何度も別れを経験し、そしてその亡くなった人とアルドの距離が遠かったとしてもやはり目の前で人が光を失うことは辛い。少々呆けた。


10分ほど時間が経った。どうやらまだ被疑者たちはまだ聴取を受けているようだ。声を掛けたかったがそうはいかないようなので留まることにしようとしたがいたたまれない気持ちの方が強いのでウロウロしていた。そうしていると暖簾からさっきまで現場鑑識をしていた人員がでできたのでその中の男の1人にアルドは目があったので声を掛けた。

「なあ、聞いてもいいか?被害者の死因は何なんだ?」

「出血多量だよ。そういえばあんたも被害者を目撃したんだろ?首から血が垂れ流れてただろ」

「ああ、確かに見たよ。けどなんで血なんか流れてたんだ」

アルドが聞くと男は一瞬躊躇ったが口を開いた。

「ナイフで切ったんだ。被害者の傷口と現場に落ちていた凶器と思われるナイフが落ちていて、それを照らし合わせるとそのナイフで切ったことがわかったんだ。」

男は続ける。

「それでなんだが、傷口の深さと位置と数から考えて我々鑑識の結果他殺だと断定したんだ。」

「え!!」

思わず驚愕した。そしてその直後背筋が凍った。まさかこの被疑者の中に殺人犯がいるのではないかと頭によぎった。

「いや、まさかな。」

しかし人を疑ったことが馬鹿馬鹿しく思った。まほろぼの湯で出会った人達が人を殺すような人間には全く見えなかった。

「なあ、他殺ということは目星はもうついているのか?」

「いや、今のところはなんともいえないな。全員の聴取は終わってないしな」

と男は一度言葉を区切った。なんだか歯切れが悪い様子だ。

「けど、言っちゃなんだがここにいる被疑者が疑わしいのは確かかもしれないな。」

「どうしてだ?俺はあまりここにいる被疑者たちが人を殺したようには見えないぞ。」

「ここに至るまでの道は怨丹ヶ原からの一本道だ。そこで偶然突っ立ってた白い長髪で白い頭巾を被った女の人がいてその人の供述は取れたんだが最後にそこお通ったのはどうやらあんたが最後みたいだ。それとあんたとそこにいる白髪の男の供述で後から人が来ることはなかった事からここにいる被疑者に絞られるわけだ。」

アルドの中で一瞬時間が止まった。けどまだ他の可能性が考えられる。

「魔物の仕業なんてことはないのか?」

男は親指を顎に当てて首を傾げる。

「その線は薄いな。もしそうだとしたら誰かが目撃しているだろうしそれに魔物だったら痕跡を残すはずだしな。」

「そうか。色々ありがとう」

正直腑に落ちなかった。被疑者達とは初対面で相手の素性なんてわからないが第一印象からしてそのような雰囲気は全くなかったからである。アルドは責任感に近く好奇心とはまたいえない衝動に駆られた。この事件の真相を知り自分が初めに抱いた彼らの印象は間違っていなかったということを証明したいことと亡くなった被害者のためにも。


どうやら白髪の男が聴取を終えたようだ。一目散に男に駆け寄り

「聴取お疲れ。その後で悪いんだけどさ少し話を聞いてもいいかな?」

アルドは話しかけた。が、白髪の男は浮かない表情を浮かべ首を縦に振るだけだった。

「大丈夫か?なんだか顔色が悪いけど?」

「ああ、すまない。実は被害者は俺の連れだったんだ。」

アルドは言葉を失った。思い返してみると白髪の男は連れが2人いたと言っていた。1人が緑色の短髪のの女性。そしてまさかもう1人が青色の長髪の女性だったとは思いもしなかった。

「すまない。無神経だったな。」

「いいや。あんたが悪いことなんて何もないぜ。ただ動揺しちまって。」

「そうだよな。知り合いが急に亡くなったんだもんな。」

アルドは話を聞くことを躊躇した。つい先ほどまで温かみがあり共にしていた人間がいきなり光を失ったとなると正気でいることの方が難しい。アルドはいったん席を外そうと思い離れようとすると白髪の男はそれを察してか

「俺のことなら問題ない。それよりあんたこの事件のこと知りたいんだろ。俺も友人が亡くなったんだ。真相を自分なりに追及していくぜ。」

友人の無念を晴らす。男の胸の内に秘められた闘争心が暴走しているようでそれは男の仕草や表情からは全く読み取れないがアルドの中の理性がそれを感じ取った。

「わかった。俺もこの事件、真相にたどり着けるように非力だけど協力できることがあったらしていくよ。」

ただただ頭で考えて話したわけではなく口が勝手に動いた。

「それでなんだけどここに来てから、それと来るまでの出来事を教えてくれないか」

白髪の男は回想する





「ほらーー、温泉まで後もう少しだよーー」

緑色の短髪の女が少し離れた白髪の男の耳に届くように大きな声を荒げ、右手を大きく振っている。

「はあ、はあ、お前ら体力あるな。」

男はフラフラになりながら道中そこら辺の草木が生い茂る中から枝を拾いそれを杖の代わりにしなんとか緑色の短髪の女と青色の長髪の女に遅れを取らないように踏ん張っている。

「大丈夫かな?」

けれども女2人と男の距離は開いていく一方なので一旦足を止めることにした。

「それにしてもこの辺は薬草が多いわね。睡眠薬に使われる青色薬草。興奮作用がある赤色薬草。鎮痛剤に使われる黄色薬草。まさかこんなところに穴場があったとはね」

男をまっている間に緑色の短髪の女は1人感心していた。白髪の男が追いつくと緑色の短髪の女は気を遣ってカバンから赤色の水筒を取り出しコップに水を注いで

「はい、後もう少しだから頑張って。」

「あ、わ、悪いな。」

白髪の男は顔を赤らめ目線を逸らし頬を緩めながら水を飲む。その様子を青色の長髪の女は目を細めながら凝視し

「ねえ、ちょっと」

青色の長髪の女は緑色の短髪の女を呼び出し白髪の男には話声が聞こえない距離まで離れ何か話している。そして2人はこと済んで男の元に戻ってきたが緑色の短髪の女はなんだか下を向いて冴えない表情をしていて白髪の男は不思議に思ったが青色の長髪の女もそれを見て不思議に感じている表情をしていた。

それから励ましの甲斐あってかなんとかまほろばの湯にたどり着いた。

「ふー。やっと着いたな。汗もかいたことだし早速ひとっ風呂浴びるかー。」

白髪の男は意気揚々と暖簾をくぐろうとするが緑色の短髪の女が静止させ

「残念でした。ここの温泉は性別の割合が多い方の湯になるのよ。あなたはまだここで待っていてね。」

「嘘だろー」

白髪の男は項垂れた。

「私たちできるだけ早く湯から上がるから気を落とさないで。」

青色の長髪の女が白髪の男を励ますが男は素っ気なかった。

「私たちもなんだかんだ汗かいちゃったから入る前に水分補給しないとね。」

緑色の短髪の女はカバンから青色の水筒を取り出しコップに水を注ぎ青色の長髪の女に渡しありがとうとお礼を言ってから喉がかなり渇いていたのか一気に飲み干した。「あなたは飲まないの」と青色の長髪の女が緑色の短髪の女に尋ねると「私は尿意が催しちゃうから」と言い飲まなかった。そして女2人は少し心苦しく白髪の男に手を振り待っててねと労い暖簾をくぐった。それから白髪の男は1人とりのこされ木製の2人腰をかけることのできる長椅子に座り寂しく待つことにした。あっけらかんとして遠くを見つめていると遠くから赤色の長髪の女がこちらに来るのが見えてきた。女も道中苦労したのかかなり汗をかいていたがそれよりも服が泥だらけだったのが気になった。いったいここに来るまでに何があったのかと尋ねてみようと思ったがただならぬ雰囲気が彼女から醸しでていた。声をかけることを止め彼女を自分の視界から消そうと首を不自然に捻ると

「あの」

自分の怪しい行動に不信を抱いたのかと思い体を一瞬飛び上げてしまった。けれど赤色の長髪の女はそんなことは気に留めず「今って女湯でよろしいですか?」

と淡々と聞いてきたのでぎこちない口調でハイと答え赤色の長髪の女は暖簾をくぐった。なんだか面映い気持ちになり身を縮み込ませる想いに陥った。


しばらくして白髪の男は一度長椅子から席をたちその場から姿を消した。


数分経ってまた長椅子に戻ってきた。どうやらまだまだ女達は湯に浸かっているのかもしれない。それにしても考えてみれば今の所自分と女3人しかいない。しかもその3人は入浴中だ。自分を監視している人間は今の所いない。いっそのことよからぬことを、、

「あのー、すみません」

隙をつかれたかのように背後から声を掛けられ白髪の男は飛び跳ねた。

「な!なんですか?」

「あ、なんかごめんなさい。今って女湯ですか?」

「え、ええそうですよ」

そう聞いて黄色の長髪の女はそそくさと暖簾をくぐった。気のせいであって欲しいがなんだか彼女の目つきが自分のことを不審に思っていたような気がした。自分がなんだかなさけなく思えてきた。そう落胆して大人しく待っていると今度は腰にやけに大きな剣を取り付けた青年がやってきて女湯だというのになんの迷いもなく入ろうとしていたので自分は反射的にその青年の男の腕を掴み制止した。




「まあこんな感じだったかな」

白髪の男はここまでのアルドと会う前の経緯を説明した。

「被害者とは仲よかったんだな」

「まあな、、」

少し俯く姿を見てアルドは話を変えることにした。

「普段は何をしてるんだ?」

「俺か?俺は薬草師をしているんだ。色々な薬草を調合したりして病人を治したり苦痛を取り除いたりしているんだ。」

「へえ。それじゃあ結構草とかの効能とか詳しいんだな。」

「まあ大体の草はみれば識別できるな。後は草の生息地とかは熟知しているつもりだ。」

なるほどと納得し今のところ事件と関係ありそうなことはなさそうだとアルドは考えた。けれどそういえば被害者はナイフで首を切られたのを思い出した。

「なあ、荷物を確認してもいいか?」

アルドが白髪の男に言うと鋭くアルドのことを睨んだ。

「まさかだとは思うけど俺のことを疑っているのか」

アルドは焦って首を横に振り否定した。

「疑っているわけじゃないんだ。でもナグシャムからの人員はここにいる被疑者がやったって考えているらしんだ。正直あまり信じ難いから俺の中で納得したい気持ちがあるから調べたいんだ。」

「すまない。あんたはこの事件の真相に協力してくれているんだよな。」

白髪の男は一瞬感情を荒立てたがすぐに落ち着きを取り戻しカバンの中身をアルドに見せた。中身は薬草を入れるポーチ、ロープ、水筒、薬草図鑑。これといって怪しい代物はないように見える。アルドはお礼を言い白髪の男は少し疲れたと長椅子に腰をかけ一呼吸置くことにしていた。

さて残りはあの3人。緑色の短髪の女、赤色の長髪の女、黄色の長髪の女。次に声をかけるのは緑色の短髪の女にした。

「あのさ、少し話をしたいんだけどいいかな?」

ナンパですかと女はからかったつもりでいたがアルドは平静な態度で否定した。どうやら明るい子のようだ。

「友人のことは残念だったな。白髪の男から聞いたよ。」

緑色の長髪の女は目を潤めた。けれども悲しい表情はしていない。と言うよりも見せないように頑張っているように見える。アルドは事件のことを聞こうとするが心咎める気持ちになる。

「あんた入浴しているとき何かおかしな出来事とかなかったか?」

「特に私が入浴している時は何もなかったと思うわ。最初に私たちが入浴してその次に赤髪の人が、それで黄色の髪の人が入ってきたわ。私はその後1番に湯から上がったからその後のことは全くわからないわ。」

その話を聞いてアルドは思った。

「なあ、あんたと青髪の人が入浴する時誰かいなかったのか?」

「はっきり言って湯煙がすごくて遠くの物は何も見えないわ。5メートルほどで色がぼんやりと見えて3メートルほどでようやく顔がわかるくらいだわ。」

確かにアルドが悲鳴を聞いて浴場に入った時何も見えなかった。けれどアルドが考えたことはそこではなかった。

「もしかしたらここにいる被疑者以外の人間が身を隠していたんじゃないか。あれほどの湯煙だったから身を隠すのも簡単なんじゃないか?」

緑色の短髪の女は眉間に皺を寄せ首を傾げる。

「でももしそうだとしたら殺害した後その人は姿をどうやって消したのかしら?浴場の出入り口は一つしかないし殺害して出たとしたらあなたがその姿を確認しているはずよ。もし違う方法で出たと考えたとしてもここまほろばの湯は出入り口以外から入られないように鼠取りのような罠が張ってあるから不可能に近いわよ。」

納得だ。確かに暖簾から人を殺したような人物は出てこなかった。

「そういえばあんた暖簾から出て連れの男と会話して離れてからまた暖簾をくぐってなかったか?」

「ああ、あれは忘れ物をしただけでそれを取りに行っただけよ。ものの10秒ほどで私また出てきたでしょ」

今のところ全く犯人の足取りが掴めない。とりあえず緑色の短髪の女にも荷物を見せて欲しいとお願いし、白髪の男の時とは違い快く見せてくれた。薬草ポーチ、ナイフ、図鑑、赤色の水筒、青色の水筒となんだか白髪の男のカバンの中身と似ている。

「もしかしてあんたも薬草師か?」

「よくわかったわね。あの連れの男と私は同じ薬草師よ。」

「青色の髪の被害者は違うのか?」

「彼女は宿の女将をしているわ」

彼女達の職業はわかった。だがその前に一つ気になることがあった。

「そのナイフは?」

「ああ、これね。これは薬草師が薬草を摘む際に使うものよ。まあ薬草師にとっては必須アイテムね。薬草といっても色々あるからね。時折手ではちぎれない薬草もあるのよ。」

確か現場にあった凶器もナイフだったはずだ。何か手がかりになるかもしれないとアルドは眉を立てると

「安心して。これで人なんか殺してないわ」

と言われたのでアルドは我に戻り自分の顔の怖さから緑色の短髪の女のことを疑っていると思わせてしまったと思い誤解を説いた


ここまで話は聞くことはできてはいるが犯人への手がかりとなるのかはわからない。怪しいところが今のところ見えているようで見えていない。けどまだ被疑者は赤色の長髪の女と黄色の長髪の女の2人いるので気を取り直して今度は赤色の長髪の女に声を掛けてみることにしようと歩み寄ろうとした時

「すみません皆さん。一度集まっていただいてよろしいですか?」

ナグシャムから派遣された調査員が自分がいる場所がわかるように手を挙げ被疑者たちはその周りに集まった。

「皆さんご協力の程ありがとうございました。一通りの聴取を終えてある程度の情報を集められたので皆様にご報告したいと思います。まずこの事件は殺人だと鑑識の結果断定しました。それで我々調査員が調べた結果おそらくこの中に犯人がいると考えています。まずここまほろぼの湯は魔物侵入を防ぐため鼠取りを周囲に張り巡らされています。そう考えると魔物はおろか人間も唯一の出入り口を除いて侵入することができません。」

被疑者達は硬直した。この中に犯人がいることを考えると身の毛がよだつ。しかし調査員は手を首筋に当てて息を深く吐きながら話を続けた。

「それでなんですけどね、犯人はこの中にいると言ったのですが」

調査員は少々言葉に詰まりながらも続ける

「その犯人の目星は黄色の長髪のお方と我々は考えています」

全員の視線が黄色の長髪の女に集まる。黄色の長髪の女は目をガン開きにし口が半開き状態になって状況が理解できていない様子だった。それから黄色の長髪の女は我に戻り初めは殺人行為を震えた声で否定したが調査員は「でもねえ」と聞く耳を持たない。それから「じゃあ拘束して」と人形のように他の調査員に命令し「皆様の協力のもと無事犯人を捕まえられました」とさらりと事を運ぼうとした無常さから黄色の長髪の女は声を荒げ激怒した。

「あんた何を言ってるのよ!!!!!」

女は目がつりあがりその調査官に一心不乱に歩み寄ろうとしたが狂気じみていたので他の調査官が取り押さえた。黄色の髪の女は両腕を後ろに組まされ光が反射しまるで光沢のような美しい髪の毛を掴まれながら地面に叩きつけられた。何もここまでしなくていい気もしたが彼女の勢いが猛烈で殺人の疑いがあることから恐怖を感じ調査員も咄嗟の行動だった。

「おい待て!やりすぎだろ!」

アルドは調査員に怒鳴り掛け黄色の長髪の女を取り押さえている調査員を払い彼女の両肩を支え大丈夫かとささやいた。女は息が荒くさっきまで温泉できれいにした体が土まみれになってお尻を地面につけたまま俯いていた。そんな哀れな彼女に情けはかけずさっきまでの態度とは急変し「この女狐め」と調査員は吐き捨てて残りの後始末を始めようとした。そんなカオスな状況を見てアルドは怒りが込み上げてきた。

「おい!説明不足だろ!こんなんじゃ何も納得なんてできないぞ!」

それを聞いて調査員は「我々も暇ではないのでね」と言ったがここにいる被疑者達もアルドと同じく納得できていないため皆不満な顔していた。それを見た調査員は「わかりました」と嫌々話し始める。

「まずそこの赤髪の長髪の方の供述はおかしなところはなかったですよ。初めにそこの暖簾をくぐる際に男性を目撃しその後浴場に足を踏み入れた際視界がぼやけていてうっすらとだが緑色の短髪の女と被害者である青色の長髪の女を確認している。そしてその後黄色の長髪の女が入ってきてしばらくすると緑色の短髪の女が浴場から出て行きそれから自分も出て行った。この発言は大体の目撃情報と一致している。」

それから調査員は緑色の短髪の女の方に目を移し

「この人も供述はどこもおかしくなかった。青色の長髪の女と初め入浴しそれから赤髪の長髪の女が入りその後黄色の長髪の女が入ってきた。それから1番に浴場からでたと言うわけだな。これも全ての目撃者の発言と一致している。ここまではいいんですがね、、」

調査員は一呼吸おいた

「この黄色の長髪の女の供述が少しおかしな部分がありましてね」

アルド達は息を呑む

「まずここにきた際男を目撃しそれから浴場に足を運ぶ。そしてそこには湯煙でぼんやりとだが緑色の短髪の女、赤色の長髪の女、そして青色の長髪の女を目撃。それから緑色の短髪の女、赤色の長髪の女の順に浴場から去った。ここまではなんら問題ないんですがね、ただこの後変な供述をしているんですよ。それは、そこにいる赤色の長髪の女が再び入浴してきて青色の長髪の女に近づいていきそれからすぐにまた浴場から去ったと供述しているんだよ。」

アルドは違和感を感じた。赤色の長髪の女は緑色の短髪の女が入り口から出てくきてその後暖簾をくぐった。それからのこと赤色の長髪の女がまた暖簾をくぐって脱衣所に入って行った姿は見ていない。そうなると再び浴場に現れた赤髪の長髪の女は何者なんだ?そんな疑問を抱いていると白髪の男が

「それって1度浴場からは出たけど脱衣所に留まってまた凶器を所持して殺害したことになるんじゃないのか。」

そう白髪の男は言うと赤色の長髪の女を凝視した。しかし調査員が水を差すように話す

「それは不可能です。あなた方の供述でまず緑色の短髪の女性が出てきたきてから赤色の長髪の女が出てきてから5分程とおっしゃいましたね。それは黄色の長髪の女と供述は同じなんですがその赤色の長髪の女が浴場から出てまた浴場に戻ってくるまで15分ほど経ってと言っていたんです。そう考えると赤色の長髪の女は緑色の短髪の女が出てから5分後に出てきたことは真実となる。また戻ってきたなんて嘘くさいんですよ。殺人の罪を擦りつせるために言った嘘だとしか思えないんだよ。この男性2人がわざわざ嘘をついて赤色の長髪の女が暖簾をくぐらなかったなんて嘘をついてもなんらメリットはないですしね。それでもってその黄色の長髪の女は自分と被害者の2人になり殺し自作自演で悲鳴を上げたと考えられる。」

それを聞いて黄色の長髪の女は鬼の形相で泣きながら嘘なんてついてないしやってないと主張するも調査員はそのように犯罪者は往生際が悪いんですよと遇らう。

「じゃあその赤い髪の女の荷物を調べなさいよ!殺害に使った道具が出てくるはずよ!」

黄色の長髪の女は狂乱状態になり怒鳴り喚いた。しかし凶器はもう見つけていて犯人は確定している状態だから今更意味がないと調査員は呆れるも荷物を見て何も出てこないとなると黄色の長髪の女は諦めて大人しくなると思い調査員は赤色の長髪の女にお願いした。しかし赤色の長髪の女は躊躇していた。どうかしたのかと聞いてみたものの女は下を向いたまま黙りだった。よくわからなかったが調査員は「失礼」と言いつつ女のカバンを拾い上げチャックを開いた。調査員は驚愕した。そこにあったのは血塗られたナイフが入っていた。

「こ、これは一体何なんだ!!」

調査員が赤色の長髪の女に猛烈に問い詰めた。すると赤色の長髪の女はため息を吐き「しょうがないわね」と肩を落とし首を横に振りどうやら諦めた様子だった。

「そ、そうするとまさか本当にあんたが殺したのか。」

調査員は血相を変えて問い詰めるが赤色の長髪の女は不気味なほど落ち着いて

「バカね。凶器は浴場に落ちていたナイフなんでしょ。だとしたらこのナイフは全く関係ないわ」

確かに凶器はもう決まっている。このナイフではないと言うことはわかるがこの異様な程真っ赤に染まったナイフはどう考えてもおかしい。それををみた黄色の長髪の女は口元を釣り上げまるで勝ち誇ったように

「嘘よ!現場に落ちていたナイフはダミーで実際に使ったのがこのナイフよ!犯人はこの女に決まりよ!」

けれども赤色の長髪の女は平常心で淡々と

「もう調べがついているんでしょ。凶器と首元の傷口が一致していることが。試しに私のナイフを傷口と参照してみたらいいわ。」

その不動な態度から自然と信憑性が高くなるがなぜ血に塗られたのかが疑問だった。その答えが聞きたくて全員の視線が彼女に集まり赤色の長髪の女は致し方なく口を開いた。

「私はナグシャムに雇われている暗殺者よ。もし疑うならあなた達もナグシャムに戻って確認してみるといいわ。まあ、こんなこと言うのはなんだけど確かに人を殺したことは確かね。けどこの青色の長髪の女のことなんて全く知らなかったわ」

「けど暗殺者だったら何かしらの方法で周りの目を盗んで殺したに違いないわ!」

黄色の長髪の女は諦めずに食らいつくが

「その何かしらの方法って何かしら?」

黄色の長髪の女は項垂れた。なんだかもう何を言っても無駄な気がして絶望からか項垂れた。


それから調査員たちは彼女を拘束し荷物をまとめ始めた。アルドは目をつぶり腕を組んで考え事していると白髪の男が近づいてきて手を肩におきとんだ災難だったなと気遣ってくれた。自分が考え事していて目をつぶっていたから落ち込んでいるように見えたのだろう。けれど落ち込んでいるよりも何か心の中で引っかかっていて悶々としている。何かを見落としている。けれどそれがなんなのかわからない。こうもしている間に黄色の長髪の女は連行されてしまうがその女が本当に犯人なのかもしれない。なんだかこの自分の胸の霧はただの思いすごしなのかを確認したいがどうしようもない。こんな時にシャーロックホームズのような探偵がいたらなと物思いにふけているとアルドは何かを閃き急いで未来へと向かった。

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