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※ ※ ※



「ほんとお前は手のかかる奴だったよ。

足の悪い者同士ウマが合うかと思って選んだが、懐くまでに2年もかかるとは思わなかった。その間俺の腕は生傷が乾かなかったな・・・。


銀、聞いてるのか?


次に来た虎は、日課の散歩時に鴉に襲われてたんだよな。子供の癖に必死で牙向いてたっけ。

銀が世話やかないから、後ばっか追って影踏んで――


小春は路肩に転んでいたんだ。丁度蝉がうるさく鳴く日照り日で、小さかったが三色だったからよく見えたんだ。飢餓と脱水で死の淵だったからか、お前らよく気にかけたよな――


懐かしいなぁ、十数年なんざあっという間だった――」


慣れ親しんだ天井の木目を仰いで、ふと下を見下ろすと、上手く組合わない不格好な胡座の中で、猫は息を引き取っていた。


「銀・・・」


亡骸を箱に詰める手順が手馴れてきている体に、言いようのない喪失感を感じ、俺は焦燥に駆られるまま杖を立てた。


ふと気が付くと、俺は仏壇の前に座っていた。

畳と香と鉄の香り。

上から見下ろす白黒の写真。

俺にはそれだけなのかと、いやそれしか無いのかと――

口をついて出たのは久しく聞かない笑い声であった。

だが何故だ、ちっとも嬉しかない。


「虎、小春、銀次。ありがとな――

すまない、こんなオッサンの傍に置いちまった。今度は幸せになってくれ」



――いつも、何かに飢えていた。



こんな俺にだって名前はあるのだ。

周三しゅうぞう

誰にも呼ばれない、使う事の無い無為な代物。




「もし、次があるなら俺は・・・になるよ」





終.

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周三 不知火美月 @kurousky

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