第11話卒業、そして冒険へ

 最近お兄ちゃんと一緒の時間が少ない。教室ではひとりひとりの席が離れているし、実技でも魔法使いの私と戦士のお兄ちゃんは別授業だ。

そんなある日の放課後、お兄ちゃんがナナリーさんと二人でどこかへ行ってしまった。

(お兄ちゃん・・・ナナリーさんといったいどこへ行くのです?)

私はこっそりとあとをつけることにした。

「ほのかちゃん、こういうのはよくないよ?」

なぜかシルフィさんもついてきた。

「そんなこと言って、シルフィさんも気になるからついてきたのですよね?」

「まぁ、そうなんだけど」

そしてお兄ちゃん達は裏庭に来た。

「こんな人のいないとこに来てどうするんだろうね・・・」

「私はお兄ちゃんを信じてるのですよ」

しばらく二人が話した後、ナナリーさんが何故かお兄ちゃんに杖を向けて詠唱を始めた。

「まさかナナリー!?大変だ!とめないと」

シルフィさんが出ていこうとする。

「ちょっと待つのですよ。お兄ちゃんなら大丈夫なのです」

きっとお兄ちゃんのことだから何か考えがあるのだろう。

「ファイヤーボール!」

「今だ!ディスタブマジック!」

するとナナリーさんの魔法は消えてしまった。

「なるほどなのです」

「何がなるほどなの?今いったい何が起こったんだい?僕には何が何だかさっぱり・・・」

「多分お兄ちゃんは魔法をかき消す魔法を放ったのですよ」

さすがはお兄ちゃんだ。

「魔法をかき消すなんてそんなことが・・・」

「魔法式の理論上は可能なのです。でもそれには相手の魔法式を瞬時に計算しなきゃならないのですよ」

「へ、へぇー・・・そっかぁ」

とりあえずナナリーさんと何事もなくて安心したのだった。


 そして一ヶ月後。

「これより卒業試験を行なう」

エリス先生がそう告げた。

「そなたら4人でパーティーを組み、ある迷宮に潜ってもらう」

なるほど。

いよいよ冒険者としての実戦というわけか。

エリス先生に連れてこられたのは郊外にある洞窟だった。

「ここでいったい何をすればいいんですか?」

「この洞窟のどこかにある魔力の石を取ってこられたら合格じゃ」

「なんだ。それなら簡単そうね」

ナナリーが呟いた。

「じゃが中には様々な罠がしかけられておるからな。油断してると死ぬ」

「頑張るのです」

そして俺達4人は洞窟に入った。

少し進むと道は氷の壁で閉ざされていた。

「私がやるわ。フレアバースト!」

ナナリーが魔法で炎を出した。

いつの間にかナナリーは無詠唱魔法ができるようになっていた。

多分ほのかに教わったのだろう。

先に進み、歩いていると何かを踏んでしまった。

すると目の前から数本の矢が飛んできた。

「危ないっ!」

シルフィがひと振りで矢を払い落とした。

「さすがシルフィだな」

「い、いや、そんなことないよ」

しばらく進むと、今度はシルフィが罠を踏んでしまった。

目の前から巨大な岩が転がってきた。

「今度は私がやるのですよ。ストーンキャノン!」

ほのかが放った弾丸が岩を粉々に破壊した。

そしてその後は特に罠にかかることなくある小部屋を発見した。

「あっ!あれ魔力の石じゃない!?」

「ほんとなのですよ!」

部屋の中央のテーブルに赤く光る石があった。

ナナリーとほのかが部屋の中央目指して駆け出した。

何かおかしい・・・。

「待てっ!二人とも」

ナナリーが石を持った瞬間、石は砂になり地面が崩れ始めた。

「二人とも走れ!」

ナナリーとほのかは慌ててこちらに戻ろうとしたが、ナナリーは転んでしまった。

「ナナリー!」

俺は急いで駆け寄り、ナナリーを抱えて部屋を飛び出した。

間一髪で全員助かった。

「お兄ちゃんずるいのですよ。私もお姫様だっこしてほしいのです」

「こんな時に何言ってんだよ」

とりあえずナナリーを降ろす。 

「あ、ありがとう。助かったわ」

そしてその後は最深部であっけなく魔力の石を見つけることができた。

「ふむ。間違いなく魔力の石じゃな。よし、合格じゃ!」

エリス先生に魔力の石を渡し、無事に卒業試験をクリアすることができたのだった。


 「さて、これでそなたらは立派な冒険者となったわけじゃが、セイヤとほのかは神大魔法を探しておるんじゃったな」

そうだ。元の世界に帰るための神大魔法を手に入れるために冒険者になったんだ。

「はい」

「そうなのです」

「じゃったらまずはオルビス大迷宮がここから一番近いの」

「わかりました。情報ありがとうございます」

俺とほのかはエリス先生のおかげでAランクの冒険者になることができた。

「あの、ちょっといいかな?」

シルフィが話しかけてきた。

「どうした?」

「その旅、僕も一緒に連れて行ってくれないかな」

「わぁ、シルフィさんがいてくれたら心強いのですよ」

そうだな。人数は多いほうがいい。

「わかった。シルフィも一緒に行こう」

「ありがとう。ナナリーはどうする?」

シルフィがナナリーに尋ねる。

「まぁ、どうしてもって言うなら一緒に行ってあげるわ!」

こうしてシルフィとナナリーが俺達の旅の仲間になった。


 「それで、オルビス大迷宮へはどうやって行ったらいいんだ?」

シルフィに尋ねる。

「オルビス大迷宮の近くにある、シーロン王国まで魔導飛行船の便があるからそれに乗っていこう」

そういえば時々巨大な船が飛んでいたな。

「飛行船楽しみなのですよ〜」

ほのかは喜んでいた。

「ほのかはお子様ね。魔導飛行船ぐらいでそんなに喜ぶなんて」

そして俺達は魔導飛行船に乗った。

「わぁ〜、高いのです」

そのまま空の旅は何事もなく進んでいくかと思っていた。

しかし、そうはいかなかった。

「ねぇ、魔導飛行船が落ちることってほとんどないのよね・・・?」

ナナリーが青ざめた表情でシルフィに尋ねる。

「でもあんなのに襲われたら間違いなく落ちるね」

窓の外を見ると巨大なドラゴンがいた。

「お兄ちゃん、大変なのですよ!」

「わかってる!落ち着け!」

「はいなのです」

「いいか、ほのか。あいつはお前がやるんだ。相手は空を飛ぶドラゴンだ。先制攻撃で倒さなければこの飛行船は落とされる」

「私にできるでしょうか・・・」

ほのかが不安そうに言う。

「大丈夫だ。ほのかの渾身の一撃をやつに食らわしてやれ」

「わかったのです!」

そして、ほのかはデッキに出て杖を構える。

ドラゴンはそのままこちらに向かっていた。

ほのかが魔力を込めると、ドラゴンの頭上に黒い雲が発生した。

「できました!ライトニング!!」

雲から巨大な雷がドラゴンに直撃した。

まさに一撃でドラゴンが倒れた。

その瞬間、飛行船の中は歓喜の渦になった。

「よくやったな」

俺はそう言いながらほのかの頭を撫でる。

「ありがとうなのですよ〜」

「まさか魔法で雷を作るなんてね」

ナナリーが感心していた。

「周りに何もない空中だからできたのですよ。地上だったら全員感電してるのです」

こうしてドラゴンを倒し、無事にシーロン王国に到着したのだった。


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