挿話3 振り回されるジェームズ

「んぁ……朝か。くっ、腹が……」


 昨日、追放されたカーティスに出くわし、俺様自ら制裁を加えてやろうと思ったのだが、何をどうやったのか、高位の攻撃魔法を避けやがったんだ。

 昨日はむかつき過ぎて、やけ食いしてしまったのだが、そのせいか、とにかく腹が痛い。

 とりあえず、治癒魔法で腹痛を治そうとして、


「ぐっ……そ、そうだ。あの時、変なガキに意味不明な強さで体当たりされて、杖を落としたのか。この腹痛は、一体どうすれば……くぅぅぅっ!」


 魔法が使えないと気付き、慌ててトイレに駆け込む。

 一先ず腹の調子が戻った所で、


「さて、出て来てもらおうか。マリー」


 テーブルの上に置いているマジホを起動させ、黒髪の少女が現れる。


「お前……起きるの遅過ぎだろ。もう昼だぞ」

「もうそんな時間か。昼飯は何にしようか」

「……そんなくだらない話をする為に、私を起動したのか?」

「はっはっは。一人でランチだなんて寂しいだろ。せっかくだから、一緒に食事を……」

「断る」


 相変わらず冷たいな。

 だが、この冷たい感じも良いのだが。

 一先ず、宿にルームサービスを頼み、肉を一切れ口にしたところで、


「ところで、お姉様の事はどうするつもりなんだ?」

「もちろん見つけるさ。それが俺とマリーとの約束だからな」

「……約束を忘れていないのであれば構わんが、一つだけ教えてやろう。お姉様は、既にこの街から出ているぞ」


――ぶっ!!


「おま……どうして、そんな大事な事を早く言わないんだっ!」

「お前が呑気に寝ているからだ。朝早くに街を出て、北に居るぞ」

「くそっ……メシなんて食ってる場合じゃない!」


 マリーの言葉で慌てて身支度を整えると、宿を飛び出す。

 急いで馬車の停留所へ行くと、


「ジェームズ様。御用事は終わられたのでしょうか?」

「まだだっ! それより、急いで北へ向かえっ!」

「北……ですか? 確か、ウバイツの街がありますな」

「そこだっ! そこへ行けっ! 今すぐだっ!」


 ルイス家の馬車の前で待っていた執事を、とにかく急がせ、ウバイツの街へ向かう。

 だが、馬が一頭しか居ないからか、遅い!

 騎士団長から頼まれたのだから、何としても成功させなくてはいけないのにっ!


「ジェームズ様……もう間も無くウバイツの街です」

「遅いっ! 既に日が落ちているではないかっ! チッ……おい、マリー。出て来るんだ」


 朝に肉を一切れ食べたっきりで、ずっと狭い馬車の中で揺られていたが、ようやくそれも終わる。

 だが、万が一ターゲットがこの街から更に移動していたら……いや、その時はその時だ。

 とにかく今は、事実を確認しなければ。


「何?」

「もうすぐ北の街だ。お前の姉の場所を教えてくれ」

「……この街の中心付近に居る。既に暗いし、動かない所を見ると、お姉様を持っている者が、既に宿で休んでいるのではないか?」

「なるほど。では、俺たちもどこかで宿を押さえ、食事にするか」


 少しして、馬車が街に着いたので、執事に一番良い宿を探させ、部屋で夕食を済ます。

 それから就寝しようとして……って、そうだ。明日は真っ先に杖を新調しないといけないな。

 銀で出来た俺の杖は、性能だけでなく、工芸品としての価値もあったのだが……あのクソガキめ!

 新しい杖を手に入れたら、真っ先にあのガキとカーティスを血祭りにあげてやる!

 あんな小さなガキに、あれだけの力があるのもおかしいし、俺の攻撃魔法を避けるのも、絶対に何かおかしな事をしているに違いないんだ!


 あの二人をどんな風に痛めつけてやろうかと考えながら夢の世界へと旅立ち、その翌朝。


「マリー、出てきてくれ。……どうだ。今日はちゃんと起きたぞ」

「……あっそ」

「じゃあ一緒に朝食を……」

「イヤ」


 すぐに態度は変わらないか。

 まぁマリーは見た目が綺麗だから、傍に居てくれるだけでも、メシが旨くなりそうだから良しとしよう。

 ……ただ、水の代わりにマジックポーションを飲む羽目になるが。

 頼んだルームサービスが届き、スープを一口飲んだ所で、マリーが口を開く。


「……一つ教えてやるが、お姉様は既に街から出ているぞ。今は西に向かっているな」


 だから、そういう事はもっと早く言えって言っただろーっ!

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