タロウのつぶやき②

 今日、初めてダンジョンに行った。


 馬車に乗るのも初めてだったけど、尻が痛かった。なのに、みんな平然としていて……痛くないの? 隣のアリスを見ると、右左の眉毛が引っ付きそうなくいシワを寄せている。フフ、俺だけじゃなかった。


 森に入ってしばらくすると、ダンジョンに着いたみたいで馬車から降りた。


 そこは開けた場所で、奥に切り立った大きな岩の山があった。そこに洞窟が……入ってくれと誘うように口を大きく開いている。


「ここがリッヒダンジョン……」


 この中に魔物が住んでいるのか……ギルドの資料室で調べて地図も買った。魔物を倒したら、肉やお金になるアイテムを落とす。強い魔物を倒せば、高価な物を落としたりするそうだ。


 ダンジョンの中に入ったら普通の洞窟だけど、真っ暗じゃないんだ。薄暗いけど灯りなしで進めるなんて……やっぱり、俺のいた世界とは違う。


 地図を見ながら進んでいるけど、魔物が出て来ない。初めて現れたのは、森で良く見かける黄緑のスライムで、ダンジョンよって色の違うスライムがいるの? へえ~。


 俺が魔法で倒すと、スライムは消える時に何か落とした……あっ、緑色した小瓶だ。


「おっ! タロウ、ツイてるな。スライムがポーションを落としたぞ!」


 やったー! スライムがレアアイテムを落とした!


「レア……アイテム。す、凄いね……」


 アリスが、凄いだって……フフ。


 ダンジョンで魔物がアイテムを落とす確率は30%ぐらいだって聞いていたけど、それ以上に出ているよ。


 俺はスライムと相性がいいのか、2体倒したら1体はポーションを出してくれるんだ。だから、スライムは俺が担当で、それ以外の魔物が出て来たらアリスと順番に倒している。


 アリスがポーションを買い取るって言うけど、パーティーを組んでいるんだから3人で分けるべきだと思う。テオも「誰がドロップさせたとか関係なく均等に分けるのが普通だ」って言っているよ。


 ポーションはギルドで換金しないで店で売ることになったけど、それでも往復の辻馬車代は十分に稼げたので良かった。


「タロウ、明日もダンジョンに行くからな」

「うん!」


 こんなにお金を稼げるなら、毎日でも行きたいよ。アリスは店があるから行けないって言うから、お土産にポーションを取って来ると言ったら喜んでくれた。


「うん、タロウよろしくね。ふふ」


 うん、アリス、任せて。


◆◆

 翌日のダンジョンで、テオに『身体強化』の使い方を教えてもらった。


「タロウ、お前は『身体強化A』のスキルを持っているから、練習すれば『挑発』だって直ぐに使えるようになるぞ」


『身体強化』を上手く使えるようになったら、魔物の攻撃をかわして、ダメージを受けても怪我をしにくくなるんだって。テオの教え方が上手いから直ぐに使えるようになったよ。


「タロウ、『挑発』を使えるようになったら、誰かを守ることが出来るからな」

「……うん!」


 俺が守りたいのは……テオとアリスだよ。


 ◆◆◆

 それから少しして、ダンジョン10階のワープを開通させたんだけど、ワープ・クリスタルを見た時、息が止まった。


 見上げる程大きな……白っぽい石が地面から生えている!? テオに言われた通りに手で触ると、何かが波打つように伝わって来たんだ。


「タロウ、1階にワープって考えろ!」

「分かった。……!?」


 テオに言われた通りに考えると、一瞬で周りが真っ暗になった。ムズムズとしたら暗闇が元に戻って……ワープ・クリスタルはそのままだったけど、そこは小さな部屋の中で……隣でテオが笑っていた。不思議な感じだったな。


 ◆◆

 アリスが2回目のダンジョンに行く時、アリスから辻馬車でお尻が痛くならない方法を教えてもらった。


 えっ、『身体強化』を? って、思ったけど本当に痛くなかったんだよ。フフ。


 ダンジョンを進んで行くうちに、3人の息も合って来た。テオは強いし、僕もだいぶ慣れてきて、アリスなんてどれだけ魔法を使っても息切れすることがないんだ。


 3人なら、どこまででも潜って行ける気がする……ふふ。




 ◆◆◆◆◆

 アリスの冬休みが終わる頃、アリスが通っている学園の生徒が来た。


 背が高くて、キラキラした銀色の髪で青い目をしている。着ている服も高そうで貴族にしか見えない。


 アリスが接客を始めると、テオの反応がおかしい。


「何、リカルド……様だと……。いらっしゃいませ……」


 テオが怖い顔をして……リカルド様には何かあるの? 


「テオ殿ですね。私は、アリスの同級生リカルド・フェルナンデスと言います。マルティネス様から許可を頂いたら、お茶をご馳走になりに来ますので宜しく」


 リカルド様が、帰りがけにテオに挨拶したけど、えっ、アリスと同級ってことは俺と同い年……ムッ、何でそんなに背が高いんだ?


 マルティネス様ってレオおじいちゃんだよね……許可って何の? あっ、テオが固まった。まさか、このリカルドって言う貴族はアリスを狙って……連れて行こうとしている?


 リカルドと言う貴族は、テオに『また来る』と言って微笑んで帰ったけど、あれは脅していたのか? テオは固まったままだし、あいつが帰ったらアリスの緊張が解けたのが分かった……。


「ぐうっ……。絶ーー対! レオ様に許可を出さないでくれと言うぞ! 絶対にだ!」


 やっぱり……テオ、あいつからアリスを守るんだね。


「テオ、分かった。俺もレオおじいちゃんに言う!」


 アリスが落ち着いてって言うけど、あいつはアリスを狙っているんだよ!? 落ち着いてなんかいられないよ!

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