第2話 ゴミスキルで出会った、喋るゴミ

 何かに呼ばれた気がして辿り着いたのは、ボロボロの廃墟……いや、古い遺跡かな?

 いずれにせよ、建物とは呼べない壁の残骸に沿って進んで行くと、


『そのまま真っすぐ……その先。その先に私が居ます』


 再び謎の声が聞こえて来た。

 何かは分からないけれど、僕に呼び掛けているのは間違いない。

 そう確信して歩いて行くと……そこにあったのはゴミの山だった。


「これは……そうか。僕の≪ゴミ≫スキルのせいだったんだ。どんなスキルなのか知らなかったけど、まさかゴミに引き寄せられるっていう、本当のゴミスキルだったなんて」


 少しだけ……ほんの少しだけ期待してしてしまったんだ。

 この≪ゴミ≫スキルっていうのが、実はいわゆるゴミスキルではなくて、本当は隠れた力を秘めた凄いスキルだった……なんて、都合の良い展開を。

 だけど現実にそんな事が起こる訳がなく、目の前にあるのは、打ち捨てられたゴミだけ。

 くっ……どうして、僕がこんな目にっ!

 そう思った時には、いつの間にか僕は真銀の杖を握っていて、


「≪サンダーボルト≫っ!」


 唯一まともに使える、雷の攻撃魔法をゴミの山に向けて放っていた。

 ただの八つ当たりだというのは分かっている。

 こんな事をしても、僕が強力なスキルを得られる訳でも無いし、家に帰れる訳でもない。

 ただ、夜に魔物と戦闘となった時に使う、攻撃魔法一回分の魔力を無駄にしてしまっただけだ。


「……はぁ」


 なので自然と溜息が出てしまい、改めて今日の寝床をどうしようかと思った所で、


『呼び掛けに応じていただき、ありがとうございます。その上、私が必要としている電気エネルギーまで提供してくださるなんて。この御恩は決して忘れません。……ですから、恩返しをさせていただく為にも、私を連れて行ってくれませんか?』


 僕をここまで連れて来た、あの声が再び聞こえて来た。

 声がした方を見てみると、僕が雷魔法で吹き飛ばしたゴミの山があった場所に、ポツンと小さな銀色のカードみたいな物が落ちている。

 掌に収まる程の大きさのそれを拾うと、


『貴方様が私を助けてくださったのですね! うん。若くて、見た目もカッコ良いし、何より雷魔法が使えるというのが素晴らしいです! 不束者ですが、これから末永く宜しくお願い致しますね』


 カードが喋った!

 やっぱり、僕をここまで連れて来たのは、このカード……というか、このゴミなんだ。

 ……でも、ゴミスキルがゴミと会話出来るスキルだとすると、山ほどあった他のゴミが話し掛けて来なかったのは何故だろうか。


『あの、ご主人様? 私の事を無視しないでいただけると嬉しいです。ちょっと悲しくなりますし』

「……あの、ゴミさん。ちょっとうるさいです」

『……まさかとは思いますが、ゴミさんって、私の事ですかっ!? 何を仰るんですかっ! 私は人型古代兵器、シャルロットと言います! 今は色々あって機能が制限されていますが、私は決してゴミなどではないのですっ!』

「……人型の、古代兵器? このカードが?」

『で、ですから、今は機能が制限されているんですっ! それに、今の姿はカードではなく、マジックフォン……いわゆる、マジホですっ!』


 マジホ……って何だ?

 いずれにせよ、ゴミである事に変わりないんだけど……って、こんな事をしている間に陽が落ちたっ!


「しまった! 早く安全に眠れる場所を探さなきゃ!」

『なるほど。安全な場所をお探しでしたら、そこを真っ直ぐ行った所で、右へ行ってください』

「ん? えーっと、シャルロットは安全な場所を知っているの?」

『はい。その突き当たりの壁の左下に、小さな隠し扉がありますので、そこへ入っていただければと』


 シャルロットに教えてもらった通りに進むと、本当に隠し扉があった。

 鍵は掛かっていないものの、開けるには手順が必要らしく……それもシャルロットが教えてくれて、無事に中へ。

 扉の中は小さな部屋になっていて、見た事のない不思議なアイテムがいっぱいある。


『ここは魔物が入って来る事は無いので安全です。あと、そこの棚にある缶詰をスキャンし、食べても問題ないと判定しました。尚、壁にかけられている魔銃は……残念ながら壊れているので、ゴミですね。ですが骨董品的価値があるので、いくつか持って行くのも良いかと』

「一気に言われても分からないよ。とりあえず、ここは安全なんだね」

『はい。あと、そこの缶詰……はい、それです。その蓋を引っ張って開けていただければ……それは、食べられますので』


 シャルロットに言われ、缶詰とやらを開けると、中に美味しそうな魚肉が入っていて、


「……美味しい! こんなの今まで食べた事ないっ!」


 空腹だった事もあって、一気に食べてしまった。


「シャルロットは、この遺跡の事は何でも知っているんだね」

『いえ、違います。この遺跡の事だけでなく、この世界の大半の事は分かります。明日の天気から、小麦の相場。あと、暇潰しのゲームまで出来ますよ』

「ゲーム……っていうのは分からないけど、シャルロットが凄そうなのは分かったよ」

『はい。現在は失われてしまった技術により作られた、マジホですから』


 それから暫くシャルロットとお喋りして……僕はいつの間にか、眠ってしまっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る