第7話 豪華すぎるぜ、日本の修学旅行

 大阪朝陽丘学園高校の新学期が始まった。

始業式にはブレーデの姿はなかった。

ブレーデは冬休みに入り直ぐにノルウェイに帰国したが、僕は関西国際空港に見送りに行き、大学生になったらグルメノートを返すことを口実にブレーデに会いにノルウェイに遊びに行こうと決めていたので、寂しくはなかった。

「ブレーデ、お前のワンピースは日本で見つけられたのか?」

「そんなに簡単に見つけられるもんじゃないな。でもお前と出会えた。今回はこれで十分

だ。ワンピースを見つけるために、大学に行って知識を磨いて、俺のワンピースを見つけに色々な国に行ってみるよ」

僕たちは、強く抱き合って別れた。


 今日の始業式に新しい留学生が入学した様で、僕がした時の様に、体育館のステージでその子が英語で挨拶を始めた。

その留学生は、オーストラリアから来た女の子だった。

オーストラリアから留学に来たのに、彼女は白人ではなかった。彼女は韓国系のオーストラリア人だった。

僕が通っていたカナダの高校には、100名近い留学生が在籍していた。その内9割が韓国からの留学生で、いつも韓国人は固まって僕たちが聞いても分からない言語(韓国語)をキャンパスで話しているので、僕たち4人は韓国人があまり好きではなかった。

図書室の自習時間に、彼女と二人になるのかと考えると、僕は憂鬱だった。

案の定図書室に行くと、韓国系オーストラリア人の彼女と頻繁に顔を会わすことになった。彼女の名前はLUCIA(ルシア)だと紹介された。

彼女は、オーストラリア生まれらしく、もちろん英語は上手(オーストラリア訛りではあったが)だった。ルシアは日本語ももの凄く上手だった。僕は日本に来てもう半年経とうというのに恥ずかしいくらいに日本語はまだ下手くそだ。それに比べてルシアは僕から聞くと完璧と思えるほどの流暢な日本語を話している。

僕たちは図書室で会うと、必然的に話をするので、

「どうしてそんなに日本語が上手なの?」

とルシアに聞いてみた。

「私、日本の漫画が大好きで、私の日本語は全部日本の漫画で覚えたのよ。私、日本に来るのは今回が初めてですもの」

ここにもいた! 僕はそう思った。

「なんだって? 僕と同じじゃないか。僕だって日本に来るまで、日本の漫画を観て日本語を勉強してきたけど、君の様な日本語力にはとても及ばないよ」

「それはあなたがネイティブなイングリッシュスピーカーだからよ」

「それって、それどういう意味?」

「私は確かにオーストラリアで生まれたけれど、両親が韓国人だから家庭内では韓国語で話していたから、私は自然に家では韓国語、外では英語で話すものだと思っていたわ。それに、私は中学の3年間、韓国に逆留学しているから韓国語は完璧なの。ベン知ってる? 韓国語と日本語は文法が同じなのよ。だから、韓国語が話せる人なら、日本語の単語さえ覚えれば簡単に日本語の文章を話せるはずよ」

「それって、日本人も韓国語の単語を勉強すれば韓国語が簡単に話せる様になるってことかい?」

「そのはずだけど。日本人は韓国が嫌いなのかしらね。日本に来て、誰も韓国語が話せないことを知ってがっかりしたわ。韓国では、日本語を話せる韓国人は山ほどいるのに。

私が中学の時に韓国に逆留学した話をしたでしょ。韓国の中学で選択した第二言語、一番人気があったのは日本語クラスだったんだけどな。韓国では小学校でも第二言語を選択し勉強するから。日本語は人気があるから若い韓国人なら簡単な日本語の日常会話レベルなら話せると思うわよ。韓国は昔、日本に占領されていたでしょ。その当時は日本語を強制的に学ばされたらしいから、その世代を生きた韓国の年寄りも日本語を話せる人は多いはずよ。だからね、あの年寄りたちから反日感情を取り除くことは不可能なのよね」

僕は色々な意味で、ルシアからの情報は新鮮だった。

「ルシアって韓国名じゃないよね?」

「韓国の名前は発音が難しいから、ルシアは私のクリスチャンネームなの。だからオーストラリアの友達はみんな私をルシアって呼ぶわ」

ルシアは、見た目はアジア人の女の子には違いないのだけれど、ルシアと話していると間違いなく英語圏から来た女の子だと実感した。

ルシアはブレーデに代わって2年2組のクラスに入った。

そして、2組に在籍するエリーは、いつも甲斐甲斐しくルシアのお世話をしている。

「エリー、韓国人のこと嫌いじゃなかったっけ?」

「え? 私、韓国人のこと嫌いなんてベンに話したことあったかな?」

「だって、カナダの高校でいつも韓国人の留学生にいじめられて泣いてなかったっけ?」

「泣いていたけど、あれはいじめだったとは思ってないよ。私はESLが必修だったでしょ。クラスメートの9割が韓国人の留学生で、日本からの留学生は私一人だったから韓国人の生徒たちから『エリーは日本人として、昔日本人が韓国人にしてきた非道をどう考えているの?』と何回も問われて、日本の学校の歴史の授業で多少学んではいたけれど、私自身が責められることとは認識していなかったから凄くショックだったの」

「たしかに、あの当時そう言って泣いていたよな」

「ルシアは日本に留学に来てくれたのよ。だからきっと日本が好きなんだと思う。私、ルシアにもっと日本のことを好きになってもらいたいの。だからルシアの日本での親友になりたい。一人でも多くの韓国人の人に日本を好きになってもらいたいじゃない」

エリーは、満面の笑顔で僕にそう話してくれた。

ルシアの日本の漫画の知識はその日本語力に比例して、大したものだった。

僕が知っている日本の漫画はもちろんルシアは知っていたが、少女漫画にも詳しく、エリーとマーガレットの話で盛り上がり、二人が親友にはなるにはそれほどの時間はかからなかった様だ。


 新学期が始まり、キャンパスにブレーデがいない淋しさを吹き飛ばしてくれる大きなイベントがあることを聞かされた。

それは修学旅行だ!

このイベントには、度肝を抜かれた。

大阪朝陽丘学園高校の修学旅行は、大阪朝陽丘学園高校の2年生(全学科)300名が参加する旅行で、それでもって、行先は海外だと言う。

カナダでは考えられない。

カナダでもスクールトリップはある。でも殆どが日帰り旅行だ。日本で言う遠足と同じだ。でも、履修する教科によっては、海外研修が付いている教科もあるが、希望者を募っての催行なので、定員に達しないと中止になる。催行に至ったとしても、その教科を履修している生徒のみが研修旅行に行けるだけだ。

2年生の全校生徒300名が海外に研修旅行、カナダの高校ではありえないだろう。


「就学旅行って、つまりスクールトリップのことだよね?」

「せやで、今年はハワイや。俺らラッキーじゃねえ?」

と、これは洋紀からの情報だ。

今年の大阪朝陽丘学園高校の修学旅行先はハワイだと聞き、全生徒が盛り上がっていた。

ちなみに去年の就学旅行の行先は韓国だったらしい。

担任の山上先生から

「大阪朝陽丘学園高校の生徒たちは入学時から修学旅行の積み立てを毎月してもらっているので、ロゼック君はその積立金をしてきていませんから、修学旅行には参加しなくても良いし、参加したい場合は費用を全額支払ってもらう必要があるので、どうするか保護者に相談するように」

と言われた。

費用は10万円と聞き、直ぐに父親にスカイプで相談すると、

「わずか10万円でハワイに行けるなら、出してやるから行けばいい」

と父親に言ってもらったので、早々に海外送金を日本で作ったUFJ銀行宝塚支店の口座に送金をしてもらった。

高校2年生の2月、北国からやって来た僕でも、日本の家は完全暖房設備がないので、部屋は暖かくても、風呂の脱衣所やトイレの中は寒い。カナダの家の中は完全暖房なので、外は零下でも家の中はトイレの中までも25度くらいに暖かい。だからカナダ人は真冬でも家の中ではTシャツ一枚で過ごしている。

だから、僕には日本の2月の方が寒くて辛いくらいだ。

僕は修学旅行の手続きを始めるにあたり、大変な事態に直面することになった。

僕はカルガリー出身だが年に数回は国境を越えてアメリカに家族で買い物に出かけていたので、カナダのパスポートを所持する僕たち家族は、車で国境を通過する時に、ゲートで「We are Canadians.」と言えば、そのままゲートが上がり悠々とアメリカに入国していた。稀に「パスポートを見せて下さい」と言われれば、車の窓越しにカナダのパスポートを見せることもあったが、アメリカの国籍を持っている僕たち家族だったが、アメリカのパスポートを所持していなくても特に出入国を拒まれたことはなかった。

今回、ハワイに行くのだって、カナダのパスポートで入国できるに違いないと思いこんでいたが、カナダからアメリカに陸路で入国する場合は、カナダのパスポートを所持していれば出入国に問題はないが、これが空路になると違うらしい。僕がアメリカの市民権を持っていなければ、カナダのパスポートで空路でのアメリカ旅行は出来るのだが、アメリカの市民権を持って空路でアメリカに入国する場合は、アメリカのパスポートが必要だと知り、慌てて在日アメリカ大使館にパスポート申請を行い、僕がアメリカのパスポートを取得したのは渡航日の1週間前だった。


 パスポートが間に合い心穏やかになった僕は、寒い2月に南国ハワイに行けるなんて、最高じゃないかと期待に満ち溢れていた。

そう思っていたのに、なぜなんだ! 

なぜに、300人の高校生全員が大阪朝陽丘学園高校の制服を着用して飛行機に搭乗しなくちゃいけないんだ。

それはゼッケンの謎に負けないほど、僕にとっては新たな謎だった。

300人全員が大阪朝陽丘学園高校の制服を着用し、各々がデザインの異なるスーツケースを押しながら関西国際空港に集合した。

ありえね~、なぜ制服着用?

300人の中で、男子は僕とヒロキ軍団の3人かと思っていたら、普通科の生徒たちも参加だったので、男子の数もちらほら視界に入ってきた。


 ホノルル空港に到着した大阪朝陽丘学園高校の生徒300名は、JTBホノルル支社の添乗員に引率され、大型バス数台に別れて乗車し、早々に宿泊するホテルに到着したのだが、大広間の様な所に生徒全員が連れて行かれ、長々とJTBのスタッフからの注意事項を聞かされた。

僕たちはホテル到着したら、制服を脱ぎ捨ててTシャツに着替えて、ワイキキビーチに行く気満々でいたのに、JTBの添乗員から滞在中の注意事項を長時間に渡り聞かされ、僕たちはもう疲労困憊だった。

やっとJTBの添乗員から解放され、担任の大上先生から部屋割りが発表された。

それぞれが4人部屋に分けられ、各自部屋に荷物を置きに行き、休憩時間を挟んでロビーに集合したの頃には既に夕方になっていた。

今夜の夕食はホテル内のレストランでバイキングだと聞いた。

バイキングって何? 漫画のワンピースでそんな単語を聞いたことがあった様な??? 僕にはバイキングの意味が理解できなかった。

レストランに入り、食べ放題のメニューが整っているのを見て、バイキングとは、オールユーキャンイート(All you can eat)だとやっと理解することが出来た。

僕と洋紀は、遠慮することなくお皿に山ほど料理を乗せて、食べに食べまくった。

英語国際科2年1組には男子はヒロキ軍団と僕しかいない。みんなは4人部屋だったが、僕たちの部屋は3人部屋だった。ブレーデがまだ在学していたら、体育の授業と同様に2年1組と2組の男子はまとめて一室に放り込まれていたことだろう。僕にとっては、その方がラッキーだったんだけどな。

翌朝も、昨夜と同じレストランで朝食を食べ、

その日はツアー観光が入っていた。

ワイキキ水族館とダイヤモンドヘッド周辺を観光し、ランチはハワイアンパンケーキとやらを食べ、午後がアラモアナショッピングセンターで自由行動だった。

僕は英語のネイティブスピーカーだ。

もちろん買い物に英語で苦労することなどない。英語国際科のクラスメートたちも、さすが英語国際科の生徒たちだけあって、買い物程度の英語であれば誰一人困った様子は見られない。

しかし、普通科の生徒たちはそうはいかない様だ。

普通科の女子生徒たちの殆どが、僕か洋紀に助けを求めた。寛貴の周りでさえ、数人女子が後を付けている。

洋紀は、持ち前の明るさをフル稼働して、普通科の女子達を両手に花の様に抱えて、アラモアナショッピングセンターを闊歩している。

僕は、自分の買い物は諦めて、助けを求める普通科の女子生徒が行きたい店に同行し、通訳に徹した。

「ベン、これ安くしてって、店員に交渉してよ」

「出来る訳ないだろう。この店は路面店じゃないし、ドゥーティフリーショップ(免税店)でもないんだぜ」

「え~いいじゃん。英語で値切ってよ。お願いだから」

「あのさ、君は阪急百貨店で買い物する時でも値切ったりするわけ?」

「阪急百貨店では値切らんけど。阪神百貨店のデパ地下やったら値切るで。な~値切るやんなあ?」

と、彼女は一緒にいる女子生徒たちに同意を求めている。

すげえ大阪の女は。高校生からおばはん化が始まっている。

「Can you give her better price? 彼女のためにお値段なんとかなりませんかね?」

僕は死ぬほど恥ずかしかったけど、彼女たちが発する「値切らないと許さんぞ」的圧力に屈して、店員に交渉してみた。

「同じ物を2つ買ったら、もう1つ同じ物を無料にしてあげるよ」

と意外にもすんなり交渉は成立した。

彼女たちにそう通訳すると

「まじで? やるやんかベン」

「うちら3人おるから、ばっちりやん」

「なら3個買って、2つの料金を3人でわけたらいいやんな」

「得したな。有難う~ベン」

と、彼女たちは上機嫌だ。

僕は何気にその時に、店内に貼られたポスターが視界に飛び込んできた。

ポスターには「Buy 2, Get 1 Free」と書かれていた。

その意味は、「2つ購入したら、3つめ無料」という意味だ。

「ブハハハ」

僕は笑いが止まらなかった。僕が値切った訳ではないのだ。

「ベン何がおかしいの?」

「別に何も。ブハハハ」


 今回の修学旅行は、3泊5日の行程になっている。ハワイで過ごせる時間は、あと2泊のみだ。

翌日3日目の行程は、ワイキキビーチを散策して、午後からはホノルル動物園を見学した。

動物園に入園する前の昼食タイムでは、僕たちはホノルル動物園前のテディーズ・ビガー・バーガーのハンバーガーを配られて、園内の自由行動時間に食べた。

バーガーが包まれた紙をめくると、これだよこれ。カナダで食べてきた様なザ・ハンバーガーの姿がそこにあった。

僕たちはハワイを満喫していたが、明日にはハワイを発ち日本に帰国することになる。


 ハワイでの最後の夜は、夕食を食べたレストランで、ポリネシアン、ファイヤーナイフダンスなど迫力のダンスショーを観ることができた。

それは、フラダンスの様な穏やかなダンスではなく、情熱的なダンスショーだった。

ダンサーは客席から数名の観客を指名して、ステージ上にあがってくる様に手招いた。

ステージにあげられた客は、首に鮮やかな色のレイをかけられ、見よう見まねで、ダンサーたちと一緒に踊りの輪に参加させられた。大阪朝日ヶ丘学園からは英語の藤原先生がダンサーに手を取られて、無理やりステージに招きあげられた。

藤原先生は、最初は「NO」と拒んでいたが、ステージに上がるや否や、開き直りでもしたのだろうか、始めてとは思えないダンスのテクを僕たちに見せてくれた。

英語はイマイチの藤原先生だったけど、ダンスがこんなに上手だったとは意外だった。


 翌日、帰国の途につくためにホノルル空港に到着した僕たちだったが、一人の女子生徒が腹痛を訴え、空港ロビーではただでさえ制服を着用した300名もの高校生集団がいて異様な雰囲気を醸し出しているのに、その300名が一人の腹痛を訴える女子高生を取り囲んでいる。

JTBのツアーコンダクターは空港送迎を終えると、仕事が完了ということで既に僕たちの近くにはいない。

引率の先生で唯一英語が出来る藤原先生は一人オロオロしている。僕は、チェッキングカウンターに行き空港内に医療クリニックはないかと聞くと、あると言うので、空港内の地図を貰って

「藤原先生、空港内にクリニックがあるらしいから、こいつを連れて行って診てもらった方がいいんじゃないですか?」

と提案すると、

藤原先生は山上先生を含む全ての引率の先生を集めて、何やら話し合っている

「ロゼック君、クリニックに連れていくから、君も一緒に来てくれ」

と言われ

「もちろんだよ」

僕は彼女をおぶり、片手に空港内の地図を持って、後ろ手に藤原先生を連れてクリニックに向かった。

「みんな静かにして整列しなさい」

その場に残った先生方が、生徒たちを静止させて、その場に座る様にと促しはじめた。

クリニックは直ぐに見つかった。空港内のクリニックだけあって、患者の優先順位はフライト時間が優先された。

俺達の患者は高校生(未成年)だったので、

待ち時間は殆どなく診察をしてもらえた。

クリニックに入ってからは、僕が先生の代わりとなり、ドクターと話し、生徒との通訳をつとめた。

「熱はありますか?」

「熱を計らして下さいやて」

ドクターは小型の体温計を彼女の右耳にさして、カチっと音をさせて。

「熱はないね」

「良かったな。熱はないみたいやわ」

「お腹はどんなふうに痛みますか?」

「どんなふうに傷むか言えやて」

「差し込む様に痛い」

「差し込む様に痛いそうです」

差し込む様って、どんな感じやねん?って思ったが、思いつくままの英語で表現して、ドクターに説明した。

「くちを開けて下さい」

「おい、くち開けろやて」

ドクターは、脈を測ったり、彼女の胸元に心音器をあてたり、

「昨日と今日は何を食べましたか?」

その女子生徒は、昨日から今までくちにした物全てを語りだした。

俺は絶句した。腹痛の理由はそれじゃないのか? 食い過ぎだって、おまえ。

ドクターも笑いながら

「寒い国から暖かい国にきて、疲れもあって胃袋が驚いたのですね。抗生物質を出しますので、機内では何も食べないでゆっくり寝かせてあげて下さい。日本に着く頃には痛みも治まっているでしょう。空港内で、ゲータレイドが売っていれば購入して飲ませてあげて下さい」

と言われた。

「有難うございました」

診察室を出ようとした僕たちに向かって、白人のドクターが僕に尋ねてきた。

「君は日本人ですか?」

「僕ですか? いいえ違います。僕は日本に留学しているアメリカ人です」

「え? そうなんだ。今日は通訳してくれて有難う」

と言ってくれた。

医療費の支払いを済ませた藤原先生からも

「ロゼック君がいて本当に助かったよ」

と言われた。

おいおい、先生の仕事だろうがと思ったが、それは、言わないでおいてあげた。


 色々なことがあった修学旅行だったけれど、帰国後、なんと洋紀にめでたく彼女が出来た。

お相手は、大阪朝日ヶ丘学園高校の普通科の女子だ。

アラモアナショッピングセンターでの洋紀の通訳している姿がカッコ良かったらしく、バレンタインデーに彼女から告白されたらしい。

僕も、バレンタインデーには、教室の外に女子生徒が列になって、僕は順番に彼女たちからチョコレートを受け取った。その中には、ホノルル空港で腹痛を起こした彼女の姿もまじっていた。

「なんで、日本はバレンタインデーに女子が男子に告白するんだ? ありえねーだろうが」。

「え? カナダはどうなってんの?」

洋紀がのんきに聞いてくるから

「世界中、愛の告白と言えば、男からでしょうが」

「いいな~カナダって。バレンタインデーって日本では結構残酷な日なんだぜ。

今年は、俺には弘子ちゃんからチョコもらえたから良いけど、全く貰えなかったら、帰ったらおかんが何個チョコレートもらったか聞いてきよるから、自腹で安いチョコ買って帰らなあかんしな」

「おかんに、見栄張るなよ」

「おかんにじゃねえよ。見栄は妹にはるためだ」

「ははは、それは分からなくもないな」

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