第6話

その日から毎日、桃の組んだスケジュール通りの生活。


朝は早く、ジョギングや筋トレは勿論、ヨガやラジオ体操等にも参加。

徹底したスキンケアは、食生活も大事との事で桃は毎日私の家に食事を持って来てくれた。



――血反吐が出るくらいの猛特訓の末、等々特訓最終日を向かえたのである。



「やっぱり無理よ!帽子無しなんて私にはまだ」


「大丈夫!!紫!あの特訓の日々を思い出して!」


「ん――、やっぱり無理ーー!!」


「返事は!!」


「イエスマームッ!!」


半ば強引に連れてこられたのは――


「やっぱり広いお風呂は最高!!」


大衆浴場でした。

肌を隠す事が出来ない温泉には幼い頃以来で、右も左も分からない上に、昼間でも想像以上の賑わいで、老若男女多くの人で満ちており、危うく変身して暴れ回りそうになった・・・


「やっぱり大衆浴場は危険だわ!もう十分お肌に温泉塗り込んだし早く帰りましょう!」


「もー紫ってば、今は大衆浴場なんて言わないよ?スーパー銭湯様なんだから!スーパー銭湯様の凄さは温泉だけじゃ収まりません!なんと岩盤浴が楽しめるのだ!!」


岩盤浴・・・?

え?!まだ帰れないのぉーー!!


岩盤浴とは石の上に寝転がるサウナのようで、種類が沢山あり少しテーマパークみたいで、ワクワクしつつリラックスできるものでした。


私は桃に連れられる内、徐々に顔の事を忘れ楽しんでいました。

こんなに心は軽く、暖かくなれる事を私はいつから忘れていたんだろう――


「あああの、違ってたらすみません!もももしかして、キメハダピンクさん・・・ですか?」


「あちゃー、見つかっちゃったかぁ」


桃のファンの子達・・・

こんな所でも変わらず笑顔だなんて、桃は優しすぎよ!

・・・いや待って。・・・!?


私、今じゃない!!!


大変どうしよう!!

私が傷付けられるはいい、だけど今は隣に桃が――

こんな奴と一緒だなんて気付かれたら桃にも被害が行く。

そうなったら――

駄目よ!絶対駄目!桃はとても良い子でキラキラに輝いている!

それだけじゃない、私は知っている。

桃がこれまで血のにじむ努力をしてきた事、そしてそれは今もこの先も続いて行くのだと言う事――

それがどんなに地獄の道か――


「キメハダピンクが何だって言うのよ?私の方がずっと美しくて魅力的よ!分かったならこの私、ホットパープル様を崇めなさい愚民共!!」


気づくと私は声高らかに叫んでいた。

大勢の人々の視線が、まるで刃物のように私の素顔に突き刺さる。


緊張でもう何を言ったのかも覚えていないが、これでいい。

私が馬鹿で汚い女と罵声を浴びれば、桃を守る事ができる。

私は覚悟と恐怖で固く目を閉じた。



「ははーー!!ホットパープル様ーー!!」


へっ・・・、え。

えぇぇぇぇーーーーーーーーっ!?!?!?


恐る恐る瞼を開くと、そこには一様に平伏す人々。

全く予想だにない状況に、蛇に睨まれた蛙、メドゥーサに睨まれた人間とかしている私の腕に、駆け寄ってきた桃が手を回す。


「そうだよ皆。私の大親友、パープルちゃんを無視しないで!こんなにとってもキラキラ輝いてるんだから!」


「も・・・、ピンク。ありがとう」


桃の温もりが、私に力と勇気をくれる。

桃の笑顔が、私を笑顔にしてくれる。

こんな私でも、笑ってよかったのね――。



「よく見たら凄く綺麗な人じゃない!?」


「ホントだ!何処かのモデルさんかな?」


「ホットパープルって聞いた事ないよな・・・まさかの新メンバー!?」


「あの、握手して頂けますか!?」


「私、サイン頂きたいです!!」


「ちょちょっ君たち!ホットパープル様に失礼ですぞ!頭が高い!!」


どんどん人が押し寄せてくる!!

桃はいつもこんな状況なの!?

さっさと逃げてしまいたい・・・けど、桃はいつだって逃げたりしないわ!!


「黙りなさい愚民共!お前達は黙って私の前に並べばいいの。この私に余計な手間をかけさせない、いいわね?」


「「「イエス、ホットパープル様!!!」」」

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