第74話 3の月・剣術大会と魔術大会
◇◇◇
3の月になり学園が始まった。月の中頃、学園主催の剣術大会と魔術大会が開催される。
去年は、相談役だった3年生のウィルバート様が、準々決勝まで進んで敗れた。ウィルバート様は、宮廷魔術師の内定はもらえなかったけど、個人の研究が評価されて、研究員として<魔術研究所>に勤めることになったそうです。
<魔術研究所>は、宮廷魔術団の敷地内にある研究施設で、魔法や魔物について色んな研究をしているってウィルバート様が教えてくれました。
そう言えば、来賓席にワイバーンの討伐で第二騎士団のギーレン副隊長の補佐をしていた騎士様がいたの。アルバート様とリアム様みたいに、毎年来られていたのかもね。
今年の大会の日時が決まり、魔法演習の授業で2年生からはリカルド様が魔術大会に参加すると発表された。
◇
昼休みの食堂では、みんな剣術大会と魔術大会の話で持ち切りです。私達も、いつものテーブルを囲んで、食事をしながら大会の話で盛り上がっている。
「2年の騎士科は、A・Bクラスからそれぞれ2名ずつ選ばれたよ」
「Cクラスの推薦は1人だった。俺も良い所までいったんだけどな……」
2年の騎士科では、各クラスで試合をして剣技大会に出場する生徒を決めたそうです。
ユーゴが珍しく落ち込んでいたからミアと慰めた。試合の勝敗は対戦相手で変わるから、今回はちょっとだけ『運』が悪かったんだよと。
「ユーゴ、まだまだチャンスはあるよ~!」
「ミアの言う通りだよ。ユーゴ、来年が本番だからね」
「ああ、そうだな! 来年は、剣技大会と総合競技に参加してアピールする!」
ミアと私の励ましに、ユーゴは頑張ると気合を入れた。ユーゴには、騎士になりたいって目標があるから推薦されたかったんだろうな。
剣技大会で、見学に来る騎士団の偉い人(多分、アルバート様と第二騎士団の補佐の騎士様)に認められると、ハロルドさんみたいに庶民でも騎士になれるからね。
「今回の魔術大会で、2年の推薦は『風の貴公子』だけなんですね~」
「そうだね。ミア、僕はスカーレット嬢も推薦されると思っていたよ」
「ミハエル様、そうですよね! お二人だけが、魔法の成績が『A』だと噂されていましたからね~」
うん。私も、リカルド様が推薦されたならスカーレット様もだと思っていた。
「スカーレット様が推薦されなかったのは、1年生の時にアレがあったからじゃないかしら?」
ソフィア様の言葉に、みんなが「「あぁ……」」と頷いた。年少科の時、ミハエル様はいなかったのに、誰かから聞いて知っているそうです。貴族の情報網は凄いね。
「あれって……ソフィア様、私、騎士科と走るようになってから熱を出さなくなりましたよ~。もしかして、グレース先生は今でも報告書を送っているとか?」
「どうかしら? どちらにしても、宮廷魔術師の皆様が見に来られるから、最終の報告書とスカーレット様の魔法が同じ、もしくはそれ以上に成長していないとね」
そうか~。リアム様は毎年大会を見に来ているから、推薦でスカーレット様が魔術大会に出たら、報告書の内容と実際のスカーレット様をチェックするよね。
「あぁ……リアム副団長が来られるのに、迂闊に推薦なんて出来ないか」
ロレンツ様の言葉に、ソフィア様が「ですわね」と頷く。
「リアム様は、少し厳しいと言うか……真面目な方ですからね」
「えっ! リアム様って……アリスは『マルティネス閣下の右腕』と言われるリアム副団長とも親しいのかい?」
私の言葉に、ミハエル様がテーブルに体を乗り出して聞いて来た。ロレンツ様まで驚いたのかこっちを見る。
「親しいと言う訳では……」
ああ……貴族の呼び方は、爵位を継いでいたら『〇〇侯爵』とか『〇〇卿』って呼んで、正式な場では『○○閣下』と呼ぶって一般教養で習ったな。爵位を継いでないご子息とかは、『名前+家名』様とか『仕事+名前』様・『名前+役職名』で呼んだりするとか……あぁ、ややこしい!
それと、『名前』呼びが出来るのは身内で、『名前』+様は親しくなって許可した場合だったかな? 一般教養の試験は今年も『D』だったから、合っているかは自信ないけど……。
本人から許可が無い限り、本人に向かって名前呼びはしないけど、友達との話の中ではスカーレット様とか名前呼びしているから、うっかり名前で呼ばないように気を付けないとね。
ミハエル様は、私が「リアム様」って名前に様付けしたのを聞いて親しいと思ったのね。今まで何も考えずにリアム様って呼んでいたけど、怒られなかったな……私が庶民の子供だから許されていたのかもね。
「リアム・ガルシア様はマルティネス様の側近ですから、アリスとも面識はあるのでしょう?」
「はい、ソフィア様。店に来られたこともありますし、ワイバーンの討伐の時にご一緒しました」
「「ああ、そうだったね」」
ロレンツ様とミハエル様の声が重なった。
あの時は、毎日一緒にお茶を飲んでいましたよ。今更「リアム副団長」って呼んだら何か言われそう……。
「リアム・ガルシア様……ガルシア家って聞いたことがあるよね~」
「私も、どこかで聞いたなって……」
「ミア、アリス、学園長の名前がローガン・ガルシアだぞ!」
「「ユーゴ、そっか!」だから聞いたことがあるんだ~」
ミアと納得したと頷き合っていたら、ミハエル様がリアム様は学園長ローガン・ガルシア侯爵の嫡男だと教えてくれた。
「「へえ~!」」
「それは僕も知らなかったよ……」
「ロレンツ様、宮廷魔術師の方は名前しか名乗らない決まりだそうですから、知らない人は多いと思います。僕は兄から聞いて知っているんです」
「ええ、私も兄から聞きましたわ」
驚いた~! 学園長とリアム様が親子。シルバーの髪で青い目は同じだけど顔は……似てないよ。
「しかし……僕より、アリスの方が上位貴族の知り合いが多いんじゃないかな? マルティネス公爵にエリオット・フィリップス侯爵。リアム副団長も侯爵家だし、『風の貴公子』はフェルナンデス公爵家だよ」
ロレンツ様、そこにリカルド様を入れるのはおかしいと思います。
「ロレンツ様、スカーレット様は~?」
「ああ、ミア、スカーレット様はマーフィー侯爵家だったね」
スカーレット様を入れるのもおかしいです。レオおじいちゃんのことで、何度か話し掛けられただけですよ。
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