第6話入学なのです

 翌日、私達はミリアさんの付き添いのもと冒険者予備校にやってきた。

「ここが冒険者予備校だ」

そこはとてつもない広さの学校だった。

「ミリアさん、ここまで案内してくれてありがとうなのです」

「ありがとうございました」

私とお兄ちゃんはミリアさんに頭を下げた。

「そうだ、ほのか」

ミリアさんが私に話しかけた。

「はい」

「これを君にプレゼントしよう」

そう言いながらミリアさんが私に杖を差し出した。

「いいのですか?」

「ああ、魔術師は弟子の旅立ちには杖を贈ることになってるんだ。セイヤにはこれを」

ミリアさんがお兄ちゃんに渡したのは短剣だった。

「これは魔力を込めるほど切れ味が増す短剣だ」

「ありがとうございます。大切にします」

そう言いながらお兄ちゃんは短剣を受け取った。

そして、いよいよ冒険者予備校に入る。

入学式が行われる講堂に案内され、中に入ると100人ほどの新入生が集まっていた。

「新入生諸君、入学おめでとう。私が理事長だ」

壇上に立っている中年の男性が口を開いた。

「お兄ちゃん」

私は小声でお兄ちゃんに話しかけた。

「ああ。ほのかも気づいたか」

中年の男性のやや斜め後方に立っている幼い少女からミリアさんと同じくらいの魔力と、すさまじい殺気を感じていた。

一分ほどの沈黙ののち、男性が後ろに下がり少女が壇上に立った。

「ふむ。こんだけいる中でわしの殺気に気づいたものはたったの4人か」

少女が私達と他2名に視線を向けた。

「試すような真似をしてすまなかったな。わしが本当の理事長のエリスじゃ。これから君たちにはこの冒険者予備校で学んでもらうわけじゃが。これより試験を行う」

理事長がそう言うと、会場内が騒がしくなった。

「この試験によりクラス分けを行う。各自試験官の指示に従うように。以上」

そう言うと理事長は壇上をあとにした。

その後、まずは筆記試験が行われた。

これはミリアさんの家で本をたくさん読んだおかげでおそらく二人とも満点だろう。

次が実技試験だった。

遠く離れた的を魔法で攻撃するというものだった。

みんなそれぞれの初級魔法で的を攻撃していく。しかしみんな破壊までには至らなかった。

「次、ナナリー・スピルバーグ」

「はい」

呼ばれて返事したのは赤く長い髪の少女だった。

「みんな情けないわね。この『赤のナナリー』が本当の魔法ってものを見せてあげるわ」

自ら二つ名を名乗った『赤のナナリー』が杖を構えた。

「赤く灼熱の業火よ、大いなるその力で全てを焼き尽くせ。燃えろ、燃えろ、我が魔力をもって力となせ。フレアバースト!」

するとすさまじい炎が飛び出し、的を跡形もなく破壊した。

今のを真似すれば目立たないように合格することができそうだ。

「見たかしら。これが本当の魔法よ」

そしてナナリーの魔法を見たみんなが騒いでいた。

「すごかったな。ありゃあ間違いなくAクラスだな」

「こりゃあ今年の主席はナナリーで決まりだろ」

そして私の順番がきた。

(目立たないように少し威力を落として・・・)

「赤く灼熱の業火よ」

私が詠唱を始めると、ナナリーが「えっ!?」と反応した。

「大いなるそにょ」

(あっ!!噛んじゃった!まぁいっか)

ナナリーに気を取られて詠唱を噛んでしまった。

「フレアバースト!」

するとナナリーより少し威力を落とした炎が的を焼き尽くした。

そしてなぜかみんな数分の沈黙が続いた。

「ちょっとあんた!」

沈黙ののち、ナナリーが私のもとへやってきて叫んだ。

「ふぇ?なんですか?」

「なんですか?じゃないわよ!今のどういうこと?」

「どういうことって、普通に魔法を・・・」

「あれは私が長い時間かけて編み出したオリジナルの魔法なの!しかもあんた詠唱をはしょったでしょ!?」

しまった。まさかオリジナルの魔法だったなんて。

詠唱を噛んでしまったけど、実は私は詠唱無しでも魔法を使うことができるようになっていた。

それは数日前のこと。

ミリアさんがお兄ちゃんの指導をしていたので自主練習をしていた時だった。

(この詠唱ってなんか長くてめんどくさいのです。よく考えたら、どの詠唱も法則性があるように感じるのです)

おそらく、詠唱には属性・射出や射程範囲・威力の調整という意味の文章でならんでいるみたいだ。

(だったら、それらを全てイメージで補えば・・・)

「えいっ!」

魔力を込め、イメージして魔法を発動してみた。

すると無詠唱で魔法を放つことに成功したのだった。

(だけど、詠唱をすることが普通なんだから普段は詠唱したほうがいいよね・・・)

ということがあったのだった。

「あんたいつも詠唱省略してるわけ?」

「いえ、いつもは無詠唱で・・・」

「無詠唱!?」

すると周りのみんなが驚いていた。

「まさか無詠唱を使える人がいたなんて・・・」

なんかいきなり目立ってしまったのだった。


 ほのかが魔法の試験を受けている時、魔法を使えない俺は戦闘の試験だった。

みんなそれぞれ二人一組になって木剣を使っての戦闘だった。

俺の相手は金髪のやや小柄な美少年だった。

「あなたが私の相手ですか?はじめまして、僕はシルフィエット・エーデルフェルトです。シルフィと呼んでください」

「俺は望月誠也だ。セイヤと呼んでくれ」

挨拶を交わすと、試合が始まった。

するとあっという間にシルフィに間合いに入られた。

(早い!!)

シルフィの横薙ぎの一撃を紙一重で後ろに飛んでかわす。

するとすぐさま次の攻撃がくる。

カン、カンと木剣同士が当たる音が響く。

なかなかスキがない。

シルフィの剣術はかなりの腕だった。

(こうなったら・・・)

俺は持っていた剣をシルフィの足元に落とした。

シルフィの視線が一瞬足元に向いた。

「今だ!!」

俺は身体強化した右の手刀で小手を決める。

するとシルフィが剣を地面に落とした。

すぐさま左の手刀を首に突きつけた。

「そこまで!勝者、セイヤ・モチヅキ

!」

試験官が俺の勝利を告げた。

「僕の負けだよ。剣の試合でまさか自ら剣を捨てるとは思わなかったよ」

「ああでもしなきゃシルフィには勝てなかったからな」

「でも、次は負けないからね」

「ああ、望むところだ」

こうして実技試験が終わった。

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