挿話4 朝に弱いジェームズ

「くっ……今度は東だと!? 三日前は北東のウバイツの街、二日前は北のエスコックの街。昨日はここオタニサの街に来て……またイリアスの街へ戻るのか!? 一体こいつは何がしたいんだっ!?」


 どこか目的地でもあるのかと思ったら、一日毎に周辺の街を回り、元の街へと戻ってきた。

 しかも、わざわざ高額な特急馬車を使っているようだ。

 向こうが俺の……マリーの存在に気付いて逃げているのか?

 いや、それなら特急馬車を使って、もっと遠くへ行くだろう。実際、四の街を移動するのに、全て特急馬車を使っていた訳だし。

 こっちを意識している訳ではないが、意味不明な行動をとっているのは確かだな。

 意味が分からないまま、一先ずイリアスの街へ行く為、自分の馬車へ向かおうとしたところで、離れた場所と会話するメッセージ魔法が届いた。


『ジェームズ。数日経ったが、首尾はどうだ?』

「父上……そ、その、近付いてはいるのですが、向こうもこちらの存在に気付いているようで、特急馬車を使って逃げられていて……」

『ふむ。古代兵器というくらいだからな。分かった。マジックフォンの力を借りているにしても、一人では難しいであろう。私から、騎士団長に騎士の派遣を依頼しよう』

「ち、父上。宜しいのですか!? それはつまり、ルイス家として……」

『今回の一件は、ルイス家に依頼され、請けた話だ。しかし任務の特性上、人手は居る。だが、冒険者には話せない内容だ。よって、ジェームズの配下として手足となる騎士を派遣してもらう。あくまで、リーダーはジェームズだ。宜しく頼む』


 なるほど。これは助かる。

 やはり、いくら俺様が優秀であろうとも、一人で出来る事には限界があるからな。

 優秀な騎士をアゴで使えるというのは楽し……助かるな。

 一先ず、イリアスの街ではなく、このオタニサの街で明日合流という話になったので、今日は……メシだ。

 ここ数日、移動ばかりで揺れる馬車の中でしか食事出来なかったからな。

 やはり食事は落ち着いてゆっくり食べるものだ。


「……うむ。悪くなかったぞ」


 食事を終え、ルームサービスを片付けに来た者にチップを渡して追い払うと、マリーを呼び出す。


「……こんな時間までダラダラと過ごして、どういうつもり? 早くしないと、追いつけなくなるわ」

「まぁ待て。こうも街を移動されると、その都度人を雇うのが大変なんだ。だから、新たに騎士を俺様の配下とする事にしたのだ」

「お前が騎士を使う? 使われるの間違いだろ?」

「いや、あくまで俺がリーダーだ。まぁ見てろって。今、お前の姉は、東のイリアスの街にいるだろ? で、俺様の予想では、その北のウバイツへ行くはずだ。そして、その次はまた西のエスコックに行くだろう。だから、俺は明日エスコックへ移動して待ち構えておけば良いのだ!」


 無能なゴロツキなんかとは違う、使える騎士が配下になる事だし、これできっと任務を完遂出来る! そう思っていると、


「……はぁ。使えないわ」


 何故かマリーが俺を見ながら溜め息を吐く。


「何を言っているんだ。俺の話を聞いていたのか? 先回りしておけば、確実に捕まえられるだろ」

「あのさぁ……最初に言ったけど、お姉様は私よりも探索や索敵に優れたマジックフォンなの。こっちの動きを分かった上で、移動しているに決まっているじゃない」

「あ。という事は、俺たちが後を追って東のイリアスの街へ行かなかったとしたら……」

「そのまま北のウバイツの街に留まるでしょ。移動する意味無いし」


 マリーの冷たい目が、一層冷たくなって俺を射抜く。

 くっ……このゾクゾクする感じは一体何なのだっ!?


「で、では明日、騎士たちと合流したら、ここから北東に移動して、一気にウバイツへ行くべきか」

「当然。あと、いい加減、もっと早く起きたら? お前……いつも起きるの、十時を過ぎているからな? お姉様たちは、八時前には既に移動を始めているんだぞ」


 なん……だと!?

 朝の八時だなんて、まだ夜も明けていないのでは?

 そんな時間に起きろだなんて……無理に決まっているだろっ!

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